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スターレイル用

美味しいお肉になるために


・ド真面目刃ちゃん愛され系
・短め
・ちょっとバーイベントのネタバレ
・仲良し星ハン
・時系列不明の話
・丹恒→刃みたいな感じ
・カニバ描写はありません

 ▇◇ー◈ー◇▇


 その日、丹恒は静かな資料室で論文を書いていた
 不意に鳴った通知音に気がつき、ボトムのポケットから通信端末を出して確認すれば来たメッセージに思わず眉を顰める

 相手は刃。
 過去、丹恒の命を奪おうとし、どこまでも追行してきた恐怖の象徴であり、現在は彼の終わり無い人生に寄り添うと決めた人物でもあった。
 他者が聞けば意味不明な関係性を持つ人間からのメッセージが来た事、内容に困惑を隠せない。
「あぁ……?」
 連絡先を教えていない相手から来た事は、どうでもいいと言えばいい。穹辺りにでも聞いたのか、ハッキングを得意とする技術者が仲間に居るのだから簡単な物だろう。それはこの際、放っておく。問題は送られた内容である。

 美味しいお肉になるにはどうしたらいい?

 己等の関係性よりも、不可解なメッセージの内容に丹恒が柄の悪い呻り声を出してしまったのも致し方ない。
 これの主語はどこにあるのか。丹恒は液晶画面を凝視しながら頭を悩ませる。美味い肉料理を作りたいとする旨であるのか、もしや畜産でもやろうと言うのか。しかし、『なるには』とあるからには、何かが美味しいお肉になるための方法を問うている。前提を知らないと察しようがない内容ではないか。

 生真面目な丹恒は、己よりも彼等を知っているであろう穹に助力を求め、パーティー車両を通って彼の部屋へと赴く。
「すまない。今大丈夫か?」
 穹は散らかし放題の部屋を車掌に叱られたのか、懸命に掃除をしている最中であったが、丹恒の頼みとあらば。と、モップを放り出して駆け寄ってきた。単にサボりたい口実に飛びついただけだとしても、ありがたくはあった。

「美味しいお肉になりたいの?誰が?」
「だよな……。なるには。がどうにも引っかかるんだが……」
 刃からのメッセージを見せれば穹も困惑し、首を傾げてしまっている。
 破天荒を擬人化したような彼でさえ困惑させるとは、刃は何を思ってこのメッセージを送ったのか、困惑に困惑を重ねて返事が滞る。
「動物を育てる時に、どうしたら美味しくなるのか。とか?」
「単純に考えるなら矢張りそうか……」
「なんか詳しい事情は知らないけど、単純に金がなかったのか、物価が高すぎたのか、やばいレベルでかつかつの時があるらしいから、非常食でも育てときたいのかも……?」
 穹自身は状況を覚えていないのだが、星核ハンターは資金繰りが非情に困難になる時ある。そうカフカが零していたらしいと聞き、丹恒は非常食の方向で思考を纏め、
『所謂、人間のような雑食の生物は肉に癖があって人によっては不味いと感じる。肉食の生物は肉が固く臭みも強くなり易い。癖がなく柔らかい食肉を育てたいのであれば、穀物や果物、野菜を中心に与えるといい』
 との助言を返した。
 もし、認識が誤っていれば追加で説明が入るだろうと考えたが、刃からは了承の返事が来たため、合っていたのだと安堵する。
「刃ちゃんが丹恒に相談なんて、随分仲良くなったんだな?」
 穹がにまにましながら丹恒を肘で突き、楽しそうに絡んでくる。
 自身が深く情を寄せる人間達が仲良くしている事が嬉しいのか、穹は刃と丹恒が仲良くしていると、いつも以上に笑顔になり、その様子は微笑ましくも感じるのだが、
「邪魔したな。では、掃除の続きを頑張ってくれ」
 深く踏み込まれると諸々墓穴を掘りそうで、かつ面白がって余計な真似をする懸念があるため、丹恒は胡散臭い笑顔で回避するのだった。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 メッセージが来た事も忘れた頃、希少素材を得るための依頼を受けて刃が星穹列車へとやってくる。
 丹恒は刃の魔陰の発作が起きないか側で見張り、穹を待っていた。

「御免お待たせー!」
「お前が呼んだんだろうに、人を待たせるんじゃない」
 丹恒が軽い説教をしながら横目で刃を見やる。
 どこか違和感があるのだが、さりとてそれを明言化出来るほどのものでもない。気掛かりを感じながらも出発を待てば、穹が刃の顔へと無遠慮に手をやり、両手で頬を包む。
「刃ちゃん」
「その呼び方は止めろと……」
「なんか痩せてない?具合悪い?今日は素材回収止めてゆっくりしておいた方が良くないかな?」
 刃の叱責を無視し、穹は肩、腕、腰を順番に遠慮無く触れ、痩せていると確信を持つ。
「食事は……、きちんととっているのか?」
「とっている。問題ない」
 違和感の正体に気がついた丹恒が、星核ハンターの金欠問題を思い出し、怖ず怖ずと尋ねるも無下にあしらわれてしまった。特に不機嫌な様子はないものの、元々白い肌が更に青白くなっているようで、上目遣いに眺めていれば、無感情な瞳が見下ろしてくる。
「今日は素材回収止めて、ご飯食べに行こう。お金は俺が出すから!ね?金人港のご飯とか好きでしょ?」
 穹も同じ結論になったようで、刃を食事に誘うが彼は首を横に振る。
「なにか節制しているのか?」
「肉や脂っこいものは食べないようにしている。依頼が無いのなら帰るぞ。俺も暇じゃないんだ」
 丹恒の問いに端的に答え、刃は踵を返して帰ろうとするが、穹が引き留める。
「無理なダイエットは良くない!肉もきちんと食べないと体に悪いから、ご飯行こうよ」
 手首を掴まれ、移動を阻まれた刃が眉根を寄せて睨むも穹は引くどころか更に掴む力を強め、帰らせまいとする。
「肉を食うと肉が臭くなるんだろう?それは困る」
「何故、困る……」
 不意に、丹恒の脳裏に件のメッセージが蘇り、嫌な予感に胸がざわついた。
 刃は豊穣の神使の肉体となり、倏忽の忌むべき祝福によって肉体が損傷してもたちまちに修復されてしまう。恐らくは無限にだ。しかし、いくら何でもそれは……。と、否定しながら問えば、
「果物や穀物を食べていないと、カフカ達が食うものがなくなった時に俺の肉を提供出来なくなる。だから困る」
 ラウンジのソファーで聞き耳を立てながら珈琲を飲んでいた姫子が驚きに咽せてしまい、パムがモップを落とす。穹はハンターがそこまで金欠組織であった事実に慄きながら通信端末を手に取り、丹恒は表情を一気に険しくして、お前を返せなくなった。と、呟きながら龍身となった。
 丹恒が本相を出した事で、刃の魔陰が刺激を受けなかったと言えば皆無ではないが、黙って見守っていたヴェルトが彼へと歩み寄ると、幾許かでも食料の提供を打診し始めたため、暴れるに暴れられない状況になっている。
「あ、つ、通信じゃ、繋ぐぞ!」
 パムが慌てて機関室に行き、飛び込んできたホログラム通信を繋げる。
 そこに現れたのは銀狼で、明らかに寝間着のような服装で表情は強ばっていた。
『待って、あの、ごめん、待って!思い当たる事があるから待って!』
 若々しい少女の声がラウンジに響き渡り、ばたばたと走り去る音。
 数分も経たない内にカフカがホログラムとして現れ、暢気に挨拶などをしていた。
『カフカ!貴方が変な事言うから刃が真に受けてる!ちゃんと訂正して⁉』
 ホログラムに表示はされていないが、側に居るであろう銀狼の怒鳴り声にカフカは悠然と微笑み、さも『困ったわ』とでも言いたげに、頬に手を当てて首を傾げて見せた。
『刃ちゃん、もしかして、私が食べるものが無くなったら刃ちゃんを食べて生き延びようかしら。って言ったの本気にしてる?』
「どうせ俺は死なない。食べるなら美味い肉の方がいいだろうと思った」
 カフカに問われ、刃が同じように首を傾げて生真面目に答える。
「幾ら非常時と言えど、不味い肉は嫌だろう?」
『ほらもぉぉぉ、カフカ!ちゃんと違うって言って⁉刃に謝ってっ……!』
『あの、私も流石に人肉は食べたくありません……』
 銀狼が叫び、地団駄を踏んでいるのか足で地面を叩く音に紛れ、人肉を拒否する男性の声が小さくラウンジに響く。
「はいはい、おチビちゃん、そんなに泣きながら怒らないでちょうだい」
 少々面倒臭そうにカフカのホログラムは誰かの頭を撫でる動作をし、刃に向き直る。
「最近、やけにお野菜ばっかり食べてると思ったら、私達のために頑張ってくれてたのね?ありがとう、でも、私達が失敗なんて有り得ないんだから、この先、刃ちゃんを食べるようなことにはならないから安心して?可愛い子。食べたいもの食べてもいいわよ」
 ホログラム体が刃の頬を撫で、幽艶なる微笑みを浮かべながらカフカが告げる。
「そうか、解った」
 刃は彼女の言葉を素直に受け取り、小さく頷く様子を確認するとカフカは通信を切る。

 その場面を眺めながら、非常時に提供しろとの強要でなかった事。仲間に大事に想われている事は理解したのだが、カフカが丹恒を一瞥し、一瞬だけ微笑みを深くした理由が分からず、もやもやとした感情が残るばかりであった。

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