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スターレイル用

教育係の弊害:前


・ハンター妄想、捏造しかない
・穹君のお師匠様になる刃ちゃん
・カフカママ大好き穹君
・いちゃいちゃはしてない、まだ+くらい
・動物を殺して食べてます





 刃が星核ハンターとして活動し、どれほど経ったのか数える事も面倒になった頃、それは現れた。
「刃ちゃん。この子、鍛えてやって頂戴」
 カフカに連れられた人間、歳の頃は十七から十九歳ほど。
 刃よりは低いものの身長があり、すらりとした体躯ではあるが決して華奢とは言い難く、目にかかりそうな灰色の髪を無造作に整えた美形と言える少年。大きく、釣り上がっている濃い黄金色の眼が、意志の強さを物語るように刃を見据えている。

「んー、この子、名前がまだ無いから呼び辛いわね……」
 カフカが頬に手を当て、考える素振りを見せる。
 自我や記憶を失った状態でカフカに拾われでもしたのか、幾許か、自身と似た境遇を感じた刃が少年の様子を伺いながら回答を待っていれば、彼女は悠然と微笑み、
「思いつかないから、好きに呼んでいいわ」
 完全に刃へ丸投げしてきた。
 適当な名前を思いつかずに面倒になったのだろう。
「この小僧に戦い方を教えればいいのか?」
 カフカの気まぐれはいつもの事。
 一々気にしていては神経が持たないと身を以て知っている刃は敢えて指摘をせずに流した。
「えぇ、お願いね。この子の運命は波瀾万丈だから、戦う術を覚えておかないと、脚本が頓挫してしまうの」
 刃にとっても、それは由々しき問題である。
 エリオの脚本には、刃が焦がれて止まない終焉が用意されているはずで、それが頓挫してしまえば己は永劫を生きる狂った化け物のままである。ただでさえ遠い彼岸から遠ざかるくらいならば、少年の一人や二人鍛えてやっても構わない。
「どこでやればいい?」
 星核ハンターが星間移動に用いる舟自体は決して手狭ではないが、戦闘には不適切で舟を傷つければ最悪、宇宙に放り出されかねない。それこそ、死と復活を永遠に繰り返す地獄となるだろう。
 正しいと疑わず、命を弄ぶ行いを試みた身には相応しい罰だとは思えど、進んで受けたいものでもなかった。

「近くに丁度いい惑星があるから、暫くサバイバルしててね。私とサムは他の用事があるから、終わったら迎えに来るわ」
 カフカの計画では、この少年と刃を生存に不足がない惑星に降ろし、自らの用事を済ませてくる段取りのようだった。過酷な運命を辿る者に、どんな環境であれ生きる術を叩き込め。との腹づもりであろう。
「解った」
「こいつとずっと二人で居ろって?俺はカフカと一緒に居たい……」
 刃は構わず了承するが、少年が端正な顔を歪め、カフカへと苦言を呈する。
「だーめ、私は用事があるんだから。それに、この人は優しいから大丈夫よ」
「全然、そうは見えないんだけど……」
 嫋やかに、しかし頑として譲らない姿勢で不服を訴える少年を宥め、説得するカフカを見ていれば、次第に窓の外が暗い星の海から茜の空へと変じ、西の方角から明かりが差し込んでくる。
「ここは無人の惑星なのか?」
「無人ではないけれど、あまり発展はしていないわね。山奥に降ろして上げるから、後は好きにやって頂戴」
「解った」
「ここ?ゲームもなんも出来なさそうなんだけど……?」
 まだ不満を漏らす少年の首根っこを掴み、廊下に出ればカフカが用意してくれていたのだろう荷物を拾って刃は外に出た。

 降りた場所は開けた平原であったが、遠くに広がる森林は樹海と表現しても遜色ないようで、刃はいつか己が彷徨っていた場所を思い浮かべる。
「じゃあ、後は頑張って」
「やーだー!カフカー!」
 絶叫し、刃の手から逃れようと暴れる少年を余所に無情にもハッチを閉め、窓越しに手を振るカフカ。
 暴れる少年を踏みつけて地面に抑え付け、これからこの騒がしい餓鬼と共に居なければならないのかと嘆息する刃。
「小僧、諦めろ。あれは貴様がどうこう出来るような女じゃない」
「煩い!お前、カフカの何だよ!」
「ただの部下だ」
 いきり立つ少年に淡々と接し、刃は空へ昇っていく舟を見上げる。
 何日。とは指定されていないが、少なくとも一ヶ月そこらだろう。と、刃は思考を巡らせながらも抑え付ける手は緩めない。
 解り易く、力で屈服させられる手合いならば楽だが、幾ら暴力を受けても折れない餓狼のような手合が、素直に特訓に応じるのか疑問でしかない。しかし、そのくらいの気概でなければ過酷な運命には立ち向かえないだろう。とりあえずは死なないように気を配るのみ。
「おい、日がある内に拠点を作るぞ」
「俺は知らない。勝手にやれ」
 舟が天高く舞い上がり、見えなくなったため不貞腐れた少年を引き摺りながら刃は森に入ると拠点に成り得る水場を探す。
 獣のように忘我のまま彷徨っていた時期よりは理性的な生活が出来そうではあるものの、万が一、魔陰の発作が出た場合はどうするのか。少年を傷つけるのみならず、殺してしまえば間違いなく脚本から外れた行為にカフカは怒り、最悪、刃を見放すだろう。それは困るのだ。

 発作の前兆が出た瞬間、自ら首でも掻っ捌けば最悪の事態は防げるだろうか。

 剣で木々の間に蔓延る蜘蛛の巣を払いながら進んでいけば水の音が聞こえ、音を頼りに歩けば清水が湧く湖と、そこから続く川が見えた。周辺は水を求めてやってくる獣に踏み締められているのか草木は少く、これが源泉であれば、この場所は相応の標高であると推測出来る。
 この惑星に人間が居たとしても、鉢合わせる可能性は限りなく低い。
「ここに拠点を作るぞ」
「勝手にやれって言ってるだろ」
 大好きな女性から引き離された強情な少年は、自身が悲劇の主人公のような気分に浸っているようで、今の所、刃に協力する気は皆無のようだ。
「そもそも貴様のような餓鬼に期待はしていない」
 刃は少年へ、ここを拠点にする旨を伝えただけであり、協力を求めてはいない。
 存在を無視されてはいないにしても、蔑ろにされて腹が立つのか、少年は刃を半眼で睨み、口を尖らせている。彼がどんな出生を経て、どんな人生を歩んできたのかは知れないが、少なくともカフカに随分と甘やかされていた事が窺える仕草である。

 刃は周辺の木を切り倒し、枝のついた葉を集め、快適とは言えないが、最低限の寝床が着々と出来上がる。

「煙い!」
「虫に全身を刺されたいならその辺に転がっておけ」
 刃は荷物に入っていた道具で枯れ葉に火を点け、煙を出して簡易小屋を燻しながら住み着く虫を追い出す。
 星核ハンターの仕事も、全てが快適に整えられた空間でやる訳ではない。デーモンハンターとして活動していたカフカに指導されたサバイバル技術をそのまま用いて準備をしていれば、少年が立ち上がり、服についた汚れを払っている。
「水は煮沸してから飲め。寄生虫や菌を極力取り込まないようにしろ。食い物は俺が食って確認するまで口にするな」
「はいはい……」
 煙を出すために作った焚火とは別に刃は獣避けに火を起こす。
「近くを散策してくるから動くんじゃないぞ」
 少年は顔を背けたまま頷きもしなかったが、あれだけカフカを慕っているのであれば、逃げ出しはしないと確信を得て周囲を回る。火に怯えない獣も存在するため、油断は出来ないが直ぐに駆けつけられる程度の距離を探り、丁度良く猪の仔に似た獣が居たため剣を投げて仕留め、簡易拠点へ戻る。
「それ、どうするんだ?」
「こうする」
 獣の首を裂いて湖の底が見える場所へと沈め、血を抜く。
「この手の獣は雑食で血が臭い。殺せば徐々に血管組織が崩壊して肉に血が回って臭くなる、俺は構わんが……」
「俺だって平気だし……」
 対抗心なのか、或いは想像を絶するような劣悪な環境で生きてきたのか、はたまた。しかし、興味も無いため訊きもしない。
「湖は安全なようだが、深い場所へは行くなよ」
「安全?」
「血が流れても寄ってくる肉食の魚や寄生虫が居ないなら、入って体を洗うくらいは出来る。と言う事だ」
「うへ……」
 嫌悪感に呻る少年を無視したまま刃は血で真っ赤になった湖から獣を引き上げ、皮を剥ぎ、肉を解体して荷物から鉄串を出し、肉を刺して焚火の側に立てて焼いていく。
「おぉ、美味そうな匂い」
「先程も言ったが、まだ食うな」
「はぁ、俺も腹減ってんだけど……!」
 焼けた肉を刃が一口食べ、可笑しな苦みや口の中に痺れがないと確認しながら、喧しく喚く少年を簡易小屋の床に引き倒し、体の上に座ったまま一塊の肉を食べ切る。
「お前!狡いだろ自分ばっかり!」
「貴様に死なれては困る。肉にも毒が無いとは限らん。俺が死んだら食うなよ」
「は……?」
 鉄串を置き、戸惑う少年の背に乗ったまま三十分ほど経った頃、やっと刃は立ち上がり、肉を提供する。
「えっと、食ってもいいって事?」
「あぁ、体に違和感はない」
 少年が恐る恐る焼けた肉に口をつけ、一口囓れば後は勢い付いて食らい、腹が膨れれば人心地ついたのか表情が柔らかくなり、刃を見やる。
「あのさ、俺に死なれたら困るのに、自分が死ぬのはいいのか?」
「構わん、どうせ死なんからな」
 死んだら。等といいながら、死なないと嘯く刃に混乱したのか、少年は二の句が継げずに困惑を露わにする。

 質問をしたいが、どう言えばいいのか解らなかった少年は無言で肉を食し、刃が湧かしたお湯を飲み、燻されて煙臭い葉が敷かれた丸太の寝床に転がる。
「寝ない、のか?」
「夜は獣が活発になる時間帯だ。火を絶やさないよう不寝番をしておくから、さっさと寝てしまえ」
「あ、ありがとう……?」
 至れり尽くせりで世話をされている事実に、ようやっと気付きだした少年が口ごもりながらも礼を言うが、刃は応えず火を見詰めている。

 少年は舌を打ち、再び不貞腐れた表情で刃に背を向ける。
 師の真似事など己に出来るのか、何をどうするべきなのか刃が生真面目に考えているとは、護られながら寝入る少年は知る由もない。
 
 ▇◇ー◈ー◇▇

「起きろ」
 こんな場所ですやすやと心地好さそうな寝息を立てながら図太く眠る少年の肩を揺すって起こし、薄く目を開けた事を確認すると、腐敗防止のために焼いておいた肉を適当に暖める。
「朝からステーキ?カフカだったら美味しい紅茶とサンドイッチくれたのに……」
「ここにそんな物はない。食える物なら何でも食わなければ死ぬだけだ」
「解ってるよ。味気ない生活に逆戻りかぁ……」
 味付けも碌にされていない肉の塊。
 生存のためだけの食事。
 類似する経験があるのか少年は陰鬱な面持ちで渡された肉に歯を立てる。
「所でさ、なんで裸?」
「近くに危険な獣は居なかったようだから、血と油で汚れた服を洗った」
 夜の内に汚れた服を洗い、適当に立てた棒に引っかけて乾かしていたが、脚衣よりも生地が分厚い外套が中々乾かず、現在の刃は半裸である。
「包帯、怪我してんの?」
「塞がってはいる」
「傷だらけだな……」
「そうだな」
 状況ついては答えても、自身への質問は簡潔に済ませて刃は少年が食事を終えるまで焚火に薪を放り込んでいた。
「あの、これからどうすんの?」
「俺はお前に戦闘技術を教えるよう命じられた。今日からしごくぞ」
 食事後の雑談に興じるような間柄ではなく、刃は食べ終えたと見るや森で見つけてきた適度な太さと長さを持った木の枝を少年に向かって投げ、指で簡易小屋から出るよう手招く。
「喧嘩は得意だぞ」
 棒を掴み、肩を回しながらにや。と、強気に出る少年に、喧嘩と殺し合いの違いから教えねばならない。
「では、行くぞ」
「おう」
 少年が返事をした次の瞬間には手にしていた棒が弾き飛ばされ、胸部に衝撃を受けて空を仰ぎ見ていた己に驚きを隠せなかったのか、呆然と瞠目したまま硬直していた。
「さっさと立て」
 衝撃で息苦しくなった胸を抑えながら少年は立ち上がる。
 その目に怯えはなく、寧ろ今直ぐにでも己を害した存在の喉笛に牙を立てようとする餓狼がそこには居た。

 武器となる棒を握り、大きく振って肩に担ぐと刃を睨み付けて脚を踏み込む。
 勢いだけなら悪くはない。後は技術が身につけば相応に戦えるだろう。と、考えながら刃は少年の突撃を避けて背中側に回ると脚を高く上げ、踵で蹴りつけると地に叩き付けた。
 一度のみならず二度まで膝をつけられた屈辱からか、少年は獣のような唸り声を上げ、地面に爪を立てた。
「剣で戦うんじゃないのかよ!ルール違反だ⁉」
「そんなもの戦場では無意味でしかない。貴様は誉れ高き騎士か?ならば規則に則って名乗り上げている間に首が落とされるだけだな」
 刃が少年を睥睨しながら手刀にて首を叩いてみせれば歯噛みし、体を起こすと武器を捨てて飛びついてきた。
「うぅ、ぐ……」
 少年は刃の上体に飛びかかるようにして押し倒そうと試みたものの、それは脚をほんの数センチ程度、立っていた位置からずらしたのみで攻撃にもなっていない。
「戦いの場で武器を手放すな」
 刃が渾身の力を込めて倒してやろうと懸命に努力する少年の頭を掴み、彼の脇腹を膝で蹴り抜く。手加減をしているとは言え、蹴られた衝撃で再び少年は地に転がり、脇腹を押さえて蹲る。
「蹴られようが殴られようが、刺し貫かれようが速やかに立て、出来なければ、貴様は死ぬだけだ」
 蹲る少年の無防備に晒された首。
 その直ぐ隣に剣を突き刺し、死の未来を想像させる。
 上体を屈ませ、流れ落ちてくる髪を耳にかけながら少年を覗き込む刃の視線は冷たい。敵ならば既に心臓を貫かれるか、首を裂かれて血を溢れさせる己を幻視し、少年は息を呑んで剣から距離をとる。
「そう、それでいい」
 立ち上がるまでは行かないが、しゃがんだまま体制だけは整えた少年を褒め、捨てられた棒を蹴って渡す。
「拾って構えろ」
「ちょっと、休憩……」
「甘ったれるな」
 言うが早いか、刃は剣を少年目掛けて振り下ろす。
 少年が小さく悲鳴を上げながら棒を拾い上げて剣を受けるが、刃先が棒の半ばまで食い込み、刃が剣を引けば刃先に食いついた武器を奪われて焦っていた。
「戦いの最中、武器を失う場合もある。ほら、目の前の敵ばかりを見るな。使える物は何でも使え」
 刃が剣を振って棒を落とし、剣先を突き付けて見下ろす。
「ど、どうすれば……?」
 迷ったのか、強気だった少年の眼に初めて気弱な光が灯り、周囲に視線を巡らせる。
 刃も攻撃はせずに待っているが、少年は焦るばかりで思考が止まっているようだった。
「石でも木でも簡易的に使える物は幾らでもある。焚火の灰を投げて目眩ましをするも良し、火が点いた薪を武器にするも良し、それこそ使える物は『何でも』使え」
「あんなの握ったら火傷するだろ……?」
「死ぬか生きるかの状態で、火傷如きが気になるか?」
 死を常に意識するならば、火傷など些末な怪我である。

 ただ、刃の戦い方は、自爆型の戦い方なのだ。
 自らの不死性を利用した我が身を省みない戦闘は、仲間を庇う囮にもなり、敵に畏怖を与える武器にもなった。カフカが拾って来たとは言え、身体の耐久力は通常の人間と変わらないであろう少年へ、同じ戦い方をしろとまでは強要しないが、傷つく事を恐れて戦場に在っては死と直結する。

 カフカの戦い方も、恐れ知らずである。
 刃のように自らを傷つけはしないが、恐怖の感情がない彼女はどのような強敵にも陶然とした不敵な笑みを浮かべたまま、敵対する存在へ死を運ぶ死神だ。
 少年が短い期間でも彼女と共に行動していたならば、少なからずカフカが行う戦闘を見ていたはずで、恐怖は戦いの場に於いて、尤も不要かつ、邪魔なものであると認識せねばならない。
 それでも恐れる者は、戦場から逃げ出すか、あるいは薬物などで強制的に精神を高揚させ、恐怖の感情を誤魔化し、瞳孔の開ききった眼をぎらつかせながら肉の盾となって死んでいくのみ。この少年も、恐怖を克服できなければ、カフカの言霊によって感情を封じ込まれ、利用されるのみの傀儡と成り得る可能性もある。

 克服出来るかどうかは、その者の資質。
 恐怖を凌駕するほどの感情、例えば憤怒、例えば功名心、例えば使命感があれば恐怖を感じている暇などはなく、あっても捻じ伏せられる。どこかの惑星の戦では、同性の恋人を部隊に編成した際、恋人に勇ましい姿を見せようと実力以上の戦果を上げた。などの記載も見た記憶はあったが、訓練中である現状にはそぐわない。
 一番簡単な方法は、とことん挑発して怒らせ、憎しみを抱かせる事だ。度が過ぎれば殺される覚悟が必要にはなるものの、豊穣の使令に肉体を食われ、悍ましい神使と成った刃にとって殺害は脅威ではない。
「カフカも見込み違いだったな。こんな貧弱な餓鬼を鍛えたとて、肉盾意外に使い道があるとは思えん」
 初見時から、少年はカフカに傾倒しており、母に甘える子のような様相であった。
 案の定、カフカごと少年を貶してやれば腹が立ったようで、刃を睨め上げる。
「カフカは関係ないだろ!」
「ある。貴様がこのまま無様に座り込んでいるのなら、見い出したカフカの眼は曇っていたと言わざるを得ん。貴様の評価がカフカの評価に直結する事を忘れるな」
 カフカへの情愛を利用してやれば、少年は奮い立ったのか立ち上がり、刃へ飛びかかってくる。ただの勢いに任せた蛮勇ではあるが、怯えを振り払い、立ち上がっただけでも評価は出来た。

 掴みかかろうとする少年よりも刃は身を低く屈め、腹の下に潜り込んで肩に担ぎ上げるように後方へ跳ね上げる。
 刃の身長は一八〇を超えており、その高さから落とされて背を強かに打ち付けた少年は、一気に肺から空気が漏れ、苦しげな声と共に身悶えながらも立ち上がろうとしたが、生まれたての子鹿のように震えた脚では力が入らなかったのか、情けない声を出して地面に俯せた。
「あぁ、言い忘れたが、投げ飛ばされたら頭は手で庇え。頭への衝撃は生きていても廃人になる可能性があるからな」
「遅いだろ……」
「だから言い忘れたと言っただろう」
 刃が倒れたまま動けなくなっている少年の服を掴み、簡易小屋へと引き摺る。
「そのまま寝ておけ。他の食料を探してくる」
 刃の肉体は無限に増殖し、回復する細胞を持つ故に消耗が激しく、兎角栄養を必要とする。
 今朝、少年に与えた肉以外はほぼ刃の腹へと消えたのだが、こんな大した動きもしていない訓練で既に空腹を覚てしまっていた。
「勝手にうろうろするなよ」
「痛くて動けないよ!」
 口だけは達者に反抗的な態度をとる少年を置いて、乾いた上着を纏った刃は森を散策する。

 地面に大きな巣穴を発見した刃が包帯が巻かれた左手を突っ込めば鋭い牙に咬みつかれ、力任せに引き抜くと約五メートルはある大蛇が引きずり出され、食らいつく首を落とすと大蛇は体を激しくくねらせて絶命した。
 狩りの成果を得て、刃が簡易小屋へ帰還すれば、休んで多少痛みが和らいだのか、少年がスマートフォンを弄りながら、電池。などと呟いていた。
「ここは通信出来るのか?」
「え、出来ないけど、オフラインで出来るゲームも入れてるから……」
 あまりスマートフォンを利用しない刃でも、通信施設がなければ使えない程度の知識はあったが、少年は機械に詳しいらしい。
「息抜きは構わんが、休める時は休め。体の回復を優先しろ」
「あ、うん……、あのさ……、それ食うの?」
「蛇は案外美味い」
 首を落とした蛇を小脇に抱えて戻ってきた刃に、少年は表情を引き攣らせていたが、皮と内臓を処理し、毒味後、焼いて与えれば、
「本当に美味い!昨日の肉みたいに癖もなくて食べ易いし、ぱさぱさしてるかと思えばそうでもないな」
 などと感動していた。
 この素直さと柔軟性は美点となるだろう。
 星核ハンターとしてエリオの脚本に選ばれ、集った人間はただの戦闘集団ではなく、何かしらに特化した者が多い。この少年は、戦闘力よりも過酷な運命に立ち向かえるような精神の逞しさを優先したものか。

 蛇肉で腹が膨れ、満足げに腹がを擦る少年が、ふ。と、形の良い眉を顰め、刃を凝視する。
「刃ちゃんってさ、食ったもん、その体のどこに入ってんの?」
 狩って来た蛇の肉は既に残り二メートル程度の半分以下、少年も若く旺盛な胃袋に詰め込んではいたが、刃が食べた量は優に倍。大口を開けてがっついているような様子はなく、荷に入っていたサバイバルナイフで細かく切り分けながら黙々と食べ進めており、気が付いたら残り僅かであった事に少年は驚いて居た。
「腹以外どこに入る。それと、その呼び方は止めろ。虫唾が走る」
「カフカは呼んでたのにか?」
「貴様にそう呼ばれる筋合いはない」
 冷たい視線が少年を射抜き、刃が剣を手にすると、顎で、立て。と、指図する。
「え……、あの、食休みとか……」
「時間は有限だ。無駄にしている暇はない」
「ちょっとくらいいいだろ」
「駄目だ。任された以上、徹底的にやる」
 真面目かよ。少年は責任感の強い刃対して悪態を吐くが、問答無用で剣を振り下ろされれば応戦せざるを得ず、文字通り転がるように避け、使えそうな武器を探しながら逃げ回る。
「逃げてばかりではなく、反撃しろ!」
「無茶言うなよ!」
 刃が斬撃を飛ばせば少年は猿の如き動きで大木を駆け上り、葉の中に姿をくらます。
 姿は見えないが、派手に木の上を移動する音を立てているため、どこに居るのかは一目瞭然。だが、小賢しい作戦を考えているならば、音は意図的に立てている可能性も否めない。

 刃の背後の木の葉が一際大きく音を立てる。
 これが偽計だろうが無謀な突撃だろうがどちらでも良しとして、音のした方向へと体ごと向ければ、少年は刃の背に飛びつき、何度もやられた意趣返しに地面へ叩き付けようとした。が、衝撃を逃がすように刃は膝を曲げたのみで、少年は想定違いの結果に動揺する。
「なん、なんで倒れないんだよ!」
「悪くはない作戦だが、仕掛けが稚拙だな。戦闘に慣れた人間であれば容易に看破出来る程度のものだ」
 それと。言いながら、刃は、背中にしがみつく少年の髪を掴み、
「いつまで人の背中に居るつもりだ?俺がこのまま頭を振り上げれば、貴様の顔は潰れているぞ」
 刃が首を擡げ、顧みるようにして少年を睨む。
 企てるのならば二手、三手は最低限用意するべきであり、謀が外れたのならば直ぐ様、次の手に切り替えなければならない。場当たり的な謀も、運が良ければ奇跡も起ころうが、失敗に動揺して隙を見せるは凡愚に過ぎるのだと刃は説教する。
「失敗を失敗のままにしない事だ。次に繋げろ」
「う、初心者手当くらいつけてくれよ」
「頭突かずに居てやっただろう」
 そればかりか、幼稚な謀にも乗ってやった。
 刃からすれば、これ以上、何を譲歩すればいいのか逆に訊ねてやりたいほどである。
 背中に張り付く少年を引き剥がして刃は歩みを進める。
「戻るぞ。武器は適当な棒を拾っておけ」
「自分ばっか剣使いやがって……」
「文句があるなら用意をしていないカフカに言え」
 荷物の中には野営に必要な道具一式と、少しの着替えが入っていたが、武器と成り得る物はサバイバルナイフと鉄串くらいだろう。

 応星であれば、あり合わせの物で工夫を凝らして少年へ相応の武器を提供してやれただろうが、刃には為し得ない行いである。
「思いついた事は全部やれ。今の貴様に出来るのはそれだけだ」
「わかったよ……」
 不承不承ながらも少年は刃に従い、扱える重さと長さを比べながら拠点へ戻る道中、枝を拾っては呻っていた。彼なりに、どう刃を打倒するか頭を捻っているのだろうが、多少策を弄した程度で勝てると考えているのならば舐められたものだった。

 少年も努力は見られたが、夕刻に差し掛かるまで刃に滅多打ちにされ、結局は簡易小屋に転がされる羽目になる。
「飯は食え、吐いても食え」
「吐いたら意味ないんじゃ……」
「食わねば体力は回復しない」
 蛇肉を焼いて疲労困憊の少年に食わせ、刃は食料を探しに森に入り、食べられそうな野草やまた別の動物を狩りに行く。

 刃が戻れば少年は泥のように眠っており、今のうちにと汗を流し、水を含んだ長い髪を絞って薪を足しながら乾かす。人を育てる面倒さと難しさに嘆息しながらも、どこか懐かしさを感じてしまう自身を自嘲するように鼻を鳴らした。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 訓練を開始してから十五回ほど昼夜を繰り返し、筋肉痛に呻く少年を引き摺って武器を持たせて打ちのめし、少年から据えた匂いがしたため、刃が泉の中に放り込むなど、細々した違いはあったが、基本は戦い方を教え、飯を食わせ、休ませる。

 特に変わらない毎日である。

「刃ちゃんってさー、本当に容赦ないよな」
 呼び方を改めろと注意をしてもめげずに少年はしつこく、刃をちゃん付けで呼んでくる。
 反抗的でないのは楽で良いが、生来の懐っこい気質なのか、馴れ馴れしいと表現するべきか、カフカに任されているからには癪に障っても半殺しにする訳にもいかず、刃が徹底して無視したとて、少年には改める気が欠片もないようだった。
「刃ちゃんってばー」
 午前の訓練で、大怪我はさせないよう配慮はしつつも、しっかりと叩きのめしたのだが、少年はわざわざ刃の隣に座り、用意して貰った食事を頬張りながらも煩い。
 体力が有り余っているようならば、午後は更に追いかけ回してやろう。と、刃は考えながら自身も黙々と食事をとっていた。
「食ったなら武器を取れ」
「もうちょっと……」
 刃が立ち上がれば、勢い良く食べていた少年があからさまにゆっくりになり、もう少し休んでいたい心が見え透いていた。
「さっさと食え、時間稼ぎは見苦しいぞ」
 刃が腕を組み、冷めた視線で見下ろしながら急かせば少年は諦めたのか、口の中に最後の肉を放り込んで立ち上がった。

 少年の攻撃をいなしながら脚をかけて倒し、立ち上がっても剣の柄で腹を打つ。
 それを一時間ほど繰り返した頃、遠くから葉を踏みしめ、枝を折る音が聞こえて刃が少年の頭を抑えて振り返れば見慣れた鮮やかな紫が揺れながら現れる。
「はぁい」
「カフカ!」
 大荷物を肩に担いだカフカが手を振りながら二人に挨拶をすると、解り易く少年の眼が輝いた。飼い主を見つけた犬のようだ。
「早かったな?」
「えぇ、楽に片付いたから様子見にね。順調かしら?」
「悪くはない」
 言い換えれば、良くもないのだが。
 余程の天賦の才があれば別の話だが、技術が一朝一夕で身につけば誰も苦労はしない。
 ただ、少年は喧嘩慣れをしていると宣っただけあり、半月程度で『悪くはない』の評価であれば判断力に優れていると考えても遜色はないだろう。
「順調って事ね。ご飯とか、武器も持ってきたわよ。刃ちゃん一杯食べるから、ご飯の調達大変でしょう?」
 どさ。と、重い音を立てて荷物を降ろし、食料と武器が大量に入った鞄を開いて見せた。
 剣、弓、混、それと、
「なんだこれは、棍棒か?」
 滑り止めに布が巻かれた柄があり、そこから膨らんだ形をした真っ直ぐな棒。
 刃の目には、剣とはまた違う、より純粋な撲殺を目的とした武器に見えた。
「バットって言うのよ。本来はスポーツで使う物だけど、振り回す分には良さそうだったから持ってきたの」
「バット?」
「えー、刃ちゃん野球知らないの?」
「まぁいい、折角の支給品だ。好きな物を使え」
 茶化そうとしてくる少年は相手にせず、刃はカフカを見やる。
「うん、まだ大丈夫そうだけど、抑えておきましょうか」
「頼む」
「何を?」
 少年が構って欲しいのか、ちょろちょろと割り込んでくるが、カフカに貴方は後でね。などと窘められ、犬を追い払うような手の動きで遠くに追いやられたため落ち込んでいた。
「あら、いいお家じゃない」
 簡易小屋にカフカが刃を伴って座り、頬に両手を当てて『聞いて』と、言霊を発する。刃の内側に潜む魔陰の化け物を暗示をかけて押さえ込む儀式。揺れる感情が深く深く沈んでいく。
「ちょっと肌荒れしてるし、疲れてるみたいね。ヘアオイルも持ってきて上げたから使ってね」
「分かった」
「私があの子を少し見てて上げるから、貴方は休んでなさい」
「いや……」
 刃が断ろうとすると、カフカはすかさず『聞いて』と、言霊を発し、眠るよう強制する。
「私が居れば安心して眠れるでしょう?」
「かふ……」
 抗おうとしても暗示の力は強力で、瞼が下がり、刃の体からは力が抜けて倒れ込む。
 刃ちゃん、お休みなさい。そう聞こえた音を最後に意識は途切れてしまった。

 次に目を覚ました時には既に空には茜が差しており、周囲を見渡せば泰然としたカフカと、白目を向いて気絶している少年が視界に入る。
「あら、刃ちゃん、おはよう」
「あぁ……」
 少年の体が時折痙攣している様子から見て、強い電撃でも喰らったのだろう。カフカなりの戦闘訓練だろうが、ともすれば刃よりも厳しい指導だったようだ。
「この子、結構、成長してるじゃない。流石だわ、刃ちゃん」
 カフカが大きく体を伸ばし、満足気に微笑んだ。
 曰く、想定よりも身体能力は向上しているらしく、嬉しい誤算だったようだ。
「そうか?」
「えぇ、武器の振るい方も中々様になってたわよ」
 倒れ伏した少年の手には、バットが握られていた。
 棒でばかり訓練をしていたため、一番手に馴染んだのだろう。
「では、もう帰ってもいいか?」
「駄目よ。刃ちゃんだって分かってるでしょ?」
 刃が鼻を鳴らして顔を背ければ、カフカは口元に手をやり、くすくすと笑う。
 指摘通り、刃とてまだ訓練を終了したと言い難い事は理解している。無為な質問をした己を恥じている事もカフカには見抜かれており、刃は口を噤むばかり。
「じゃあ、私はまた別のお仕事をしてくるから、刃ちゃんはこっちのお仕事を頑張ってね」
 刃は無言で頷き、汗一つかかずに去るカフカの背を見送った。
 気絶している少年の服を掴み、簡易小屋へと引き摺って転がす。

 疲労もあったのか、その日は少年が目を開ける事はなく、刃は揺らめく炎をただ見詰めていた。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 刃は朝から不機嫌で苛ついていた。
 原因は、猿の仔のように背中へしがみついている少年のせいである。

「離れろ。鬱陶しい」
 少年は返事をせず、刃の腰に脚まで絡めてくる始末。
 刃が想像するに、昨日、カフカに散々ぱらに負けて拗ねているのだろうが、これでは訓練にならない。
「刃ちゃんがどんだけ優しいのか良く分かった……」
 やっと喋ったかと思えば、何やら荒唐無稽な戯言を言い出した。
「カフカは、もっと容赦なかった……」
 彼女は恐怖の感情がない、しかし、他者へと畏怖を与える事を尤も得意とする。
 刃は眠っていたため、彼がどんな甚振られ方をしたのかは知れないものの、優しげな微笑みを浮かべたまま、猫が獲物で遊ぶように弄ばれたのだろう事は想像に難くない。
「あー、もうちょっと……!」
「知らん」
 絡みつく手足を強引に外し、少年の頭を一発殴ってから刃は剣を携える。
「どれでもいい、貴様も武器を取れ」
「じゃあ、これ……」
 少年は弓を手に取り、弦を弾いてみる。
「使った事があるのか?」
「全然、カフカ見て、遠距離から攻撃できるのもいいなって思ったんだけど……、刃ちゃん分かる?」
「やった事はあるが……」
 刃が武器の詰め込まれた鞄の中から矢筒を取り出しはしたが、持ったまま数秒ほど考えて矢筒を戻す。
「先ずは姿勢だな。構えが安定しなければ狙った場所に打ち込めない」
「そうなのか?」
「あぁ、これが強弓であれば引けもせんだろうが」
 刃が少年から弓を受け取って引けば、三人張りとまでは行かないが、引くに当たってかなりの腕力を要する弓のようだった。
「これで姿勢を保てるなら中々の物だな。暫し待て」
 体幹を鍛えるには丁度良しとして、刃は最初に持ってきていた荷物の中から包帯を出し、少年の右手を取って巻き始める。
「俺、怪我なんてしてないよ?」
「逆に怪我を防ぐためだ。本来は厚手の革手が良いが、今は無いから代用だ」
 掌、親指、人差し指、中指に包帯を巻き、刃が身につけていた手袋を上から被せ、感触を確かめてから弓を渡す。
「先ず、弓柄をしっかり握り、平行になるように弦に親指の付け根にかけ、中指で支えて引け」
 刃が少年を背後から抱き込むようにして補助をしながら弓を引かせる。
「親指だけで引くのか?」
「あぁ、矢があれば人差し指で番えた矢を支え、薬指と小指で次に飛ばす矢を持っておくんだ。離すぞ」
 刃の補助がなくなった途端、少年の体はふらつき、弓を持った手が震える。
「そのまま」
「う……」
 少年は全身に力を込めているため、言葉も上手く紡げないようで、ものの五分で肌に汗が浮き出すが、刃は姿勢を崩さないよう圧をかける。
「きっつ……、い、指、千切れそ……」
「痛かろうが姿勢を崩すな」
 予想出来た事だ。
 初めは軽くしなる弓から練習するものだが、カフカが持ってきた物は修練を積み、腕力も備えた者が使用する弓であって、震えながらも直ぐ様、音を上げない根性は見上げたものである。
「もういい。少し休め」
 十分ほどで終了させ、持たせた時と同じように背後から弓を持ちながら戻してやる。
「あ、ありがと……」
「いきなり離して、弾けた弦が当たったら皮膚が裂けるからな」
 少年が刃のように、どんな傷でも即座に治れば楽な話であるが、そうもいかないのはもどかしい。鍛えるならば、甚振り方を知り尽くしているカフカの方がより適任であろうが、任せるには任せるだけの理由があるのだろう。

 少年に一度煮沸した水を渡し、休ませている間にカフカに渡された食料を確認する。
 干し肉、ドライフルーツ、乾燥野菜などの乾物を中心に、固形の総合栄養食など栄養価の高い食料を詰め込んであったため、今晩は特に探しに行く必要はなさそうだった。
「うわ、弦が当たってた所、真っ赤になってるんだけど……」
 手に違和感があったのか、少年が自ら手袋と包帯を外せば内出血を起こしていた。
「続けていれば皮膚が硬くなり、弦の圧に負けなくなる。弓を武器にするならそこは覚悟しておけ」
「遠距離いいと思ったんだけどなぁ」
 一瞬、カフカが使う小型の機関銃を思い浮かべたが、あれは彼女が扱うから軽やかに見えるだけであり、少年では反動に振り舞わされ、まともには扱えないだろう。
「おい、小僧、俺がいいと言うまで、湖の周囲を走ってろ。その間に飯を作っておく」
「途中の川は?」
「流れは早くなく、水深も浅い事は確認済みだ。泳げ」
 今までの訓練に耐えたのだから、体力は十二分にある。しかし、これから剣に類似する武器のみならず、様々な装備を扱うならば、全身を均等に鍛え上げる必要性を見出した刃は、筋肉を集中的に鍛える時間も必要として、訓練内容を見直す事にした。

 考える時間を稼ぐと同時に、少年を暇にさせないよう走り込みをさせ、調理器具を取り出す。
「適当にスープでいいか……」
 素直に泉の周囲を走り出した少年を横目で見やり、水を汲んで小さく刻んだ食料を焚き火に置いた鍋に放り込む。

 カフカは期限を設けなかった。
 一ヶ月は、刃の『これだけあれば最低限、技術は身につくだろう』との見識が入った時間であり、今後もこうして様子見にだけやって来て、成長具合を量り、規程に達してなければ、訓練は続投され、いつまでも終わらない事になる。

 正直な話、面倒である。
 刃はやらなければならないからやっているに過ぎない。
 少しでも早くこの苦痛から開放されるために、少年には日進月歩の勢いで成長して貰う必要性があった。
 カフカの甚振りでも死ななかったのだから、比較的、頑丈ではある。多少は無理も効くとして、刃は明日からの訓練をより厳しくする決意をしながら小さく頷いた。

後編

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