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スターレイル用

薬膳団子は愛の味

・応星が可愛い丹楓
・楓応いちゃいちゃしてるだけ
・ほんのりモブが居る

https://x.com/houkaistarrail/status/1889509736703467687
この公式のネタ


 持明族の龍尊、丹楓。
 彼が工造司を訪ねる事は然して珍しくない。
 英雄として忌み物と戦い、強大な力を込められ破損した武器の調整、修理、或いは新調するために訪ねるのだ。

 しかし、ここ十数年は武器を求める以外に、また別の尋ねる理由が加わった。
「百冶殿は在席しておられるか?」
「は、はっ、百冶様は奥の方にいらっしゃるはずです!」
 片手に包み紙を持った丹楓が目的とする人物を工房の入り口で尋ねれば、丸めた紙束を抱えた職人は背筋を伸ばすと紙を床にばらまきながら掌で奥を指し示した。それへ鷹揚に頷いてから丹楓は不摂生を極めているだろう人物の元へと赴く。

 人の声、鉄を叩く音の絶えない工房を抜け、廊下を通り、声もかけずに執務室へ通じる両開き戸を無遠慮に開けば机に突っ伏している頭が見えた。
 丹楓は小さく嘆息すると静かに扉を閉め、仕事をしながら寝落ちしたであろう羅浮、工造司の頭目である応星の白く長い髪を払いながら顔色を確認すれば概ね予想通り。彼の肌には血の気がなく、目の下には寝不足の証であるくまが張り付いていた。
 工房に籠もりがちな彼の肌は元々白く、白皙の肌。と言えば聞こえは良いが、どこか死人然として丹楓に焦燥感を与える。

 丹楓は眉間に皺を寄せ、案の情の有様に機嫌は降下するばかり。
 ただ、苦しげな顔をしながら寝入る彼を無理に覚醒させるような真似は憚られた。

 丹楓は雲吟の術を用いながら応星の体を浮かせつつ自らの腕に納め、壁際に置いてある牀へと腰掛けると額や胸元、下腹と手を当てて乱れている体の気脈を整えていった。
 次第に、苦しげだった寝息と表情が緩み、口の中でもごもごと何をか喋りだした様子を鑑みるに、丹楓の腕の中で暢気に夢を見ているようだ。
「無茶ばかりをしおって……」
 数百、千を生きる長命種が幅を利かせる仙舟に於いて、殊俗の民。要するに短命種は直ぐに弱って死んでしまうか弱い生物との共通認識がある。
 長命種と比してかかる病も多いため、仙舟に留学してきた殊俗の民は数ヶ月に一度、予防接種を義務づけられているのだが、この百冶は注射嫌いすぎて有りと有らゆる言い訳を用いて逃げ回る上に、飲食も睡眠も平気で疎かにする。
 死に急ぎ、生き急ぎ、両方の性質を兼ね備えた実に困った人間である。

 丹楓は応星の睡眠を邪魔しない程度に幾許か血の気の戻った頬を撫で、夢の中でも仕事をしているのか何かを探すように浮いた手を握りながら、後何年この手を握っていられるのか考え込む。
 持明族の龍尊として民を護る責務と種を繁栄させるための研究を目的として生き、何度も転生を繰り返してきたが、今回程、時間を惜しんだ生はない。
 それもこれも応星と出会い、触れ合ってしまったからだ。傍に在るだけでも心が掻き乱され、同時に安らぐ不安定を受け入れてしまったからだ。応星と共に在る世界の美しさを知ってしまったからだ。
 腕の中で身動いで寝息を立てる存在がただただ愛おしい。
「たんふ……」
 膝に乗せたまま飽きもせずに寝顔を見詰めていれば、応星が薄く瞼を開け、宵闇の瞳を丹楓に向けて名前を呼んだ。
「うむ、顔を見に来た」
「あえ、ねてた?うわ、わるい……、おきる……」
 呂律の回っていない寝起きの口と頭を懸命に動かし、応星は体を起こすも視界が回り、ふらついて再び丹楓の腕に支えられる。
「慌てずとも良い。どれ、茶でも持ってこよう」
「いや、龍尊様にそんな事させられないだろう。俺が……」
 仙舟の中でも屈指の貴人である龍尊に茶を供させるなど、本人が良しとしても周囲に何を言われるか分かった物ではない。応星は寝惚けた体を叱咤して立ち上がろうとするも押し止められ、首を振られた。
「構わん。どうせ飲む物が必要になる」
 応星を座り直させ、乱れた髪を整えるように丹楓が撫でながら微笑む。
 民を安んじる立場のため、滅多な事では感情を露わにしない彼の作った柔らかい表情に、うっかり見惚れて呆けた応星は牀に残され、視線が背中を追う。
「む……」
「あ、済みません。覗いていた訳では……」
 丹楓が両開き戸を押せば、応星の弟子が茶を乗せた盆を持ち、真っ赤な顔色で狼狽える。
「茶を持ってきてくれたのか。感謝する」
「い、いえ、その少し温くなってしまいましたが……」
「構わん」
 丹楓が言葉短く盆を受け取り、応星の元へと戻り、持参した包みを開く。
「なんだそれ」
「三両の苔と七銭の解毒丹を入れ、鱗淵境の飲み水と一緒に混ぜた後、それを細かく刻んで錬った山楂で包み込んだ。内臓が発する熱を鎮め、代謝を促進する効果があり、体を強くするのと疲労回復に役立つ」
「へー?」
 小さく丸められた甘酸っぱい香りがする団子を渡され、応星は疑う事もなく腔内に放り込む。が、草団子のような見目から甘さを期待した彼は噛んだ瞬間広がった苦みに身を震わせ、苦渋に満ちた表情と共に目に涙を浮かべた。
「なんだこれぇ……、にえあぁ……」
「間に合わなんだが丸呑みを勧める」
 丹楓手製の団子は、餡の苦みと山楂の甘酸っぱさがお互いの悪い部分を引き立て合い、仄かな甘みはかき消され、強烈な苦みの中に酸味と言う何とも受け付けがたい味になっていた。羅浮最高の医士でもある龍尊の制作物。効能は確実に保証されているだろうが、味は度外視されているようで、応星は差し出された盆に乗っていた茶を一息で飲み干しても残る腔内の苦みに悶え苦しむ。
「にあぁぁぁぁ……」
「飴があるぞ」
 丹楓が懐から別の包みを出し、差し出された応星の手の上に乗せる。
 中身をじっくり観察して警戒を見せた応星であったが、見慣れた市販の砂糖を煮詰めた物と判断し、口の中に入れれば優しい甘さが苦みを中和してくれた。
「ほら、茶を飲め」
「ありがと」
 追加で渡された茶を応星が啜り、一息吐き、執務室の窓から外を眺める。
「応星」
「嫌」
 毒かと見紛う程に、この世の苦みを凝縮したような味わいの団子が改めて差し出されており、応星は頑として丹楓と視線を合わそうとしない。
「早う食せ。最低、一日二粒だ」
「断る。そんなもん食ったら死ぬ」
「死なぬ。寧ろ滋養になる。不摂生を繰り返す其方の為に作ったのだ。消化し易いよう小さく柔らかくもした。何が不満だ」
「味」
「腑に入れば同じであろう」
「もっと企業努力をすべきだ」
「これが最大限の努力だ」
 幾度かの問答を繰り返し、埓が明かないと判断した丹楓が応星の体に伸し掛かり、閉じた口に指を捻じ込んで強引に開かせる。
「いぃぃぃー!」
「疾くと口を開け」
「う゛ー!」
 獣の如き唸り声を上げて拒絶する応星に、丹楓は四肢のみならず龍尾までも駆使して押さえつけ口を開かせて団子を放り込み、雲吟の術で水を呼んで流し込む。
 噛まないまま水で流し込まれたため、苦みは相当抑えられたが、応星は酷く咽せて咳き込む。
「たんふうのひとごろしー」
 おえ。と、応星が嘔吐き、少量とは言え気管に入ってしまった水を苦しげに吐き出した。
「まずぃ、しぬ。ひどい……」
「不味さで人は死なん。そもそも其方が不摂生だらけでなければ余もこのような物は作っておらぬ」
 応星が被害者面をして両手で顔を覆い、めそめそ泣き真似をすれば、説教しながらも髪を撫でて慰める。厳しくも応星に甘い己で遊んでいるのだろうと察してはいれど、突き放しも出来ない。
「次作る時は、もう少々小さくして飴で覆っておこう……」
「それなら……」
「だが、今ある物も飲み忘れるでないぞ」
「うー……、うん……」
 自信なさげな返事に丹楓の目元が厳しく釣り上がる。
「毎度、流し込まれたいか?」
「それはちょっと……、ほら、龍尊様もお忙しいだろうし……」
「幸い、工造司と丹鼎司は隣同士だ。問題ない」
 丹楓が応星の頭を撫でながらも、暗に減っていなければ強制的に流し込む宣言をする。

 応星とても、丹楓の心遣いを無下にしたくはないが、それほど拒否感のある味だったのだ。薬と思って丸呑みすれば。とは思えども、飲むにも勇気が要る。
 今後、改善するにしても食べ物を美味しくするための料理などの経験が無く、寧ろ不得手な丹楓の作る物に味の期待は正直していない。
「頑張って飲むから、無理矢理は止めてくれ……」
「ならば良い。だが、確認には来る故、下らぬ誤魔化しはせぬように」
 しかと言いつけ、丹楓は満足気に工房を後にする。

 応星は残された薬膳団子を両手で持ちながら眺め、ちら。と、塵箱を見やるが考え直して目につき易い執務机の上に置いた。
 味は頗る悪い。しかし、毎日飲んでいれば確かに疲労感が軽減され、寝付きが良く、体調の改善を実感する事となり、自ら貰いに行くまでになったのだった。

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