・こじふおweakのお題【海】です
・天真爛漫な五歳児の刃
・出来てる楓応
・三人で海に行く話
・ちょっとお漏らしがある
・天真爛漫な五歳児の刃
・出来てる楓応
・三人で海に行く話
・ちょっとお漏らしがある
夏真っ盛り。
子供達は夏休み入り、持て余した体力を存分に使って夏を満喫するようにあちらこちらを走り回っている。
中には愉悦と涼を求めて海に繰り出す家族も居り、例に漏れず人でごった返す浜辺の一角に応星と刃兄弟、車を出す移動要員として丹楓も随行していた。
「にーちゃ、おしろもっとたかくして!」
「はいはい、じゃあバケツに砂詰めてー」
海には入らず、浜辺で砂の城を作る刃が兄の指示に従い、懸命に幼児用のバケツに砂を詰める刃。
それを微笑みながら眺める応星。丹楓はその背後で日傘を持って二人に日が当たらないよう立っている。
三人共に水着ではあるが、丹楓と応星は日焼け止めを塗り込んだ上でラッシュガードを纏い、ラッシュレギンス、その上にハーフパンツ型の水着を着用しているため、生半可な女子よりも日焼け対策をしている。
無論、美容目的などではなく、丹楓は太陽に晒されての健康な小麦色などとは無縁の肌が真っ赤になる体質で、白子である応星はメラニン色素が足りず、紫外線を浴びすぎると火傷状態になるため健康上の理由からだ。また、水着だけを着用している刃も日差しに弱いため丹楓が出来得る限り日傘で保護していると言った様相である。
「ここに王様の部屋作るか-」
手先が器用な応星は、積み上げた砂を指で削って形を作り、砂で洋風の城を建築していく。それを刃は楽しそうに眺めているが、仮令日差しを遮っていても、潮混じりの温風ような風、猛暑の熱は容赦なく肉体に襲いかかってくるものだ。
「二人とも、随分と汗を掻いている。少し海に浸かった方が良くないか?」
「まだにーちゃがつくってくれてるから」
丹楓が襲い来る熱へ対抗するため海に浸かる提案をすると、頬を膨らませた刃から抗議の声が上がる。今は水で戯れるよりも、自ら砂を積み上げる楽しさと応星が造ってくれる城に夢中になっているようだった。
丹楓は焼ける背中を庇うように日傘を斜めに肩にかけ、自身を守る面積を増やしつつも己にかまけて二人を影で覆う事は忘れていない。
「なら、先に水分を取るといい」
幼児でも飲みやすいように用意したパウチ型の飲料水をクーラーボックスから出し、蓋を開けて渡せば喉の渇きに気付いたのか刃は素直に食いつき中身をあっという間に啜り切ってしまう。
「俺にも頂戴」
「あぁ」
丹楓は応星にも飲料水を渡し、自身も水分を補給する。
己がここに居るからには決して熱中症などにはさせない。との固い意志があり、しっかりと見張り、もとい見守っている。
城が完成すると、刃は満面の笑みで水で固めた砂人形を城の頂上に置くと、
「にいちゃはここにいるおうさま。じんはいりぐちにいて、にいちゃをまもってあげるの!」
意気揚々と独自の物語を展開する。
「おぉ、騎士って奴か?頼もしいなー」
「ふうにいちゃは、おうひさまね。作って上げる!」
手に付いた砂を払いながら応星が刃の頭を撫でていれば、反応に困る科白が出てきた。
「あぁ、良く一緒に居るしなぁ」
「えー、ちがうよ。いつもちゅ……」
「そろそろ海に入ろっかー。浮き輪付けないとな」
余計な事を言いそうだった口を応星が頬を挟んで潰し、言葉を遮られた刃はぶぅ。と、不満を漏らすように息を吐いて少々汚らしい音を出す。
「浮き輪」
事前に膨らませておいた浮き輪を丹楓が手早く刃に被せ、応星がそそくさと抱き上げて海に入る。
未だ人が多く居るが、既に泳ぎ疲れた人間が陸に上がった事もあって比較的、空いていた。自身が考えた物語を語る邪魔をされ、口を曲げていた刃も太陽光で温められた温い海水の中に沈むと瞬く間に機嫌を直し、応星に手を引かれながら水を蹴る。
「おー、上手、上手」
周囲の人間との距離を気にしながら浅瀬から沖に向かって移動すると、水が深くなるにつれ水温が下がり、波に逆らいながら心地好い冷たさに揺蕩っていれば徐々に応星達は流され始め、丹楓が異変に気がつく頃には足の付かない場所まで流されていた。
応星は刃が流されないよう、自身も沈まぬよう小さな浮き輪に捕まりながらも懸命に水を掻いて浅瀬に戻ろうとするも、どんどん沖へと押し戻されていった。
幼児の浮き輪では、大柄な応星を支えるには浮力が足りず、完全に身を任せれば刃を溺れさせてしまう。応星はどうにか自身の力で浮こうと尽力するが焦りもあって上手くいかず、何度も水流に足を取られて頭まで沈む。焦れば焦るほど沖へと流され、応星は刃だけでも。と、考え出した矢先、腕を掴まれ、視線を向ければ丹楓が刃と応星を引いて浅瀬へと移動していく最中であった。
「た、たんふ……、助かった……。溺れるかと……」
「うむ、捕まえられて良かった」
己があれだけ泳いでも辿り着けなかった浜辺へ這々の体で戻り、小さく震えながら泣いてしまっている刃を抱き寄せて応星は慰める。
「にいちゃ……」
「ごめんごめん、怖かったな」
いやぁ、びっくりしたぁ。刃を怖がらせないよう、出来得る限り軽い調子で言いながら小さな体を抱き上げ、荷物置き場にもなっている砂の城へと戻り、応星は腰を落ち着ける。
「戻ろうとしても全然戻れなくて焦ったー。流石、水泳で全国一位取るだけあるな」
溺れそうになった恐怖で未だ心臓が落ち着かない応星が、やはり戯けるようにして丹楓に礼を言えば、静かに首を横に振る。
「恐らく離岸流に捕まったんだろう。あれに嵌まると一気に足の付かない場所にまで流されてパニック状態になり、抜け出すのは難しい。理屈が解っていなければ、泳ぎが得意な者でも流される」
応星が刃を抱き締めながら深呼吸を繰り返していれば、隣に座った丹楓が飲料を差し出しながら隣に座る。
「えー、お前はすいすい動いてたじゃないか?」
「コツがある。離岸流は沖に向かって真っ直ぐ流れているから、横に移動すれば案外簡単に抜けられるんだ」
砂に指で図解を描きながら丹楓が説明すれば、会話をする事で落ち着いてきた応星が感心したように声を出しながら息を吐く。
「そんなのがあるんだなー。兎に角お前が居てくれて助かったわ。ありがとなー」
へら。と、応星が丹楓に笑いかけ、泣いている刃へも安心させるように笑顔を見せるが、大好きな兄が目の前で溺れそうになった光景が幼い心に衝撃過ぎたのか泣き止む気配はない。
「にーちゃ、あのね……、じんびっくりしておしっこでちゃった……」
「え……」
腰に付いている浮き輪を握り締め、刃はもじもじと恥ずかしそうに告白する。
どれだけ抗っても流され、頼れる兄が苦しんでいても何も出来ない焦燥感、水温の冷たさも手伝ったのか海中で漏らしてしまったようだ。恐怖、羞恥、安心、様々な感情が綯い交ぜになって今の刃の心はかなり蕪雑なものとなっている。
「丹楓、ちょっと刃とシャワー浴びてくるわ」
「あぁ、荷物は車へ持って行く」
応星が刃を小脇に抱え、小銭だけが入った財布を手に慌てて併設されたシャワー施設に向かう。
残された丹楓は水分補給用に用意していた二リットルペットボトルの水を頭から浴びて体に付いた塩を簡易的に流すと、タオルで拭いながら荷物を纏めて車へと移動し、ブルーシートを敷いたトランクに荷物を置くと、迅速に移動出来るよう着替え始め、二人を待った。
程なくして合流した三人はどこへ寄ることもなく真っ直ぐに自宅へ帰宅し、水を浴びるだけではなくしっかりと暖かい湯を浴びながら体を流した。
家に帰って落ち付いたのか、既に刃は苦しそうな顔でもなく、泣いてもいないが、
「もう、うみいや……、いかない」
床にうつ伏せで寝転がりながら海がトラウマの対象になってしまった事実を語り、その後も水に浸かると思い出されてしまうのかお風呂拒否勢となり、夏休みの間、応星があの手この手でお風呂へと連れて行く対策が求められることとなってしまったのだった。
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