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スターレイル用

傍らの存在、遠い温もり

・R18
・寒がり丹楓
・暖めてくれる応星

・前半楓応一応R18。後半恒刃

 ▇◇ー◈ー◇▇

 龍の血族。
 龍の末裔。
 持明族龍尊。

 様々な呼び名で龍。とは表現されるが、その実、爬虫類なのでは。
 丹楓に抱き締められ、酒を口に含みながら応星はぼんやりと考える。
「こんな龍尊様を見たら、信者ががっかりしやしないかねぇ?」
「其方以外に見せた事はない」
 寝室に火鉢は置いてあるものの、それでも足りぬとばかりに体温が高い応星を懐炉扱いしている丹楓を茶化す。

 補助的な絡繰りを用いず、身一つで厳つ霊を、水龍を繰って敵を灰燼と成す歴代最強としても遜色ない龍。強さばかりか他者を癒やす能力までをも持つ飲月君こと丹楓には、最早、信者と表現しても差し支えがないほど崇拝する者が多い。
 そんな丹楓は、この人工の街にも訪れる冬の季節を最も嫌う。殊、訓練場に居る際、両の手を袂に手を突っ込んだまま微動だにせず佇んでいる時は兵を見据えて弛んだ者が居ないかを見張っているのではなく、単に寒いから動きたくない、動けないだけだ。とは応星意外に誰も知らない。

 どの惑星に於いても、暦の上で寒さが厳しい季節となれば戦が減るとは言え、仙舟方壺の如く、永遠の冷気に覆われた惑星で戦になればどうするのか。応星が訊ねれば、最悪の場合、体内で錬った気を爆発させるように身体の隅から隅まで巡らせる事で体温を強制的に上げ、通常と遜色ない戦闘は可能との答えだった。当然、消耗はより激しくなるが。
 それはもう忌々しそうに語る丹楓の姿を見た応星は、腹を抱えて笑った。どうやら、丹楓にとっての最大の敵は豊穣の忌み物ではなく、寒さであると。完全無欠とさえ謳われる飲月君の、とんだ弱点が面白くて堪らず、遠慮なしに笑っていれば応星はその夜、随分とねちっこく苛められて仕舞った。
 己が最も恥部とする弱点を告白したと言うのに、嘲弄とはまでは行かずとも、面白がられて拗ねたらしい。

 以来、応星は寒さに弱い丹楓を茶化さないようにはしていたが、喉元過ぎればなんとやら。
 再び巡ってきた寒さに訪ねてきた応星を庭ではなく寝室に招き、寝台に座ったまま膝を叩いて『これへ』と、あからさまに温もりを得ようとするのだから、面白くもなってしまう。
「酒も呑まずに人を暖房機代わりとは、龍尊様はつまらん男だなぁ」
 応星は杯を煽り、自身の肩に顎を置いて隙間なく密着する丹楓の頬を手の甲で撫で、指先で時折顔に当たる角を突く。
「余は其方が居ればそれで良い」
 酒は口実。
 応星と共に在る為の時間でしかないと言い切る丹楓に、また笑いが漏れる。
「そんなんで俺が居なくなったらどうするんだ。死体を方壺の玄氷にもで閉じ込めて愛でるか?寒がりの龍尊様が?」
「それも良かろう」
 応星の言は完全に茶化すための冗談なのだが、丹楓の肯定はあまりにも平坦な声色で、真に受けたようにも、ただ茶化し返されているようにも感じられ、二の句に詰まる。
「少しは暖まったか?」
 この会話は続けるべきではないと判断した応星が酒器を置き、手袋を脱いだ手を握る。自身よりは冷たいが、訊ねた際の氷のような手はぬるくなり、幾分血色も良くなったようだった。
「んー、お得意の丹薬でどうにかならんのか?」
「やっていてこれなのだ」
「ふぅん?龍尊様は大変だな」
 他の持明族がどうなのか応星は知らないが、丹楓の肉体は自らの力だけでは体温の調節が上手くいかないのか、外部から補う必要性があるらしい。難儀と感じながら、応星が冷たい手を暖めるように両手で包んで撫でる。

 悪い気分ではないのか丹楓はされるがまま。
 他者には決して見せない姿を見せ、軽々には触れさせない肌を委ねる。
 応星は気難しい野良猫が己だけに懐いてくれたような優越感を味わいながら、酒で火照った体温を分け与えるように手を撫で摩っていれば、
「もう良い」
 と、丹楓が制止し、応星の手を指を絡めるように握り返す。
「まだ手冷たいぞ?」
 ほろ酔いの応星が丹楓の手を温める事に懸命になっており、様子の変化に気付かず暢気な返事を返すが、流石に寝台へ押し倒されれば何をしたいのか察さざるを得ない。
「丹楓、今日は無理だと……」
「余の忍耐を無下にしたのは其方であろう」
「もう少し我慢してくれないか」
 摩擦熱で温めてやろう。そんな応星の心遣いは、この我が儘な龍を興奮させてしまったようだった。せめて握るだけにしておけば。との後悔が過ったが、既に後の祭りである。
「なに、激しくせねば良かろう」
「しつこいのも程々にして貰えたら……」
 如何にも譲歩してやった。とでも言いたげな口調で、こうなった丹楓は頑として引かないため、応星は諦観の心地で、心からの願いを口にする。これが真に譲歩というものだろう。

 応星は腰紐を奪われ、体温の低い手が暖かな肌をまさぐる。
 下手な抵抗は丹楓を意固地にするだけの逆効果で、最早、したいようにさせ、任せるに徹するが最善と身を以て知っている。
「ん……、はっぁ……」
「うん、暖かいな」
 丹楓の愛撫によって応星の息が上がり、高まっていく体温。
 それが心地好いのか丹楓は応星の背中に頬を寄せ、唇を触れさせる。まるで、幼子が懐くように隙間なく抱き締めながらの愛撫。昂ぶった熱が丹楓の手に移りきってしまう頃には応星は髪も服も乱して肌には汗の滴を浮かせており、顔を敷布に押しつけながら懸命に呼吸を整えていた。
「其方の体温は、いつでも余に温もりをくれるな」
 常ならば平坦な声色が、応星と在る時だけ柔らかく弾む。

 言葉通りの意味と、愛おしむ人物が手中に在る幸福。
 飲月君として健木の封印を見守る役目を担い、幾度も転生を繰り返し、この身となって再び無為な生を紡ぐのだと空虚な心で受け入れていた彼にとって、初めて見つけた温もりであり、燦然と輝く光であり、唯一無二の宝である。

 丹楓は何度も応星の名を呼び、滑らかな肌の感触を、絹糸のような柔らかな髪を味わっていれば、
「も、いい……、はやっ、く、いれて……」
 応星が焦れた様子で丹楓を急かす。
「もうか?」
「だいじょぶ、だから……!」
 毎度、体を合わせる際の丹楓は、応星の身体を傷つけぬよう事前に龍爪を丸め、用意してある香り高い香油を以て秘所を濡らし、手中の宝珠を自らの欲で傷つけぬよう丁寧に体を解して開くのだが、受け入れる方は冗長に過ぎて愛撫だけで息も絶え絶えになり、終わる頃には只人の体力など空になっている。
 故に、応星は己が淫蕩な人物の如く、丹楓を急かし、誘い、少しでも余力が残るよう尽くしているのだが、彼はただただ愛おしい存在を慈しんでいるだけであり、意図に今一気づけない辺りが難である。

「うむ、愛いの」
 寝所の薄暗がりでも判るほどに全身を赤く染め、強請ってくる応星の姿に丹楓は上機嫌に背中に覆い被さるように抱き締める。
 丹楓自身は寒いせいか、殆ど衣服を乱しておらず、己ばかりが乱されている状況があまりにも羞恥を煽るが、体内に長大な性器が挿入されれば、考える余裕などはなくなり、応星の唇からは上擦った震えた声が漏れる。
 本人が宣言した通り、激しさは無い。無いが、ゆったりと体内を撫でる異物に、腰が勝手に痙攣を起こし、敷布に自らの性器が擦れて目の前が明滅するような快楽が応星を襲う。丹楓は気付いているのかないのか、楽しそうに喉を鳴らす。
 応星が腰を敷布から離そうと藻掻けば藻掻くほど、必然的に丹楓に尻を押しつける形になって奥深くが抉られ、体を抑え付けてくる圧に負ければ布と擦れ、どちらにしても己の甲高い声が薄暗がりに響いて、耳を塞ぎたくなる。が、丹楓の手が応星の手を握り込み、それを許さない。

「あぁ、暖かいな……」
 うっとりとした丹楓の声が応星の鼓膜を震わせ、この行為が数時間は終わらないだろう事を告げていた。

 ▇◇ー◈ー◇▇

「は?」
 丹恒が街中で眼に入った光景に、思わず声を上げた。
 長い黒髪の、見慣れた男が明らかに性質が悪そうな男達に手を引かれている姿を見たからだ。

 丹恒は数秒ほど立ち尽くし、髪の長い男性、刃は生半可な輩がどうこう出来るような人間ではない。と、判断して立ち去ろうとした。しかし、男達の持つ雰囲気がどう好意的解釈をしても善人には見えず、万が一を考えれば放っておくのも気分が悪い。丹恒は再度振り返ると、舌を打って確認だけでも。と、己に言い訳をしながら跡をつけた。

 よもや、休憩のために寄った惑星で星核ハンターと遭遇するとは、何とも傍迷惑な奇縁である。
 男達は刃を伴って廃墟の如く荒れ果てた家屋へと入っていった。とても歓待にはほど遠い様子で、嫌な予感の的中に丹恒が頭を掻き回しながら嘆息した。

 この惑星は人口が少なく、街はブロベルクにも似た石造りの建物が並んでいたが、然程裕福でもないのか少し郊外に脚を伸ばせば閑散として、道はただ大勢の人に踏み締められた道標があるだけで舗装もされていない。悪巧みをする輩には都合のいい場所だろう。
「身綺麗にしてる割に、大したもんは持ってないな」
「顔はいいから、売ったらそこそこにはなるんじゃないか?」
「売るには大分、薹が立ってるだろ。やたらぼーっとしてるし、大方、薬で頭がやられたか、元々白痴なんだろうよ。こんな面倒なの餓鬼でも売れねぇよ」
 家屋の入り口で耳をそばだてていれば、男達は思い思いに碌でもない発言をしてはいるが、刃があまりにも無抵抗なせいか、害する気持ちはないようだった。
 魔陰を抑えられていても、受け答えは相応にしていた記憶が丹恒にはあったが、抑え込まれすぎて、意識が半分眠ったような状態なのか。詳しい事情は解らないにしろ、助けるべき状況なのか判断に迷う有様である。

 そもそも、助ける義理はあるのか。
 否、最後まで付き合うと宣言したからには、見ておいて知らぬ振りをするのも、さてはてどうか。
「顔はいいよなー」
「お前さっきからそればっかだな」
「体もいいじゃん」
「物好きだな。でも最近いい女も居ないよな」
「そら、いい女は金持ちが囲ってんだよ」
 不穏な会話に丹恒の眉根が寄る。
 彼等がこのまま刃を開放すれば見なかった事と出来たが、そうもいかないようだった。
 丹恒が壁の目的を果たしていない板の割れ目から中を覗き込めば、刃は粗末な寝台の上で、茫と空中を見詰めたまま服を脱がされようとしていた。
「ほら、男の割にさ……」
 丹恒が入り口の扉を蹴破り、男達に躍りかかる。
 一人は身を屈めて腹を殴り抜き、振り向きざまにもう一人の側頭部を蹴り飛ばし、刃に覆い被さっていた男の首根っこを掴み、勢いのままに壁に投げつけた。

 心臓がどくどくと暴れ、異様に頭に血が上る感覚に丹恒は目眩がするようだった。
 歯を噛み締めたまま肺に籠もった空気を吐き、不思議そうな呆けた面持ちで視線だけを丹恒に合わせた刃の胸ぐらを掴む。
「何をやっているんだお前は⁉」
 乱暴に服をつかまれて尚、刃は反応が薄い。
「なに……」
「解ってないのか?それともこんな物まで脚本とやらか?こんな愚物にいいようにされる事がか⁉」
 丹恒自身、何故、こうも苛ついているのか解らないほど激高して刃を罵っていた。
 答えもしない刃にも苛立ち、怒声を浴びせるがやはり反応は鈍く、何に対して怒りを抱かれているのかも理解していないようだった。
「あぁ、もう、いい……」
 刃がここに居るからには、他の仲間も居るのだろう。
 脱がされかかっていた服を整えてやり、手を引けば刃は子供のように素直についてきた。地面に転がっている輩共にも、同じようについていったのだろうと思えば、再び胸の辺りに尋常ではない不快感が満ちる。
 ともすれば、このような出来事は初めてでは無いのではないか。暴れないよう魔陰を抑え込まれ、茫としたまま当てもなく彷徨く。刃は背も高く、威圧感もあるが美丈夫として遜色ない容貌をしており、抵抗がないと知れれば今回のように良からぬ思考をする者も在るだろう。
 カフカとやらは、抑えるだけ抑えて後は放置なのか。それが仲間なのか。
「つめたいな……」
「はぁ?」
 ようやっとまともな言葉を発したかと思えば、寒いとでも言いたいのかと丹恒は柄も悪く返す。
「もう少し歩けばステーションに着くから我慢してろ」
 刃を伴って列車近くに戻る事は不安もあったが、他に思いつく場所もなく、ステーションに辿り着けば、穹が目敏く丹恒達を見つけ、駆け寄ってきた。
「丹恒、刃ちゃんになんかあったのか?」
「まぁな……、お前、カフカと連絡つくだろう?頼めるか」
 穹は多くは訊かないまま快く受け、面倒ごとを頼まれてくれた。
「直ぐ迎えに来るって」
 五分も経たずに連絡が帰ってきたようで、ならばこのままステーションに居させれば勝手に見つけるだろう。
 そう考えて丹恒は刃の手を離そうとしたが、刃自身が手を握り込んで離そうとしなかった。
「なんだ、離せ……」
 丹恒が緩く拒絶を示すように手を振っては見るも、頑なに掴んだままの手。
「直ぐにあの女が来る。もう俺は必要ないだろう」
「いいじゃん。肌寒いんだからラウンジで待とうよ」
 丹恒が刃の説得を試みても梨の礫。
 常に冷静な丹恒の戸惑いが面白いのか、穹がへらへらしながら二人の背を押して列車内へと案内すれば、入り口から冷めた空気が入り込み、一時的に車内の気温を下げたものの、直ぐに暖かい空気が体を包み込んでくれる。
「こいつは俺が見張ってるから……」
「大人しいのに、そんなに邪険にしなくても良くないか?」
 穹は刃の厄介さを知らないが故に、現状だけを見れば、さも丹恒が彼を苛めているようにでも映っているのだろう。丹恒は片手で目元を覆い、話すか迷ったが多くを語る必要は無いとして結局は口を噤む。
「資料室に居るから、あの女が来たら声をかけてくれ」
「解った」
 渋々、丹恒は刃を連れて資料室に籠もる。
 今は逃げる様子も、狂乱して暴れる気配もないが、丹恒は刃と手を繋いだまま布団を適当に蹴って退かしながら共に座り、読みかけだった本を開く。

 刃は暫く静かだったが、何を思ったのか丹恒の頬に手を当てると、自ら胸に抱き寄せ、手に持っていた本ごと包み込んで背中を叩く。
「何だ⁉」
 刃はただ丹恒を抱き締めて黙ったまま。
 今は脚本の関係とやらで、命を奪うような真似はしないとは本人が告げていたものの、元々は不倶戴天の怨敵とばかりに丹恒を追い回していた刃である。小刀でも持って首を搔き切られるのでは。と、背筋に冷たい汗が伝い、突き飛ばそうとしたが、体を押せばすんなりと開放するのだから頭の中は疑問符だらけとなる。
「つめたい」
 依然として、刃はどこか茫として掴み所の無い様子であるが、丹恒の顔や手を触り、矢鱈とくっついて来ようとするのは如何なる思惑か。彼なりの理論はあるのだろうが、語らないため解りようもない。
「あらぁ、お熱いわね」
「カフカ……」
 刃の腕に納められたまま藻掻いていた丹恒が、唐突に資料室へ侵入してきたカフカを不機嫌に睨む。
「私はちゃんとノックしたわよ」
「そうか……、さっさと連れて行ってくれ。邪魔だ」
「まぁ!そんな言い方、刃ちゃんが可哀想だわ」
 如何にも憐れんでいるような言葉を吐きながら、薄笑いを浮かべた彼女を丹恒が鼻を鳴らしてあしらう。
 腹を探らずとも、本心ではなくただ軽口を叩いているだけだと知れるからだ。
「ふふ、ほんと、龍尊様って冷たいお方ね」
 何を茶化したいのか、カフカはくすくすと笑う。
「さ、刃ちゃん『聞いて』帰りましょう?」
 丹恒を抱き締めていた刃が、カフカの言葉によって立ち上がり、振り返りもせずに資料室から出て行く。

 面倒ごとは去り、平穏が戻ってきた事を喜ぶべきである。
 なのに、刃が触れていた場所が冷え、どことなく寒いような心地がして、丹恒は蹴り飛ばした布団を背中に掛けて読書を再開するのだった。

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