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スターレイル用

狼が来た
・獣人的な世界観
・赤ずきんパロのようなそのような
・一応ナズ刃
・うさ応星とうさ刃にメロメロになる不死途
・捕食したがる描写がちょっと
・応星は名前無しでちょっとだけ出る




 この世で兎以上にふわふわとして愛らしく、丸々とした美味しそうな生き物が他に居るだろうか。

 狼は切り株の上に座り、葦で編んだ籠からサンドイッチを出して暢気に囓っている仔兎を眺めながら舌なめずりをする。
 この森に住む狼。不死途は警戒心の薄い仔兎へと敢えて和やかな微笑みを浮かべながら歩み寄った。離れた場所から襲いかかって逃げたり抵抗されるよりも、近づいてから一気に噛み殺す方が理に適っているからだ。

「やぁ、ここらでは見ない仔だな?」
 森の東にある兎の集落から来たのだろうと予想は付くが、そこは森に肉食獣を束ねる首領が住んでいる事を知っており、近寄りすらしないはずだった。
「さいきん、ひっこしてきた」
 赤い頭巾を纏った黒い毛の仔兎は悠長にパンを咀嚼し、呑み込んでから答えた。
 狼の耳に豊かな尻尾、それを見ても怖じず言葉に応じる辺り、矢張り警戒心は皆無。言葉遣いは幼く、純真そうな緋の眼が不死途を見上げる。
「そうかぁ、ここは危ないよ?怖い狼さんが居るって教えて貰わなかったのかい?」
「うん……、あ……」
 兎はちら。と、狼の耳を見上げながら眉を下げて答えたが、小さく声を上げるが早かったか、葦籠が動くが早かったか。
 少年まで後、数歩の所で不死途は爆撃を受け、息を呑んで飛びすさった。当たりはしなかったが、不死途の度肝を抜いて動揺させるには十分の衝撃である。
「な、なんだいそれは……」
 若干裏返った声色で訊ねれば、
「かごがたきんじんぜろしき」
 少年から聞き慣れない言葉が出てきて不死途は首を傾げる。
「わるものがちかづくとやっつける」
 籠型金人零式。と、名付けられた葦籠は一見すればただの籠であるが、この仔兎へ不用意に何者かが近づくと自動で攻撃する仕様である。
 不死途が離れたことで、籠から飛び出した手足や銃口は元の籠に中へ収まり、沈黙する。この仔兎が暢気に危険な森を彷徨き、不審人物相手にも警戒心がないのはこの機巧のお陰なのか。
「嫌だなぁ、僕は悪者じゃないよ」
 不死途が機巧を起動させないよう、距離を取ったまま愛想笑いで誤魔化せば、腹が空腹を訴えて鳴る。獲物を目の前にして足踏みをするとは何とも情けない。この仔兎は幼いが肉付きは良く、ふっくらとした若い肉は実に柔らかそうで血色の良さから脂や血も甘くて美味しそうだった。
 ただ、この少年を捕食するためには籠型金人零式を破壊しなければならない。が、先ず気になるのは制作者の存在だ。こんな物を作れる存在がこの仔の身内に居るとしたら捕食は余りにも危険行為である。

 もしも、この仔兎を害した場合、その存在が怒り狂い、森を焼け野原にしないと何故言い切れるか。万が一を考えれば、この森に住む動物までをも巻き込む愚行はとるべきではない。
「えっと……、それって誰に貰ったんだい?どこかのお店で買ったとか?」
「うぅん。にーちゃがつくってくれた」
 念のために確認をしてみたが、詰んだ事が確定しただけである。
 仔兎の兄が、この危険極まりない機巧を作って持たせたのであれば、確実に過保護が確定しているのだ。
 自由を許しつつも、独り歩きは危険なので敵を滅殺出来る確かな護衛を付ける。しかも、相手はどれだけ懇願しようが攻撃の手を緩めるなど決してない機巧。
 余りにも厄介な捕食対象の家族。これはもう逃げの一手である。
「そ、じゃあ、おたくに近づける獣は居ないね。森の散策を楽しんだら暗くなる前に帰るんだよ」
「おなかすいてる?」
「え?」
 少年から話しかけられ、背を向けて去ろうとした不死途は足を止めて振り返る。
「これあげる」
 少年は葦籠の中を弄ると、残っていたサンドイッチを持って不死途に自ら近づき、渡そうとしてくるではないか。無警戒どころか友好的とすらとれる仔兎の行動に、不死途は二度目の度肝を抜かれた。
「おなかすいてるとかなしいもんね」
「え……、機巧止めたの?僕に渡すために?」
 不死途は驚いて葦籠と少年を何度も見比べていれば再度、仔兎はサンドイッチを掲げて渡そうとしてくる。

 あぁ、こんなに無垢な眼で見詰められたら、狩れなくなってしまうじゃないか。

 不死途は仔兎を見詰めながら、心の裡で絶望する。
 狼は雑食寄りではあるが確かに肉食獣で、獲物の肉を食い千切り、骨を噛み砕きたい。と、欲する本能が確かにあった。
 しかし、不死途は同時に愛らしい小動物が好き過ぎる余り、獲物を捕らえても抵抗されると攻撃が出来なくなって逃がしてしまう。兎など大人でも仔供でも、全ての存在が余りにも愛らしく、でも美味しそうで、捕食の本能と愛でたい感情の狭間でのたうち回っていた。不死途がこの森に住んでいるのは遠くからでも兎が眺められるからだ。

 本来なら捕食対象である獲物を愛でてしまう性質は如何ともし難く、部下にも呆れられて仕舞う始末。だから不死途は獲物が捕れずにいつでも腹を空かせているし、狼にあるまじき菜食主義の様相を呈しており、動物性の蛋白質は主に無精卵を分けて貰い、補給している体たらくである。
「ここ、すわっていいよ」
 不死途がサンドイッチを受け取ると、仔兎が先程まで自身が座っていた切り株を叩く。
 小柄な仔兎ならば兎も角、大柄な狼である不死途には少々小さな椅子であるが、誘われるがままに座れば、なんと膝の上に仔兎が飛び乗ってくるではないか。
 不死途はときめきの余り卒倒しそうになり、思わず仔兎を抱き締める。
「それね、じんがつくったの」
「おたくの手作りかぁ。小さいのに偉いなぁ」
 じん。とは仔兎の名前なのか、顔面が溶けそうなほど緩めながら不死途は答え、仔兎用の小さなサンドイッチは一口で消える。
 誉められて嬉しかったのか、仔兎。刃の口元も緩み、表情はどこか得意げになっている様子がまた愛らしく、不死途は仔兎の可愛らしい耳が付いた頭を撫で回す。
「いやぁ、可愛いなぁ。お家に持って帰りたいくらいだ」
「それはこまる。にーちゃがしんぱいする」
「うんうん、それはいけないな。でも、おたくは本当に可愛いなぁ」
 ばたばたと尾を激しく動かしながら、不死途は膝の上の刃を存分に愛でる。
 可愛い食べたい。食べたい、可愛い。交互に訪れる本能と感情。ぴこぴこと揺れる愛らしい兎の耳を囓らずとも口に含みたくなる衝動に襲われ、不死途が口を開けた瞬間、
「てめぇ、こら刃から離れろ!」
 ばぁん。と、破裂音と現れた白兎に怒鳴られ、不死途は驚いて全身の毛を逆立てた。
「え、えぇ……」
「刃を開放して地面に伏せろ」
 空に向かっての威嚇射撃。
 次いで、白兎が持った巨大な銃器の照準は不死途にぴったりとあっている。
「いやいや、僕は何もしてないよ⁉この仔が僕にサンドイッチをくれたから一緒に食べてただけだ!」
 情が湧かない内に食べようとした事実は伏せ、刃の兄であろう白兎に不死途は懸命に弁明した。
「刃、そいつに何もされてないのか?金人の信号が途切れたからすっ飛んできたんだが」
 刃を人質にするでも、銃弾を避ける盾にするでもなく、刃を抱き締めたまま億が一でも銃弾が当たらないよう背を向けて庇いつつ、逃げる様子もない狼に不審を抱いたか白兎は刃に問いかける。
「いいひとだよ。こわがらせちゃかわいそう」
「ほお……」
 白兎は未だ警戒したままだが、刃を抱えた不死途に近寄り、睨みつつも籠形金人零式を確認する。
「破壊された訳じゃないのか。狼が……、兎と仲良くサンドイッチとは、にわかには信じられん……。だが、刃が貴様を庇っているようだから今回だけは赦してやるが、次は蜂の巣だ……。いいな?」
 弟の前で殺生はしたくないのか、不死途の頭に銃口を突き付けながら、白兎は刃の赤頭巾を掴んで籠と共に回収し、東の集落へ帰っていった。

 腕の中から消えた温もりを惜しみながら、不死途は高鳴る鼓動を抑えきれずに居る。
「あんな勇ましい兎も居るのかぁ……。なんて可愛いんだ」
 遠くに見える白兎の背中を眺めながら不死途は呟く。
 兎は肉食獣を阻むために立ち塞がる勇敢な者も確かに居るが、その多くは仲間を逃がすための一次的な行動であり、基本は臆病で立ち向かってくるなど稀だ。
 それが。か弱さを補うよう警護用の機巧を作り、銃器を振り翳して攻撃してくるなど、ただ可愛い兎を愛でるとは違うときめきが不死途を襲う。

 兎の集落に行ったら怖がられるだろうか。
 兎の好きそうな手土産を持って、入り口で待つくらいなら赦されるだろうか。
 不死途の心は小さく可愛らしい黒兎、大きく勇ましい白兎にすっかり囚われてしまい、部下にまで『首領が色惚けた』などと陰で囁かれるようになってしまったのだった。

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