・刃、応星愛され
・書きたい部分を書いた
・現パロで応星が高校生、刃が五歳児
・短い
応星は、弟を溺愛している。
自身よりも十一も年下の弟は、まだ五歳児。
応星は歳の離れた弟、刃を兎角可愛がり、生まれた頃よりミルクやりからおしめの交換、寝かしつけも率先してやりたがり、最早、第二の親のようになっていた。
スマートフォンのロック画面は当然のように弟の写真で、カメラロールには何百枚の写真が収められている。
その中でも自身の最高傑作と謳う写真は人物だけを切り抜いて、小器用な手先を以てレジンに封入しキーホルダーまで作る始末。定期的に見せびらかしているが故に、同級生ならば刃の顔を見知っている者は多い。
「応星、お前の弟が来てるぞ」
「え?」
放課後のホームルームも終わり、玄関で靴を履き替えていた集団の一人から応星が声をかけられる。視線の先には女子生徒に愛でられる小さな赤い傘を持った黄のてるてる坊主。もとい幼児用の傘と雨合羽を着た刃が居た。
「にー、おむかえきた」
五歳児が自身と変わらない大きさの傘を精一杯掲げてみせる姿は見る者の心を華やかに彩る。
「お前独りで来たのか?」
「うん!」
ゴールデンウィークも近い4月の終わり頃。
近頃雨が多く、今日も朝から小雨が降ったりやんだりする天気だった。
しかし、昼頃には雨が上がるとの天気予報を聞いた応星は面倒がって傘を差さずに自転車で学校へ行く事を選んだ。が、雨は止むどころか予報に反して粒が大きくなり、容赦なく地上を水浸しにした。致し方なく雨に濡れて帰る覚悟を決めていたところに愛らしい天使がお迎えに来てくれたのだ。
応星は、弟の柔らかい頬を撫で回しながら、嬉しさ半分、困惑半分で顔は笑っているものの若干引き攣っていた。
「どうやってここに来たんだ?遠かったろ?」
「えっとね。にーのがっこー、きいた」
「そっかー……」
家からここまでの道程を考えれば、そこそこの距離を歩き、車が走る公道を渡らなければならない。大きな傘をがりがり言わせながら引き摺りつつ、横断歩道のルールを守りながら人に道を尋ねやってきたのだろう。
「にー、うれしくない?」
「お迎えは嬉しいんだけど、独りで来るのは危ないから困ってるなぁ」
「うれしーのにこまる……?」
自身がどれだけ危険な行いをしたのか全く理解していない刃は、応星の心も理解出来ずに首を傾げ、縋るような眼差しを向けていた。
「あのね。じんね。にーがおかさもってないのきづいたの。だからもってきたけど、だめだった?」
眉を下げ、刃は切々と訴える。
己が傘を持って迎えに行けば、応星が喜んで迎えてくれるとの想定は完全に外れてしまい、 すっかり意気消沈して俯いてしまった。
「うん、気持ちは嬉しいんだぞ。でも、独りでうろうろするのは危ないからさ?」
「にーのいったとーり、てをあげてわたったもん」
周囲を見て、動く物が無いか確認し、横断歩道を渡ることを主張するために手を上げて渡る。確かに応星が教え、それを刃は実行して学校へ迎えにやってきた。にも関わらず、何故注意をされているのか納得がいかない様子で唇を突き出して頬を膨らましていた。今回は余計な成功体験を積んでしまったようだ。
「母さんは?」
「ねてた」
あぁ。応星は嘆息するように声を漏らす。
応星が刃の世話の多くを担っているとは言え、時短で働きながら子供の世話をするのは骨が折れる。ほっと息を吐いた後、疲労から睡魔に抗えず転た寝をしてしまう事とて責められはしない。責められるとすれば、刃の行動力を五歳児だからと油断してしまった点であろうか。
「おお……」
もしや。と、応星がスマートフォンを確認すれば恐ろしい量の着信とメッセージが送られていた。
学校内では、基本的に端末を扱う事が禁止されており、音も振動もサイレントにしていたため、母親からの連絡に気づけなかったようだった。
「応星!あんた、刃が行きそうな場所思いつかない⁉居なくなって探してるんだけど……」
「今一緒に居るよ」
母親に電話をかけて数秒で耳に飛び込んでくる悲鳴じみた声。
相当焦っている所へ、応星が言葉を被せるように言えば引っ繰り返ったような『はぁ?』との声が聞こえた。
「一緒?」
「うん、俺に傘を持ってきてくれた」
「あぁ、うん。無事ならいいわ……」
電話の向こう側で、母親は未だ混乱中らしいが、一応なりとは安心したのか、気の抜けた様子で通話を切った。
「刃、にーと帰ろうか」
「うん」
この一言で若干不貞腐れていた刃は機嫌を直し、応星に抱き上げられると嬉しそうにはにかむ様子は愛らしい。 雨合羽についた水滴で制服は濡れてしまうが、この笑顔と引き換えならば悪い物ではない。小さな赤い傘を畳んで刃に抱えさせると、持ってきて貰った自身の傘を差しながら、応星は自転車を置いて刃と一緒に帰宅する。
「なぁ、どうやっておうちから出たんだ?」
道すがら、応星は今後の対策のために、どうやって脱走したのか探りを入れた。
応星はファミリー向けマンション住まいであり、自宅は四階にある。
脱走するための第一関門は玄関。そこは常に鍵がかけられているはずで、玄関を突破したとて幼い刃が非常階段の重い扉を開けられたとは思えず、また、手が届かないエレベーターのボタンをどうやって押したのかが気になった。
「これでおした」
刃は自身のお気に入りである赤い傘を指差し、得意げに胸を反らす。
いつも見ている大人の行動から、ひっかける、或いは押せれば簡単に動く物と認識し、道具を駆使して困難を潜り抜けた知恵は素晴らしい。が、手放しに誉めようものなら脱走が癖になってしまわないか不安が過り、誉められ待ちをしている刃へ、応星は曖昧に笑い、傘の柄を首で抑えながら柔らかい髪を撫でるに留めた。
帰宅後。
応星と母親により、果敢な挑戦をした事は凄いが、独りで出歩くこと如何に危険なのかを懇々と説明と説得をされ、素直な刃は『わかった。もう独りで出て行ったりしない』と、約束したのだった。
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