・こじふおWeekの【雨・雨宿り】です。
・カプみは薄いですが楓応
・カプみは薄いですが楓応
日も落ちた夜半。
雨は絶え間なく屋根を叩き続け、流れ落ちて水の幕を張り、空気までをもしっとりと包み込む。
応星は龍尊邸の一角に建てられた東屋から滲んだ空を眺め、小さく息を吐きながら眼を細めて隣を見やった。
「龍尊様、貴方様のお力でぱっと空を晴れさせちゃくれませんかね?」
慇懃かつ馴れ馴れしい口調で羅浮の龍尊、丹楓へと懇願すれば、素気なく『無理だ』とだけ返された。
応星は涼しげな表情で酒を口に含んだ丹楓を胡散臭そうに睨み、卓に並べられた燻製肉を一つ摘まんで口へ放る。
「龍尊様は水を操れるんだろう?お前が降らせてるんじゃないのか?」
「天候は羅浮内部に設置された玉兆にて決定されておる。余が干渉出来るものではない」
「へーぇ、俺を帰したくないからここだけ局地的に降らせてるのかと思った」
空になった丹楓の酒器へと酒壺から酒を注ぎ、最後の一滴までをも嫌がらせのように壺を振って一垂らし。
実際、丹楓は水を操る水龍であるため、雨を降らせようと思えば可能であり、『明日早いから』そう言って帰ろうとした応星を足止めするかのように空が水を落とし始めたために、丹楓は嫌疑をかけられている。
「それほど帰りたいのならば、濡れて帰れば良かろう。止めはせんぞ」
応星に注いで貰った酒を煽り、丹楓は余りにも素っ気ない態度で言い放つ。
普通の人間であれば、ここで龍尊である丹楓へおもねるような言葉を使い、機嫌を伺うだろう。が、応星は片眉を上げ、悪童のように笑う。
「酒席に誘ってきたのはお前だろう?それで俺が帰ろうとしたから拗ねたんだ。龍尊様は人の引き留め方も知らないのか?」
丹楓の肩を抱き、顔を寄せながらわざわざ神経を逆撫でるような科白を吐いて頬を突く。
羅浮でも屈指の貴人に対し、余りにも不敬千万。
龍師辺りが見ていれば『短命種如きが龍尊様に何をしておるのか』と、怒髪天をつく所業である。しかし、不敬な扱いを受ける当の丹楓は満更でもない様子で応星の手を受け入れていた。
「お、ちょっと機嫌良くなったか?」
丹楓の艶やかな髪を雑に撫で、応星が酔っ払いらしく、けたけた笑う。
このような真似が出来るのは仙舟の艦隊全てを探しても応星を於いて他になく、彼のみに許された恩寵とも言えるだろうか。
「あ、止んできたな。じゃあ、帰ろうかな」
雨足が弱まってきた事に気がついた応星が丹楓に絡めていた腕を解き、牀から立ち上がれば慌てたように再び強く降り注ぐ雨。
応星が自らの首を撫で付け、視線の下に在るつむじを突く。
「丹楓?」
「知らん」
「素直じゃないなー。あのな、もっと一緒に居たい。帰らないでくれ。って言えばいいんだよ」
「明日早いのだろう……」
気持ちをそのまま口にすれば応星を困らせると思ったのか、丹楓はぽつ。と、引き留められなかった理由を呟いた。
対して応星は、矢張り悪童のようににやにやと笑い、丹楓の隣に体を寄せながら座る。
「人との約束や納期って訳じゃなくて、俺が早めに出てやりたい事があるだけだから、素直に言ってくれれば一考の余地はあるかもなー?」
丹楓も応星も多くを語る人間ではない。
酒も尽き、つまみも食い飽きた。
ならばこの酒宴は解散だ。
続けるためには何かしらの口実が必要だろう。
「応星、今宵は余と共に居てくれないか」
雨が小降りになり始め、丹楓が応星の手を握る。
多くは訊かず、心に応えるように応星は握り返し、柔らかく微笑んだ。
言葉無くとも互いの存在を享受し合い、空間を共有する時間を愛おしむ。
二人が外に出れば雨はすっかり止んでおり、濡れていたのは東屋の周辺だけであった。
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