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スターレイル用

愛し子と龍

・モブ視点の楓応
・科白だけだけどえってぃシーンがあります
・応星推しのモブさん
・短い




 応星に世話になったお返しに、いい酒を持って家を訪ねる事にした。
 都合が合えば一緒に呑んでもいいし、礼だから渡すだけ渡して帰っても、どちらでも良かった。

 夜に家を訪ね、門を開いて玄関を叩く。
 昼間は使用人が居るが、夜の時間は帰してるそうだから、本人が出てくると考えていたが、待てど待てど一向に扉は動かない。

 家の中に明かりは点いているのだから在宅の筈。
 はて?と、首を傾げる。応星の事だから、家に仕事を持ち帰って作業に没頭しているか、明かりを消す事も忘れて倒れるように寝たか。そのどちらかならいいが、万が一、強盗に襲われた。もしくは病で倒れていたら。一抹の不安に駆られ、暫し悩んだ後、裏庭へと回ってみる。

 もしも、不審者として通報されても、訳を話せば人の良い応星なら助けてくれるだろう。
 応星の人柄を信じて裏庭に入れば窓に人影が見え、矢張り何かに没頭していただけか。と、胸を撫で下ろした瞬間、なんとも淫靡な声が中から漏れ聞こえてきた。

 これは不味い場面に遭遇してしまった。
 いやはや、色気が無いように見えて応星も男と言う事か。
 なんとなく、知り合いの幼子が急に大人になったような複雑な心境でありながら、面映ゆい心地になり、こそこそと帰ろうとしたのだが、ふと、影に違和感を覚えて視線をやってしまった。

「ぅあ、も……ぅ、ん……」
 甘ったるい鼻にかかった声。
 そういう場面なのは理解するし、影が二つあるのも当然だが、明らかに人の手では無い、鬣がついたような長い蛇の尾が組み敷かれた者の体に絡みつき、覆い被さる者の頭には角が見える。

 おや?
 これは?

 蛇に似た長い尾と、頭に角を持った種族と言えば、この仙舟には龍化した特別な持明族のみだ。その中でも、応星と交流の在る者としたら、あの龍尊しか居ない。
「むり、もぅ……、なぁ……」
 啜り泣くような哀れを誘う掠れ声。
 しかし、声色も、漏れ出す吐息も劣情をそそるような音をしていて、寧ろ相手が余計やる気になりそうな気がしていたら、
「まだたった二時間程度では無いか、もっとお前を味わわせてくれ」
 元気だねぇ。なんて感想が頭に浮かび、見つからないように、抜き足差し足で逃げる間、ほとんど悲鳴のような甘い声が窓から漏れ聞こえていた。

 礼は酒よりも、喉に良い美味しい飴と滋養強壮の薬でも差し入れて上げよう。
「月が綺麗だなぁ……」
 門を出て、しっかりと閉めて天を仰ぎながら、月と星に照らされた夜道を早足で歩き、家路につく。

 私は何も見なかった。
 何も聞いてないし、気づいてもいない。
 なんなら今日、応星の家を訪ねてすらいない。

 そういう事にしておこう。

 □■ーーーー■□

「短命種ってよ、暫く見ない間に変わっててびっくりするよなぁ」
「あぁ、そうだなぁ……、何かあったのかい?」
 職人達の休憩時間。
 外の喫煙所で煙管を吹かしながらのんびり寛いでいたら同じ煙草仲間に話を振られ、話の続きを促す。確かに短命種は、私ら長命種と違ってせっかちだし、いつの間にか歳をとって、いつの間にか死んでいて寂しくなる。
 ともすれば怠惰とも言える長命種と違い、短命種は短い生の中で必死に生き、いつも懸命で健気な人々が多い。
 親しくすればするほど、心に深く自身を刻み込んで、爪痕を残していく。記憶が、想いが蓄積されればされるほど、感情が揺れれば揺れるほど摩耗し、魔陰の身が近づく。などという時限爆弾を抱えた仙舟人にとっての短命種差別は、ある種、防衛本能なのかもな。と、思った程に愛おしい存在になってしまう危険性を孕んでいた。

 実際、私も小さい頃から見ていた応星が、工造司の中でも随一の職人である百冶の称号を得た時は、思わず涙が溢れたくらいだ。
 職人として嫉妬が無かったと言えば嘘になるが、いつでも一生懸命の負けず嫌いで、微笑みを絶やさず、時に悪戯者な彼は見ているだけで笑顔になったものだ。

「応星なんだけどよ」
「あぁ、応星も立派になったよねぇ」
 なんだよ。
 あんたも同じ気持ちか。
 早く言えよ。機会があれば語り合いたかったのに。なんて思っていたら、
「あいつ、元々美形じゃあるが、最近は色気も出てきたよな。短命種ってのは成熟が早いのがいい。こないだ尻触ったら良い感触がして、一発お願いしたいと思ったくらいだったぜ」
「はぁ……」
 思ってたのと違ったな。
 私があからさまに興味を無くしているのに、この馬鹿者はつらつらと続けている。
 応星、こんな痴れ者の相手まで健気にしなくて良いのだぞ?と、言ってやりたいが、今は立場もあるし、面倒事を起こしたくない気持ちも分からないでは無い。

 さて、我が愛し子に下らないちょっかいをかける愚物を如何様にしてくれようか。

 煙管の煙を深く吸い、上を向いてぽか。と、煙を吐き出せば、恐らく応星を訪ねてきたのだろう龍尊の姿が陸橋の上に見えた。これは行幸。
「そうさね。応星なら今、仮眠室で眠っていたと思うが……」
「ほう?」
 急ぎで終わらせたい仕事があるから。と、工房に泊まりこんで仕上げ、先程、大欠伸をしながら仮眠室へと入って行った事実を私は伝えただけ。この痴れ者が、いそいそとどこぞへ行こうが、その先で何が起ころうが知った事では無い。

 一人で煙草をぽかぽかと吹かしていれば、遠くから聞こえた凄まじい雷轟。
 さて、誰ぞが偉大なる水龍に雷を落とされたものか。
 殺されていないといいがな。

 かん。と、灰皿に煙管を打って灰を落とし、袋に仕舞って立ち上がる。

 あぁ、天上にある青空の如く、なんと清々しい心地であるか。

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