・歳陽に憑かれる応星の話
・流血や応星が死にかける描写があります
・一応出来てる楓応です
・仲間大好きな応星
・短いです
・ふおこじweakの『駆け引き』のつもりで書いてました(大遅刻
・流血や応星が死にかける描写があります
・一応出来てる楓応です
・仲間大好きな応星
・短いです
・ふおこじweakの『駆け引き』のつもりで書いてました(大遅刻
一見すれば、常と変わりなく鍛造に没頭しているように見えた。
金床に置いた鉄を一心不乱に叩き、冷やし、再び火を入れ真っ赤になった鉄を折り畳んで叩きながら伸ばしていく。
応星は元々、作業に集中していると客が来ても視線すら向けない。
それが仮令、仙舟の元帥であろうと変わらないだろう。
しかし、それを差し引いても異様な光景と言えた。
長時間、鉄を叩き続けていたのか手に巻かれた布には血が滲み、目は鬼気迫るような迫力がありながらもどこか虚ろ。周囲には失敗として放棄された剣が幾つも転がっている。有りと有らゆる素材を使い、新しい組み合わせを模索している様子だが失敗と断じれば放り出しているようだった。普段の応星であれば、心血を注いで作った剣に対してそのような扱いはしない。
丹楓が観察していれば不意にだらりと手が落ち、体がくずおれる。丹楓が咄嗟に受け止め、乱れた髪を払いながら頬を撫でても瞼は閉じられたまま反応しない。
「応星」
名を呼んでも応えはなく、か細い呼吸が繰り返されるばかりで丹楓の眉根に皺が寄る。
「あのう、先生のご様子は……」
丹楓の背後で、尾を丸めたまま一言も発せずに見ていた狐族の職人が怖ず怖ずと声をかけ、心配と不安が混じった視線を応星へと向ける。
「随分と気の巡りが悪い。いつからこうなっていた?」
「二日くらい前からです。ご飯を持っていっても中々食べず、取り憑かれたように剣を作り続けて……」
また一人、持明族の職人が口を挟む。
持明の者には珍しく。と、言っては何だが、殊俗の民を見下す所か応星に心酔し、師事している人物だった。
この二人が丹鼎司へと赴き、応星の様子が可笑しい。と、丹楓を呼びに来た当事者だ。
録に食事をせず作業に没頭して。いつもの事ではあるが。眠りもせず製図を一心不乱に。これもいつもで、挙げ句、床の上で寝ているのも日常なのだが、しかし、何やら可笑しい。
いつもと変わらないように見えて、だけれどいつもと違う。応星を間近で見ている弟子が上手く言えないが、応星であって応星ではないのだ。そう訴える。
訴える者が直感力に優れた狐族と言う事実も捨て置けない。
丹楓が一週間ほど忙殺されていたが、程良く落ち付いて応星の様子を見に行こうか考えていた事も二人に功を奏した。
直ぐに丹楓は工造司へと脚を伸ばし、工房へと入ればいつも通りと言えるものの訴え通りの異質さを感じ取った。応星は過集中し易く、作業に入れば良く食事も抜いて睡眠も疎かにする。それで体調を崩し、仲間から小言を言われる事も間々あるくらいには良くあるものだ。
だが。
「この消耗の仕方は尋常ではないな……」
「はい……、もう手も壊れてしまいそうなくらい叩き続けてて、無理矢理止めたら殺されるんじゃないかって位の形相で睨みながら振り払われまして……」
言葉の途中で恐怖が湧いたのか、狐族の青年が耳を下げながら身を震わせる。
隣に居る持明も耳が下がっており、床ばかりを見詰めているため強い困惑が見て取れた。
「暫し仮眠室を借りるぞ。大きめの桶と拭くものを沢山持ってきてくれ。水は不要だ」
「はい、宜しくお願いします!」
丹楓が指示を出せば弟子の二人は脱兎の如く走り出し、工房にある桶や清潔な布をほぼ応星専用となっている仮眠室へと運び込む。
「ご苦労。呼ぶまで入らないように」
「解りました」
弟子が戸を閉めると丹楓は一つ息を吐き、柔らかいとは言い難い寝台に応星を横たわらせて慣れた手つきで衣服を解くと雲吟の術で呼んだ水を布に含ませて肌を拭っていく。
細かい火傷はめだつものの目立って大きな外傷はなく、矢張り特筆するべきは固い鉄を叩き続けた手の有様。手に巻かれた布は血を含んで固まり、赤黒く変色してしまっており、感染症の懸念も募る。
丹楓が布に水を含ませながら丁寧に剥がせば止まぬ衝撃で皮膚が裂けて血が滲み続けているばかりか、この様子では骨まで傷ついている可能性があった。傷をゆっくりと洗浄しながら癒やしていく。その過程で脈も診てみたが、どうにも弱々しい。
弟子は二日前ほどから。と、言っていたが、食事を碌にしていない事を鑑みても数日の消耗ではなかった。
応星の肉体に触れながら気脈を整え、 出来得る限りの治療を施してはいるものの、力を注げば注ぐほど、まるで底の見えない虚へと吸い込まれていくような感覚に陥る。
「確かに、可笑しいな……」
丹楓は小さく独り言ちつつも、応星の治療を続ける。
二刻ほど経った頃、応星が薄く瞼を上げ、丹楓へと視線を向けて数度瞬きをすると上体を起こして周囲を確認して、目を擦った。
「悪い……、運んでくれたのか……」
「そうだな。倒れるまで没頭するのは良くない」
「わかっては、うん、いる……」
少しばかりぼんやりした様子ではあるが状況の認識能力に問題はなく、意識もはっきりしているようで受け答えも出来ている。ただ、血の気がないためか今にも倒れてしまいそうな儚さが消えない。
「其方の弟子が不安がっておった。長として好ましくない振る舞いだ」
「うるさいなぁ……、他の奴なんか知るかよ……」
応星は丹楓の説教を突き放しながら緩慢な動作で寝台から降りると、己の服を探して部屋を見渡す。
丹楓が脱がせたため、今の応星は裸同然であるが恥じる様子もなく仮眠室の一角に置かれた衣装棚から服を引っ張り出すと適当に羽織り、そのまま工房に戻ろうとしたため丹楓が手首を掴んで止める。
「放せよ。邪魔するな……」
「ならん」
応星は腕力で丹楓には敵わないと知っている。
故に無理に振り解こうとはせずに舌を打ち、睨み付ける事で反抗の意を示しているが、丹楓はそれを冷めた目で見詰める。
「其方が無茶をすると、白珠が悲しむぞ」
「はぁ?だからなんだってんだ。高々狐族の女が悲しんだからって……」
応星の暴言とも捕らえられる言葉は丹楓の手によって壁に叩き付けるが如く押さえつけられたために止まる。
「誰だ貴様は」
応星が白珠を蔑ろにするなど有り得ない。
丹楓の知る応星と、現在、目の前に在る応星。
全てが本人のものであるにも関わらず、許容出来ない違和感がどうしてもついて回る。
応星は生意気を言って白珠を揶揄うことはあっても、『彼女が背中を押してくれたから今の俺がある。彼女は俺の大事な先生の一人なんだ』そう話す応星は、一言一言を噛み絞めるように、大事な宝をそうっと見せてくれるかのように柔らかい声で言葉を紡ぐ。高々狐族の女。などと言うはずもない。
違和感の原因こそ未だ上手く見えないが、これは確かに応星であって応星ではないとの確信はあった。
「誰って言われてもなぁ。お前が大好きな応星だよ?」
へら。と、笑いながら、応星は戯けたように丹楓へと語りかける。
「酷い真似するなぁ。お前等と違って弱っちい短命種なんだぞ俺は。もっと優しく扱えよな」
「下手な物真似で応星を侮辱するな……」
丹楓はこのまま首をへし折ってやりたいほどの激情を抑え込みながら、特に殊俗の民を好んで寄生する生物を思い出す。
「貴様、歳陽か。応星の肉体を奪舎しおったな」
「なんだ良く知ってんなぁ」
指摘された存在は、応星の顔で、応星の声で、顔の筋肉を引き攣らせただけのような気味の悪い笑顔を浮かべる。
丹楓は歳陽と直接対したことは無いが、厄介な忌み物の一つとして知ってはいた。
歳陽は工造司の造化洪炉の中に封じられた無形の炎のような生命体。強い欲望を持つ者、豊かな人生経験を持つ者、心に大きな欠点を持つ者の肉体を乗っ取り、強い感情を最も美味なる食事としている。故に寄生された宿主は心の底から切望するものを際限なく煽られ、可能な限り満たそうと行動するようになってしまう。
結果、自らの生命の維持すら考えなくなり、思考、言動すら歳陽に乗っ取られた果てに喰らい尽くされた人間は何もない場所でも自然発火現象を起こし、致命的な損傷を負う。
これが起これば、先ず間違いなく応星の命はない。
無意識に力が籠もったか応星が苦しそうに藻掻き、丹楓は咄嗟に手を放してしまう。
「ひっどいな。龍尊様は親友を殺したいらしい」
応星の形をした歳陽がわざとらしく咳き込むような素振りを見せ、丹楓の苛立ちは増していくばかり。
「貴様をこのまま十王司の元へと連行する」
知識として、致命傷にならない程度の攻撃を加えれば歳陽が抜け出すと書かれていた事は知っていても、それがどの程度のものなのか。万が一、己の攻撃が応星の命を奪ってしまう可能性、どの程度の衝撃を与えれば歳陽が離れるのか。等と拷問じみた実験をするなど、想像すら唾棄する物で丹楓は手を出しあぐねた。
その僅かに湧いた恐怖を歳陽は感じ取ったか途端に目をぎらつかせ、にた。と、笑い、丹楓が捕らえるよりも早く、無造作に立てかけられていた剣に飛びつくと自らの首に刃を当てる。
「お前、こいつに死なれたら困るんだろう?十王司なんかに行ったら奴等は此奴ごと俺を炉の中に放り込むぞ!それでもいいのか⁉見逃してくれるなら俺は此奴の中で大人しくしててやるからさ、お前の望むことだって何だってしてやる」
余程、この肉体から離れるのが惜しいのか応星を人質に歳陽は丹楓と取引をしようと試みるも、応星の形と声をした異物が応星とはかけ離れた言動をしている事実が丹楓の神経をどこまでも逆撫でする。
「余の望みは貴様が応星の肉体から出ていく意外にない。悍ましい寄生物如きが応星の顔をして喋るな」
言いながら、丹楓は応星の中に居る存在へと威圧するが現状、十王司を呼ぶ以外に打開する手段がない。
「後はよろしくな」
丹楓がどう応星を傷つけずに捕獲するか歯噛みしていれば、不意に空気感にそぐわない声色で語りかけ、迷いなく刃を引いて己が首を切り裂いた。衝撃的すぎる光景に束の間、思考が動かず丹楓は息を呑んで目を見開く。
大量の血を吹き出しながら倒れていく応星の肉体を抱き留めれば青緑の炎が体から溢れ出る。
「何なんだよ此奴!頭おかしいんじゃないか⁉」
叫びながら逃げようとする歳陽へ、丹楓が雲吟の術で発生させた水柱をぶつければ仮眠室の壁ごと霧散して消えた。完全に消滅したかは解らない。その確認をする余裕は今の丹楓にはない。
鮮やかな赤に染まっていく応星と己の衣服。首に手を当てて治癒の術を施すが、傷は塞げても失った血液までは戻せない。部屋の前で腰を抜かしている弟子を尻目に崩れた壁を越え、扉を蹴破る勢いで工房から飛び出し、工造司の星槎乗り場へ駆け込む。
「丹鼎司まで全速力で飛べ!」
丹楓は操舵手に向かって叫び、移動の間は治療に専念する。
丹鼎司に着けば血塗れの龍尊と百冶の姿に動揺する医士や丹士達にへ向かって直ぐ様治療室の開放、輸血の準備を急がせた。
応星は医士達や丹楓の手によって様々な管で繋がれ、三日三晩監視の中眠り続け、四日目の夜にようやっと目を覚まし、状況を理解しないまま工房へ帰ろうとしたため、また一波乱を産んだ。
直ぐ傍に居た丹楓に捕らえられた応星は初めに精密検査を受け、面会の許可が出れば良く見知った雲騎驍衛からの事情聴取となった。それが終われば今度は十王司の判官による取り調べ。終わる頃には空が白みだし、応星は疲労困憊の体で寝台に倒れ込む。
「終わったか?」
「おー、迷惑かけたな」
応星が横になったまま返事をすれば、丹楓は常の無表情にも見えて難しい顔をしたまま寝台の傍に置かれた椅子に腰掛ける。
「丹楓……?」
「あれは、己の意思でやったそうだな。何故だ。判官の元へと行けば肉体を傷つけずに歳陽を捕らえられたかも知れぬものを」
じっとりとした眼差しを向ける丹楓に、応星は苦々しい笑みを浮かべる。
「歳陽に取り憑かれたら、瀕死とまでは行かないまでも気絶するまでぶん殴らないと出て行かないから、どっちみち変わらないんだよ」
そう釈明するが、丹楓の目つきは変わらず応星の口は無駄にぺらぺらと動く。
朱明では、火皇を鍛造に利用している事から歳陽の精神汚染によって発狂してしまう職人が多く、対応や取り扱いには慣れているから大丈夫。と、応星は嘯く。
丹楓の圧に歳陽が怯え、支配が緩んだ束の間の隙に自ら首を裂くような凶行も、審問で時間を食った果てに他人から殴られて怪我をするよりも己の手でやった方が手っ取り早いと思ったから。等と放言するが、そんな突拍子もない解決策は考えついても中々実行出来るものではない。それを一瞬で迷いなくやってしまう胆力は恐るるべきもので、同時に余りにも危うい。
「朱明では火皇相手でも平気だったんだけど、あんな雑魚に憑かれるなんて気が緩んだかなー」
事の重大性を理解していないではないだろうに、笑い飛ばすように軽い口調で応星は語る。
「死ぬ寸前であったのだぞ……」
歳陽に生命力を食われ、限界まで肉体を酷使した末の大量出血。応星が意識を取り戻さなかったこの数日間、丹楓は殆ど寝ずらす治療に当たり、治癒の術を施し続けていた。
いかな龍尊と雖も、失った命は取り戻せない。疲労から目を閉じれば応星が冷たい骸になった悪夢で飛び起き、命在る温かみに触れて息を吐いた回数は片手では足りない。
「本当に悪かった……」
憔悴している丹楓へと応星が手を伸ばせば、両手で包み込み、その温もりを確かめるように自らの頬に寄せる。
「二度とやるな……」
俯き、髪で隠れた丹楓の表情は応星から窺い知れないものの、日常の居丈高で傲慢な龍尊像からかけ離れたか細く震えるような声色を茶化せるはずもなく、
「解った。悪かったよ……」
しおらしく謝るしかなかった。そ
それから数日。
丹楓の許可が下りるまで応星は宮から出して貰えず、自業自得とは言え暇な時間を過ごしていた。
兎に角、安静にして体を休めるよう言いつけられ、しかと監視まで付けられる始末。丹楓が帰ってくればある程度の自由は認めて貰えるものの、仕事もさせて貰えない状況に憤懣を募らせていた。
「丹楓、そろそろ工房に戻りたいんだが……」
「ならん。其方は歳陽の害を甘く見すぎだ」
曰く、見た目こそ回復したように見えても、内側から貪り食われたようなものなのだから暫く経過観察が必要だと言う。
応星は鍛造の天才だとしても医療には暗く、そこは丹楓の言を信じ従うほかない。忌み物に好き勝手扱われるくらいなら命は惜しくないが、安全が確保された以上、無駄死にはしたくない。
加えて言うなら、応星が刃物を持つと丹楓が過剰に動揺するので、これは彼の治療でもあると受け入れるしかなかった。
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