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スターレイル用

龍の愛しい酔人は

※書いた時期が丹恒・飲月がでたばかりで、仙舟通鑑・五龍遠徙。、黄玄で丹楓のビジュアルが出てない時期です

・R18
・狐ちゃんは名前が出たら追記したい
・右耳ピアス『護られる人』左耳ピアス『護る人』と言うのを昔見た事がある
・ピアスを着ける楓応
・性質が悪い酔っ払い応
・理性を維持しようと頑張る楓
・楓が色々舐めたりする





 応星は酔うと大変悪質だ。
 ただ、その悪質さは近しい人間。
 要するに応星が心を開いている相手のみに発揮される。

 いつかは直ぐに成長する短命種故に、自分よりも背が低くなった景元を捕まえてずっと抱き締めて頭を撫で回していたり、白珠には狐族の大事な尻尾の毛質に感動して頬ずりした挙げ句に抱き締めて寝てしまったり、鏡流の剣の凄さや格好良さをこれでもかと語り続けて彼女の鉄面皮を赤面させたり、そして現在は丹楓の膝の上に乗って龍の尾を弄り回して遊んでいる。
 人で遊びまくった挙げ句、碌に記憶が残っていないらしい点も悪質さを増加させていた。

「つるつるもふもふ……」
 龍尊、丹楓の邸宅にて月見酒の最中、早々に酔った応星が丹楓に懐き始め、龍の鱗の陶器にも似た滑らかさと、鬣の指通りの良さが楽しいのか尾を撫で回し続けて早三十分ほど経った。
 直ぐに飽きるだろうと考えて放置していたが離れ難い手触りのようで中々終わらない。
「応星、尾も感覚が無い訳ではないのだが……」
「くすぐったいとか?」
「そんなものだ」
「んー、もうちょい」
 丹楓の言は半分嘘で半分は本当だ。
 多少触られる程度であれば擽ったい程度で済むが、敏感な神経の通った尾を、こうもしつこく撫で回されていれば下腹部をどうあっても刺激される。
 少なからず応星を想っている丹楓としては早々に勘弁して欲しいのだが、無理に引き剥がそうとすると悲しげに眉を下げてしまうため、それも憚られた。

 故に、飽きてくれるまで杯を持って固まったまま気長に待っているのだが、一向に終わらないばかりか、酒で上がった体温が服越しに伝わり、髪を整える際に使っているのだろう香油の苦みがありながらも爽やかな香りが鼻腔を擽り、拷問にも似た心地になっている。
「お前、どんな石鹸使ってんだ?これ好きかも」
 尾の先にある毛束に顔を突っ込み、すんすんと匂いを嗅いでいる応星に対し、知らず指に力が籠もったのか、小さな音を立てて酒器に罅が入り、中の酒が染み出し滴となって地面にしたたり落ちる。

 藤の花があしらわれた上品な気に入りの杯ではあったが、罅が入ってはもう使えない。
 応星に頼めば上手く金継ぎでもしてくれるだろうが、酔っている今頼んだとて無意味である事は明白である。
「片付けろ」
 丹楓が園林の入り口に控える家人の男を手の動きだけで呼び、酒器を渡そうとしたのだが、
「短命種如きが無礼な……!」
 と、得意げな顔で喚き、何を勘違いしたのか応星の髪を掴んで引き摺ろうとした。
 強く引かれたため、応星の白く艶やかな髪を纏めていた簪が外れ、丹楓の酒器と共に石畳に落ちて硬質な音を園林に響かせる。

「無礼は貴様だ」
 丹楓は持っていた酒器を応星の髪が引かれた瞬間に捨てて倒れそうになった体を抱き込み、家人の手首を掴むと怒りを瞳に滲ませ、牙を剥きながら厳つ霊を発すれば、家人は短い悲鳴を上げ、白目を向いて倒れた。
「大丈夫か?」
「ん、それよりあの人……」
 応星には、自分の髪を引いた持明族男が突然倒れたようにしか見えておらず、頭を摩りながら気にかける。
「あのような愚物、お前が労ってやる道理はなかろう」
「いや、心配じゃ無くて……、やられんのは慣れてるからいいんだけど、後々、別の因縁ふっかけられても面倒だろ?お前のせいで転んだとか、怪我したとか良く分からん理屈で……、一応、医者とかに連れてって、なんもないの証明して貰った方がさ……」
 酔っていてもこの思考が出てくるのだから、応星は自身が関連する出来事で、後から余計な揉め事が起きないよう、対処する癖がついているようだった。
 短命種差別を受ける応星を見た事が無いとは言えないものの、龍尊、剣首、剣首の弟子、舵取の目前で無礼を働く人間は、今のように『許可された』とでも勘違いした愚か者くらいだろう。

 生来の気質もあるにせよ、彼が常日頃、誰に対してでも一定の距離を保ちながら平等に接する行動がただの優しさから来るものではない事、対等に親愛を持ってくれる者に対して猫の仔のように懐く理由の一端が垣間見えた気がして、仙舟に存在する短命種への感情の根深さを改めて実感してしまう。
「気にしなくていい。もう休め」
 腕と尾で応星の体を支えながら長椅子から立ち上がり、倒れた家人の腹を踏む。
 本来なら卵に戻してやっても良いほどの真似をしてくれたが、同じ過ちを繰り返さないよう躾ける必要性を見い出し、仕方なく死なない程度に治療を施してやる。

「俺はなんもしなくていいのか?」
「あぁ、俺が躾けておく」
 ふぅん。と、応星は興味を失ったように息を零し、丹楓に髪を撫でられると肩にもたれながら目を閉じる。
「龍尊様、あの、これを……」
 別の家人が落ちた応星の簪を拾って丹楓に差し出してきたため、黙って受け取り、早急に屋敷に仕える者だけでも下らない真似をしないようにしなければならない責務に頭を悩ませる。
 言い聞かせた程度では生温い。生半可な対応では丹楓に見えない場所でやろうとするだけで、根本的な解決にはならず、無意味でしかない。

 全体の差別を無くすは容易ではないが、応星を護るだけであれば、どうとでもなる。
 それには一目で判る何かが必要だ。

 酒精に浸った体に、ゆらゆらと運ばれる感覚が心地良かったのか、眠ってしまった応星を寝台に横たわらせ、髪を、目元を、耳を、首筋を撫で、丹楓は思索に耽る。
 手の中にある応星の簪を見詰め、簪を贈るのはどうかとも考えたが、本人が好んで身に着けている物と思われては意味が無い。誰が見ても目につく物。かつ、応星にとって邪魔にならない物である必要があった。

 基本的に、身につける物は服から装飾品から人任せにしている丹楓に思いつく物は多くはなく、寝顔を眺めているだけで夜は明け、目を覚ました応星に驚かれ、悲鳴を上げられてしまった。

◇ー▇ー◇ー▇ー◇

 応星を工造司へと送り届けてから丹楓は星槎に乗って移動し、町を探索する。

 装飾品売り場に何か無いか。と、思っての行動だが目新しい物は然程なく、諦めかけていた時である。

 市場の隅に、ぽつんと置かれた露店が視界に入り、近づけば仙舟では余り見かけない意匠が施された装飾品が並んでいるようだった。
 店主の男は服装から見ても、別の惑星から来た行商人ようで、物珍しさも納得であった。
「店主、これは耳飾りか?仙舟で見るものとは少々形が違うようだが?」
「あ、はい!私がつけてる奴みたいに、耳朶に穴を開けて飾る物なんです!耳朶に挟む物よりも固定しやすくて、痛みが少ないんです!あ、いや、穴を開ける時は、ちょっと痛いですけど……、使い易いんですよ!でも……、仙舟人の方は、その、耳に穴を開けても直ぐに塞がるからと人気が無く……、狐族の方は耳に穴を開けるなんてとんでもないと言われ……あのお耳にピアスは可愛いと思うんですけど……」
 露天の店主は自身の耳についた輪っかを見せながら喰い気味に丹楓に迫り、この耳飾りの素晴らしさを語りつつも、直ぐに悄気て愚痴を零した。

 ふむ。と、丹楓は鼻を鳴らし、蓮華の形をした金色の耳飾りを手に取りながら眺める。
 仙舟人の厄介さの一つに、豊穣の呪いのため、生まれ落ちた瞬間から身体の特徴、容姿、心のあり方、身長までが永久的に血肉の遺伝子に刻まれ、体を変えようとしても本来の姿に戻ろうとするためにどれほど変化を望んでも維持出来ない点がある。譬えば、目に光を宿さなかった者が、光を求めて自身にどれだけ改造を施そうとも。
 これも、飾るために耳朶に穴を開けた所で強制的に体が戻ろうとするが故に、購入した所で。と、人気が無いと見える。
「美しいがな……」
「でしょう!でしょう⁉特に今手に持たれてる蓮華座をイメージしたのは自信作なんです!あと、これも!」
 褒められて嬉しかったのか、店主は丹楓の前に耳飾りを並べ出し、石榴石を填め込んだ物と、蝋燭の炎を簡素に描いた棒状の布飾りがついた対の物を見せてくる。
「綺麗な赤でしょう?いい石が手に入って、でも同じデザインじゃなってなって……!仙舟って物作りでも有名ですし、ほら、炎とか欠かせないでしょう⁉耳につけるとひらひら動いて炎が揺らめいてるような感じになっていいんですよ!」
 やっと興味を持って貰えた興奮から説明も回らなくなってきた店主を半ば無視し、丹楓は深い紅が応星の白い肌に映えて合いそうだ。と、想像を巡らせている。短命種なればこそ穴が強制的に塞がる事もなく、耳に固定が易ければ落とす事もない。垂れ下がった飾りが目立つのも良い点だ。
「買おう。幾らだ?」
「ありがとうございますぅー!割引しますね⁉」
「要らん、書いてある値段のままで良い」
 店主の声が大きく通るため、やたらと注目を浴びて煩わしく、早く退散したしたいがために急かすが、何を勘違いしたのか満面の笑みと輝いた目で丹楓を見詰めてくる。自身の作の価値を見いだしてくれたのだ。そんな圧をひしひしと感じ、なんとなしに応星と同類の職人気質が垣間見え、短命種の職人は皆こうなのか。などとまで考えた。
「じゃあ、えっと、じゃ、穴を開ける道具とか、その、蓮華のもおまけしときますね。ありがとうございます!」
 えへえへ。と、店主は嬉しそうに笑いなが小さな小袋に装飾品を諸々を詰めて渡してくる。
 丹楓は袋を受け取り、多めの金を払って去れば、お客様ぁ⁉と、背後から叫ぶ声がしたが、早く移動したかったため、無視して龍の姿となり、工造司へと飛ぶ。

「応星に用がある」
「はっ、はい⁉どうぞ!」
 丹楓は龍の姿を解き、工造司の入り口に立つと門番へ入司の許可を仰ぐ。
 龍のまま飛び越えて入っても良かったが後々、煩雑な手続きや法絡みの面倒事になる可能性を考えれば、正規の入り口から門番の許可を得るのが一番の近道である。門番も拒否などはせずに直ぐさま門を開け、深々と頭を下げながら見送ってくれた。

 真っ直ぐに応星の居る工房へ赴けば、筆を片手に図面と睨み合っている姿を見つけ、
「休憩しろ」
 と、筆を奪い、体に尾を巻きつけてぶら下げながら連れ去る。
「少し痩せたか?軽い」
「そもそも体重計ってないから知らんけどお前が言うなら痩せたんじゃないか?」
 図面の作成に行き詰まっていた事もあり、早々に抵抗を諦めた応星が尾にぶら下げられたまま龍尊と会話をしながら拉致されると言う奇異なる光景に周囲はざわつくが、本人たちはどこ吹く風である。

 工房の奥にある休憩室にて、先程、丹楓が買ってきた装飾品を見せれば、応星は直ぐに興味を示し、目を輝かせた。
「これで穴空けるのか」
 仙舟では見かけない道具にも好奇心が刺激されるのか、針のついた掌に収まる程度の長方形の器具を上から下から覗き、これでもかと弄り回している。
「説明書も入っている」
「あ、見せて」
 しっかりと説明書を確認し、応星が使い方を把握したようで一つ頷き、
「じゃあ耳出せ」
 紙袋に入っていた滅菌用の酒精と共に穴開け道具を構え、丹楓に顔を寄せるように要求する。
「俺が?」
「お前が着けたいから俺のとこに来たんじゃないのか?三つも入ってるし」
 三つ?と、不思議に思いながら袋の中身を確認すれば、穴開けの道具が応星が手に持っている物を含めて四つ。石榴石の物が二つ、金蓮華が一つ入っている。金蓮華も対だったはずだが、店主が浮かれ過ぎて入れ損なった。或いは、丹楓が声をかけた店主を無視した結果である。
「これはお前に買って来た物だ」
 自分への贈り物とは微塵も考えていなかったのか、道具を奪って石榴石の嵌められた耳飾りを渡せば、応星は美しい紅を気に入ったようで、石を摘まんで光に透かしながら表情を綻ばせていた。
「ありがとな……」
「うむ、ではじっとしていろ」
「はいはい」
 応星が髪を掻き上げ、右の耳を丹楓に差し出す。
 常からの信頼故か、行動には迷いも緊張もないようだった。

 丹楓が耳を消毒し、針を当てて薄い耳朶を貫けば、応星は皮膚を突き破られる感覚に顔を顰める。
「思ったより痛くは無いけど……」
 道具を外せば、小さくも透明度の高い樹脂を填め込んだ赤色の飾りが出てきて応星の耳元を華やか魅せる。
「ふむ、これを穴が固定されるまで着ければいいのか?」
 丹楓が説明書に目を走らせ、直ぐに贈った装飾品を着けて貰えない事を残念に思いながら、もう片方にも針を通し、応星の顎を掴んで右に左にと顔を動かしながら満足気に口元を緩ませる。
「丹楓も着けろよ。これ似合うと思うぞ」
「悪くないな」
 応星が金蓮華の耳飾りを丹楓の左耳に当て、再度道具を構えて見せる。
「では頼む」
「任せろ」
 丹楓が髪を掻き上げて左の耳を差し出せば、応星が手早く消毒し、針が耳朶を貫ぬいて翠の樹脂が嵌まった飾りが光る。
「いいんじゃないか?格好良いぞ」
「お前がそう言うなら気に入った」
 互いに機嫌良く顔を見合わせ、耳飾りを分け合い休憩室を出れば応星は気分転換になったのか直ぐに図面の作成に戻り、龍の加護をつけた目につき易い装飾品を渡せた丹楓は満足して丹鼎司に帰還する。

 翌日、丹楓が金蓮華の飾りに付け変え、龍師達と顔を合わせれば、
「御身に傷をつけるなど、何を考えておいでですか!」
 などと、口々に喧しく言われたが、
「吾がそうすると決めたからつけた。高々飾り一つ、なんの問題がある?」
 丹楓が冷めた目で龍師達を睥睨すれば、わなわなと体を震わせながらも口を噤んだ。
 龍尊としての使命が、役割が、持明族の復権が、常々龍師達は丹楓へと長としての役目を語る。

 丹楓自身が、龍尊としての立場を望む望まざるに関わらず。

 龍師達に必要なのは『龍尊』であって、『丹楓』ではない。
 大勢の持明族に囲まれながらも、皆が見ているのは『龍尊』であり『丹楓』を見てくれる存在は殆ど居ない。
 民への責任感、情が皆無か。と、問われれば否ではあるが、深くはないのも事実で、何百、何千年と役割を熟すだけの無機質だった丹楓の心に情を与えてくれた人物と天秤にかければ、どちらに傾くかは考えるまでもない。
 丹楓にとって、龍師達の下らぬ長言よりも、応星のたった一言の方が余程重要で、愛おしむべき声だ。

「暫し出てくる」
 仕事を終わらせ、夕闇が迫ってきた丹鼎司の町に出でて星槎に乗り、工造司の工房へ赴けば応星は居たが、机に突っ伏して眠っていた。帰ろうとしている他の職人が、昨夜は泊まり込んで作業をしていたようだ。と、教えてくれ、丹楓は眉を顰める。

 自身の食事、睡眠よりも物作りを優先させるような時間が惜しくて仕方が無い性格は良く知っている。
 丹楓としては、ただでさえ百年も生きない短命種の彼に無理をして欲しくは無いのだが、それとは裏腹に、応星にとって何よりも大事なはずの時間を己と共に過ごしてくれる事実が嬉しく、日に日に想いは募るばかり。

 隣に立ち、安らかな寝息を立てながら眠る応星の髪を指で梳きながら撫でれば、左の耳に石榴の石が飾られており、丹楓の口角が上がる。
 湧き上がる愛おしさに髪を撫でるだけでは飽き足らず、唇を落とせば気配を感じてか応星の瞼が開き、丹楓を見て寝惚けつつも笑いかける。
「おはよ……」
「あぁ、良く寝ていたな。こんな所で」
「寝起き早々、説教は勘弁……」
 凝った体を解すために応星が腕を上げて大きく体を反らし、息を吐くと耳につけた飾りが揺れる。
「良く似合っているようだ」
「お前もな」
 応星が自身の右耳に下がった飾りを指で弄り、丹楓の耳を見て微笑むと、呑む動作をしながら
「今晩どう?」
 と、訪ねてきた。
 図面の作成を終えて息抜きがしたくなったのだろう。
 丹楓に断る理由はないため二つ返事で頷く。
「それじゃ、一時間後くらいに落ち合うか」
「そのまま来れば良いではないか?」
 直ぐにでも手を引いて行きたい丹楓が、やや急かすように提案するも
「昨日帰ってないし、流石に身綺麗にしときたい」
 そう言われれば納得する他なく、了承する。
「では、今日はお前の家に行こう」
「いいのか?俺のうちに龍尊様のお宅みたいな見栄のいいもんはありませんけど?」
「お前が居れば良い」
「最高の口説き文句だな」
 少しでも離れている時間を短くしようとの提案を戯けながら応星が受け入れ、丹楓が酒を持ってくる約束を交わし、一時行動を別にする。

 酒屋の店主が勧める物を買い、丹楓が応星の家を訪ねれば風呂から上がったばかりなのか、髪を濡らしたまま、足首まである長く白い中衣だけを纏った応星に出迎られ、無駄に下腹がざわつく。
「こんな格好で悪いな」
「構わん」
 丹楓は平静を装いながらも、慌てて出てきたのか応星の滴が垂れる上気した肌や、中衣が濡れて透けた様子を目で追う。本来、持明族に生殖は必要ない筈が、応星と対する度に雄である己が性を自覚せざるを得ず、我が事ながら重傷だとは恥じ入れど、受け入れて貰えるのであれば、今直ぐにでも体を暴きたい欲求は拭いきれなかった。

「俺も簡単なつまみ買っといたから、入れ入れ」
 丹楓の心の内を知らない応星は楽しげに跳ねるように室内を歩き、物がない簡素な自室へと案内する。
「ほんと何も無いけど、月くらいは見えるぞ」
 居室の窓を大きく開き、室内に爽やかな空気を取り入れながら窓際の長椅子に座って小さな卓を囲めば酒が進んでいくが、寝不足と疲労のためか早々に酔いの回った応星が丹楓の体にもたれかかって懐きだし、先日以上の無防備さに丹楓の理性にごりごりと鑢がかけられていく。
「応星、もう休め。疲れているのだろう?」
「もう?お前と居るのに寝るのなんか勿体ないなぁ……」
 物作りと同等に、丹楓と共に在る時間も惜しむ様子が健気で、酒を含む唇に食らいつきたい衝動を押し殺していれば、
「あ、じゃあ一緒に寝るか?泊まってけよ」
 などと、爆弾を落としてくるのだから堪ったものではない。
 共寝はまだ友人の範疇であった頃にした事はあるが、想いを自覚してからは自宅の広い寝台ですら避けてきたと言うのに、応星宅にある一人用の寝台で共寝など、どう足掻いても体が密着する状態で不埒な真似をしない自信はなかった。
「なー、まだいいだろ?」
 応星が丹楓の肩を抱き、身を寄せれば胸の柔らかい肉が腕に当たり、そこからぞくぞくとした心地好さが広がり惑わされそうになる。
「応星、帰るとは言っていない、だから……」
 丹楓が応星を見ないように顔を俯かせて窘めようとすれば、足を組んで袂がはだけ、剥き出しになった白い太腿が見えて目を剥く。
「お前、褲は……?」
「ん?あぁ、お前が思ったより早く来たもんだから忘れてた」
 けらけら笑いながら、応星は裾をわざと広げて足を見せる。
 風呂から上がったばかりで慌てて水気を拭い、中衣を羽織っただけで下着すら身につけずに出迎えた事まで発覚し、せめて、後十分遅く来ればこのような事態にならなかったのでは。と、急いた自らの失態を内心で嘆き、同時に、自分に劣情を抱く者など居ないとばかりの行動に思い知らせてやりたくもなる。
「す……、まなかった、な……」
「いいよ、どうせ家だし」
 俯きながら完全に顔を背けた丹楓が余程落ち込んだように見えたらしく、応星は慰めるために体を抱き寄せ、髪を撫でる。
「すまんが、帰る」
 辛抱も限界に達しそうになった丹楓が応星を押し退け、立ち上がれば袖を引かれ、眉を下げる表情に胸が痛むが、このままでは本気で押し倒して乱暴してしまいかねず、ずくずくと疼く下腹に力を込めながら息を整える。
「丹楓、一緒に寝よう?」
 他意は無い。
 応星はただ、友人との別れが寂しいだけ。そう自身に言い聞かせるも、
「お前を抱いていいなら……」
 本音が口からまろび出て後悔が過る。が、一瞬だけ目を瞬かせた応星の口から、いいぞ。などと肯定されたのだから、心臓が殴りつけられたような痛みを伴って跳ねた。
「解って言ってるのか?」
「丹楓ならいいよ」
 酔った緩い表情で微笑みかけてくる応星に、儚く繋ぎ止めていた最後の理性の糸も切れ、横抱きにすると、隣の寝室への扉を蹴り破る勢いで入り、寝台に倒れ込むようにして押し倒して唇に食らいつく。

 息をも喰らい尽くすように貪り、腰紐を奪えば中衣以外なにも身につけていない応星の裸体は容易く空気に晒され、薄暗闇に白く浮き上がる。
 しっとりと汗ばんだ肌を掌で撫でれば吸い付くような滑らかな感触で丹楓を愉しませ、色の薄い乳首を口に含みながら性器を弄ってやれば応星は鼻にかかったあえかな声を零して身をくねらせた。
 嫌がっている様子はない。ただ、恥ずかしいのか両手で顔を覆い、丹楓の与える刺激に耐えているようだった。
「怖いか?」
「解らないけど、丹楓に触られるのは好き……」
 性的な行為に関する知識の有無はさておいて、酔うとべったりくっついてくるのは触って欲しい気持ちの表れで、今までの忍耐は一体。などと、嘆きたくはなったが、その結果、こうして触れ合えるのだと切り替えれば無駄ではない。

 耐えた分を今日味わえば良いとばかりに遠慮無く体を撫で回していけば応星の体温は高まり、呼吸が乱れ出す。次いで後孔に指を入れて体内の肉を味わいたい気持ちもあるが、龍の爪が応星を傷つけてしまいそうで触れられず、ならば。と、足を持ち上げ、舌を用いて丹楓自身を受け入れられるように時間をかけて解していけば、愛らしく鳴く声が絶え間なく聞こえ、期待が昂ぶっていく。
「な、んで、んなとこ……」
「お前を傷つけないために大事な事だ」
 直ぐにでも性器を体内に押し込み、揺さぶりたい衝動はある。
 しかし、応星が初めから快楽が拾えるとは考えられず、痛みがあれば今後、行為を嫌がられてしまいかねないため慎重に進めていくべきである。我ながら健気な事だ。と、自嘲しそうになるが、万が一にも応星に嫌われては、想像だけでも気が狂いそうになった。
「痛かったら直ぐに言え」
 丹楓が衣服の前を寛げ、体内に収まっていた長大な性器を出して応星の後孔に当て、ゆっくりと沈めていく。初めは浅く、形を馴染ませるようにしていけば、応星は敷布を握り締めて身悶え、涙を浮かべながらも丹楓を見詰めている。

 実に愛い。

「心地好いか?」
「わか……ないけど、へん……」
 快楽とは言い難くも苦痛では無いと確信し、少しずつ性器を奥へ押し込み、
「ゆっくり覚えていこうな」
 言葉通りに丹念に世界が白み出すまで抱き続け、その間、何度も吐精して体力が尽きた応星の、ぐずぐずに蕩けてしまった体を、丹楓がうっそりと目を細めながら満足気に抱き締める。

 応星の家を管理する家人が来る前に簡単に体を清めてやり、起きるまで待っていたのだが、待てども待てども目を覚まさない。
 呼吸は正常、眠っているだけではあるが、人の身に無理強いをしただろうか。と、丹楓が顎に手を当て、首を傾げながら考え込む。
「あれまぁ、龍尊様……」
 通いの年老いた家人が寝室に顔を出し、驚いたように声を上げる。
 手には酒器の乗った盆を持っていたため、応星が誰かを招いて呑んでいた事には気づいていても、まだ客人が居るとは想像だにしなかったようだ。
「長居したな」
「い、いえいえ!お構いも出来ませんで……」
 家人が立ち上がった丹楓に慌てたように頭を下げる姿を尻目に、一時丹鼎司へ帰還する。

 黙って一晩帰らなかった事をくどくど喧しく龍師に説教を受けたが、所詮この身はどこに居るのか、何をしているのかは常に見張られているのだ。
 この説教も、思い通りにならない『龍尊』を躾けているつもりなのだろう。
「終わったか?」
「貴方様はもっと龍尊の自覚を持って下さらないと困ります!あのような短命種如きに執心されるなどみっともない!全く、アレがさっさと居なくなれば……」
 隣に立つ龍師の言が途切れたため、見終わった書類を渡そうとすれば聞き捨てならない科白が聞こえ、丹楓の眼が険しく釣り上がった。
「あの者を害する奸計を企てれば持明族全てが卵にすら戻れなくなると思え……」
 龍師の胸ぐらを掴み、憤怒を声に滲ませながら丹楓は宣言する。
「いえ、そんなつもりでは……、私はただ早く目を覚ましていただきたいと……」
「そも、吾は惑うてなどおらぬ。龍尊としての役目とて果たしておろうが」
 龍師の胸ぐらを放し、ぬる。と、丹楓が立ち上がる。
 睨み据える眼光は、瞳孔が完全に開き切っており、失言をすれば直ぐにでも頸を落とされそうな恐怖に龍師は震えた。
「心得よ。彼の者に一指でも触れれば吾が赦さぬと……。周知せよ。持明族全てに……」

 応星は、持明族龍尊、丹楓にとっての逆鱗であると。

「聞こえたか、平伏せよ。愚物めが」
「はっ!ははぁ!」
 龍師は床に額を擦りつけ、這うように執務室から去って行った。
「今直ぐにでも滅ぼしてくれようか……」
 丹楓が乱雑に椅子に座り直し、不穏な科白を呟けば本気でやってしまいたくなる。
 だが、そうしてしまうと罪人として幽囚獄へと幽閉されてしまい、応星との逢瀬が果たせなくなる。と、判断する理性はあったため、不機嫌に鼻を鳴らすだけで済ませた。

 仕事はまだ残っていたが、憤怒が腹に溜まった状態では進むものも進まず、舌を打って長嘆し、応星の顔でも見て心を落ち着かせようと考える。
 しかし、工造司の応星の自宅を訪ねれば、家人がまだ寝ていると告げた。
「申し訳ありません、一度は起きられたのですが、小用を済ませたらまた眠って仕舞われて……」
「少し通していただいても宜しいか?」
「えぇ、えぇ、無論。起きられると良いのですが……、お茶でも淹れて参ります」
 家人に案内され、寝室に通されるが、それでも応星はうつ伏せになったまま安らかな寝息を立てている。
「旦那様ったら、起きられませんねぇ……、折角龍尊様がいらっしゃっているのに……」
 茶を淹れた家人が困ったようにぼやく。
「昨夜、少々酒が過ぎたためだろう。ゆっくり眠っているようなら良い。あれは働き過ぎだからな」
 渡された茶を口に含み、応星の髪も衣服も乱したままで赤子のように眠る寝顔を眺めていれば先程までの憤怒は嘘のように霧散し、心が穏やかになっていった。

 持明族の躾を自身でも思わぬ形で実行してしまったが、特段、後悔はなく、寧ろ考える手間が減った行幸と考えれば良い。
「では失礼する」
「いいえ、お構いも出来ませんで」
 家人は深々と頭を下げ、帰り際に、
「あの子をどうぞ宜しくお願い申し上げます。危なっかしいですから」
 と、慈悲深い眼差しを向けて言葉を紡いだ。
「相分かった」
 応星に仕える家人は、真の子の如く情愛を以て接し、想っている事が良く知れた。
 より、丹楓の機嫌は好転し、丹鼎司に戻る気にもなれた。

 ただ一つ、落胆したのは次の月見酒の際。
「俺さ、この間、変な事しなかったか?気がついたら二日くらい寝ててさ、体も頭も痛いし、何も覚えてないしでさぁ……」
 などと、応星の大笑いしながらの発言である。
 あれほど情を交わしたと言うのに、何一つ記憶が残っていなかったらしく、丹楓の顔に生温い笑みが作られた。

 次は否応なしに記憶に刻まれるほど抱き潰してくれる。

 との、決意と共に。
 ただし、丹楓が席を立った際に、火照った顔を押さえながら、やっぱ夢かな?と、首を傾げる応星が居た事には気づいていなかった。

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