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スターレイル用

永遠に添うは一輪の華

・書きたい部分だけの短いの
・湿り気100%景元
・ちびっ子景元→応星
・片思い拗らせマン



 ▇◇ー◈ー◇▇

 仙舟に夕刻が訪れ、多くの人々が仕事じまいをし、または長い夜に向けて仕事始めの準備をし出す。そんな街中を訓練を終えた景元は金人港へと走り、露店で持ち帰りの料理を受け取って工造司へと向かう。

「応大哥」
 工房の中に入りながら景元は声をかけ、求める人物を探す。
 返事はなく、今日は帰ったのかと思ったが、製図室の前まで行くと作業する音が聞こえて呆れ半分、嬉しさ半分で扉を開ける。
「あぁ、人違いだったらどうしようかと思った」
 景元はにや。と、小生意気な笑顔で製図作業をしていた男、応星へ近づき、手土産を手渡す。
「ちゃんとご飯は食べた?」
「まだ。お優しい阿元は俺に差し入れしに来てくれた訳か」
「そうだよ。感謝してくれるかい?」
 小首を傾げながら戯けてみせる景元の額を指で弾き、応星は鼻で嗤う。
「正直に言え、『早く僕の武器を作って下さい応大哥様』とな」
 強ち間違ってもいない指摘に、景元は幼い顔立ちに皮肉げな笑みを浮かべて見せた。
 彼は己の師である鏡流、その友である丹楓、白珠が持つ武器を羨み、欲して止まない心根は応星にあっさりと見抜かれており、今更隠すものでもないと開き直っている。
「で、私の武器は出来た?」
「貴様に俺の作品はまだ早い。試作の剣で我慢しろ」
「そうか、残念だなぁ」
 如何にも残念さを主張するべく、景元はわざとらしい溜息を吐いて肩を竦めてみせれば、応星は笑いながら『精進しろ。阿元』と合わせて戯けて見せた。

 まだまだ認めて貰えない己にも落胆しながら、景元の頭を撫でる応星の手を享受する。
「それは何の武器だい?」
「新しい金人の試作品だな。門番みたいな無骨な奴じゃないぞ。しなやかに動いて美しく敵を追うんだ」
 機巧の事は景元には解らない。
 図面を見た所でそれが武器なのか絡繰りなのかすら判断が出来ないが、応星が造る物の美しさは理解出来た。景元が鏡流の弟子となった日、師の武器を見て、あまりの美しさと勇壮さに目を奪われたのだから。

 後日、鏡流が弟子を取ったと噂を聞いた応星が様子見にやって来て、
「まだひよっこだろ?ならこれをくれてやる」
 言いながら、渡してくれた試作の剣。
 試作、とは言うが、刀身は鋭いばかりではなく、まるで透き通るような輝きを持ち、柄は手に吸い付くように馴染んだ。ただ、師が手にした黒い光を放つ剣と比べてみれば確かに粗末であり、その日から景元は彼の造る武器に見合うような将になる事が目標となった。
 以来、景元はせっせと訓練終わりに工房へと通い、袖の下を渡しては催促をしているのだが、応星は頷いてくれない。
「私がもっと大きくならないと駄目なのかな?」
「そうだなぁ、俺の造る武器は大ぶりなのが多いし、今のお前だと武器を使うんじゃなくて武器に振り回されるのが目に見えてる。それとも、子供用の武器でもあつらえて欲しいか?」
 景元の見目は殊俗の民で言えば十四、五程度。身長も立てば応星から見下ろされてしまう高さだ。彼の武器はその人に合わせた至高の物。現状に合わせては、将来使いづらい武器となってしまうため首を横に振り、今の身長に合わせた武器は拒絶する。
 己が死す刻まで、その武器と共に在りたいと願うが故に。
「急いで大きくなるよう頑張るよ。応大哥も、私の武器を造るまで元気で居てくれないと困るよ」
 未来の約束と共に、まだ子供の見目で小煩い説教をする景元の頬を『生意気』と、笑いながら突き、激励と共に頭を撫でてくれた。この子供扱いも出来ないほど、早く大人になりたいと景元は願う。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 景元の工房通いは徐々に職人仲間に浸透し、見かければ応星の同僚が『また献上品持ってお伺いか』などと茶化してくる。
「そんなものです」
 角が立たない程度に応対し、景元は応星の工房へと向かう。
 今日は軽食の他に珍しく花を売っている露店があったため、ついでに購入し、応星の元へと急いだ。

「応大哥?」
 声をかけながら炉のある部屋、製図室、休憩室を順に回ってみたが姿はなく、帰宅したのか、雪隠か或いは出かけているのか景元を悩ませた。
 帰宅しているなら家を訪ねればいい。用を足しているだけなら直ぐに出てくるだろうが、出かけているとなるとどこへ行ったのか想像も付かず、悪あがきとして倉庫から余り踏み入れない部屋まで開いて景元は応星の姿を求めて彷徨った。

「あ……」
 程なくして粗末な寝台の上で寝息を立てる応星を発見し、景元は口を噤む。
 どうせ、眠りもせずに残業していたのだろう。そう直ぐ予想が付く辺り、生き急ぐ応星に頭を抱えたい気分になった。雲騎軍の兵士、ないし将も戦地に赴くため長い生を全う出来ず、短命に終わる者が多いが、短命種の職人は正に命を削りながら制作に没頭するため、仙舟人にとっては信じられないほどの短命となる場合が多い。
 短い命を輝かせ、散っていく様は流星の如く。景元は、応星がその名の如く儚く散ってしまう事を望まない。

「ん……」
 人の気配に目を覚ましたのか、応星が薄く目を開け、景元を視認すると億劫そうに体を起こす。
「あげん……、ぶき……」
「解ってる。休んでてくれ」
 武器はない。
 言いかけた応星を寝台に戻し、布団を掛ければ余程限界だったのか直ぐに寝息を立てだした。
 くまが酷く、肌つやも悪い。昨日も食事を忘れていたような言動があり、それからどれだけ無理をしていたのか一目で分かるほどで、景元は頬に手を当てて、冷えた肌を温めるように触れていた。

 全く起きる気配がなく、熟睡している応星の髪を指で梳き、暇潰しに銀白色の絹糸を編んでいく。
 あと少し、自ら応星が起きなければ撤退するつもりだったが、一時間もそうしていれば自然と目を覚ました彼が目を瞬かせながら景元を見詰めた。
「起こせば良かったのに」
 一度起きた事は覚えていないらしく、大きく伸びをする応星に景元は苦笑する。
「なんだこれは……」
 髪に触れて異変に気付いた応星が景元を見やる。
 半分だけが編み込まれた髪を解こうともせず摘まんで揺らしているあたり、面白いと思ってくれたのか。
「おい、阿元、後ろを向け」
「はいはい」
 悪戯を思いついた悪童の顔で笑い、応星は景元の髪を弄り出す。
 あちらこちらと自由奔放に跳ね回る長い髪をひとまとめにしている紅い紐を解き、手櫛で解しながら器用に編んでいく。
「よし、格好いいぞ」
 景元の目には見えないため、どのような頭にされたのかは検討もつかないのだが、応星が満足そうなので気にしない事にした。
「では、私もやらせて貰うかな」
 応星の半分だけ流された髪を指に絡め、景元が編み込みを再開する。
 特に抵抗もせずに任せているからには応星の良い気晴らしになっているようだった。
「出来たよ」
 全ての髪束を編み込み、後頭部で一纏めにして簪ではなく買ってきた花を刺す。淡い紅の牡丹は応星の白い髪に映え、華やかに彩り目を楽しませてくれた。
「いい匂いするな」
「花が綺麗だったものでね、応大哥に似合うと思って」
「風流人だな。将来、どれだけ女を泣かせるつもりだ?」
 応星がくつくつと喉を鳴らし、景元を茶化す。
 今からこの調子では、とんだ遊び人になりそうだと。
「失礼だな。私は一途な方だよ?」
「餓鬼が生意気を言う。ふん、ま、いい。飯でも食いに行くか」
 上機嫌になった応星が景元の手を引いて金人港へと向かう。
 髪に花を飾る麗人を、擦れ違う人はちらちらと見ては来るものの声はかけない。景元は応星よりも背が低く、子連れで食べに来たようにしか見えないのだろう。

 その予想通りに顔馴染みでない露店の店主からは
「お父さんと食べに来たのかい?」
 などと、言われてしまう始末で、む。と、景元は唇を引き結んだ。
 己が大人の風格を持っていればこのような勘違いはないはずで、早く大人になりたい気持ちばかりが先走る。
「俺の子じゃないけど未来の将軍様だから贔屓してやってくれ」
「あらあら、それじゃおまけしておくよ。うちの店を宜しくね、将軍様」
 店主まで悪乗りを初め、からからと応星は笑いながら肉饅を買い求めると景元の頭を撫でた。
「将軍……」
「ん、俺の武器を使うからには、将軍様くらいにはなって貰わないとな。それとも、自信が無いか、阿元」
「成ってみせるさ」
 持ち前の負けず嫌いを発揮して、ふん。と、景元は鼻を鳴らし擽ったい心地となる。
 未来の将軍。応星が己の武器を与えるに相応しいとする人物。それに成れと、成れると言葉に表してくれた事実が嬉しく、景元は肉饅を頬張りながらにやけそうになる口を隠していた。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 景元が工房に通うになって数年。
 応星と変わらないほど景元も身長が伸び、身分も将軍の側仕えである雲騎驍衛まで昇格して躍進を続けていた。
「応星、今日は仙人爽快茶を買ってきたから早めに飲んでくれ」
 軽食の入った袋とは別の袋を応星と顔を合わせるなり掲げ、近頃のお気に入りである乳脂と甘味料がたっぷり入った飲み物を景元が渡す。
「おー、この間美味いって言ってた奴か」
 丁度、研ぎの作業が終わったのか、応星が磨かれた陣刀を机に置き、景元に渡された飲み物を遠慮無く受け取り口に含む。
「甘いなー。これだけで腹一杯になりそうだ」
 中に浮いた甘い乳脂を混ぜながら応星が中身を懸命に吸っているが、景元の視線は今し方、完成したばかりの陣刀に注がれている。
「これをくれ」
「あ?」
「いや、貰う」
 これこそ、己のための武器だ。
 景元は直感でそう思ったのだ。

 全長は六尺を超え、形は薙刀に似ているが、翠の長柄に施された金の装飾は繊細で美しく、二尺ほどの刃は将軍が操る威霊の如く神々しく輝いている。
 応星は勝手に陣刀を掴んで持ち去ろうとする景元を止めようとするが、軽食の入った袋が空中に投げられ、視線がそちらに寄ったため一歩遅れてしまった。
「返せ、景元⁉」
「断る。これは私のだ!」
「いいからとりあえず返せ!」
 はっきりものを言う応星が、『お前の物ではない』とは言わずに強奪して逃げる景元を追いかけてくる。
 景元は更に己のために造られた物なのだと確信し、応星にどれだけ叱られても、師匠に窘められても頑なに奪った陣刀を離そうとはせず、他人に譲る事がない二人が最終的に根負けしたほどの強情さであった。
「この頑固者め」
 との、捨て科白に景元はにんまりと笑う。
 応星は口やかましく手入れの方法を景元に教え、時に丁寧に手入れをしてくれた。
 景元はそれをいつも微笑みながら聞き、眺めている。

 手入れをする横顔に、少しずつ刻まれてきた皺。
 彼の重荷には成りたくないあまり、心は告げないでいた。しかし、見守るだけでいいとする幼稚な綺麗事を覆す後悔は、直ぐにやって来た。

 白珠が死んだ。
 倏忽の幻覚により、龍狂に陥った丹楓と多くの命を助けるための決断だった。
 そして、彼女の死を切っ掛けに全てが狂っていった。白珠の死を受け入れられない、認められなかった丹楓と応星は、二人で何かを画策しだした。師である鏡流も魔陰の身に堕ちる兆候が現れだし、自らを隔離し始めた。どこか不和を感じながらも、きっと時間が解決してくれるはず。時間が悲しみを癒やしてくれる。として、何もしなかった己の判断は誤りであったと景元は知る事になる。

 己にとっての幸せな居場所が瓦解していく絶望感。
 応星は憎んでいた豊穣の使令である倏忽に肉体を呑まれ、死に忌まれる伽藍の骸となって幽囚獄へと幽閉された。
 丹楓は内乱を起こした主犯として裁きの場に在り、判決文を読み上げる声が引きつり、震えないよう懸命に堪えながら景元は、友であり、仲間で在った彼を断罪した。

「私が護りたかった仙舟は……、居場所は、こんなはずでは……」
 独り慟哭する彼の声は誰の耳にも届かない。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 将軍様。
 転た寝をしていた景元が青鏃に揺り起こされ、瞼を上げる。
「あぁ、なんだい?」
「縁談の話が来ておりますが、また断るんですか?」
 仙舟将軍の娘、豪商の娘、貴族の娘等々。
 仙舟以外からも、羅浮将軍である景元と繋がりを持とうとする相手からの縁談話は絶えずやってきた。

 景元は、その悉くを断り続けている。それが、不興を買う事も理解はしているが、愛せないと分かり切っているのだから、不誠実な真似は出来なかった。
「何と言って断ったらいいんですか?」
「そうだね、私が心に決めた妻は一人だけで、その人以外を娶る気は皆無なのだと伝えてくれ」
「なら、その人を連れて来い。などと詰められるのは私なのですが……」
 青鏃は嫌そうに表情を歪めながら、しつこく縁組みを申し出る相手の懐柔が如何に面倒かを語る。
「いつも通り、その人は、もうこの世に居ないのだと言えば、相手も言及しないだろうさ」
「多少説得力は在りますが、それでも食らいついてくる方はいらっしゃるのですよ」
 景元は小さく息を吐くと、脇に置いた陣刀『石火夢身』を指先で撫でる。
「すまないね。私は一途なんだよ。頼んだ」
 穏やかに微笑みながら無茶を言う上司に青鏃も諦めたのか頭に手を当て、悩ましい声を上げながら離れていった。

 正室が無理なら側室に。それでも無理ならただの側女でも構わないとする人間は案外多い。景元が一度頷けば、彼女たちに自由が無い代償に、一族郎党が生涯安楽な人生を得られるのだから必死にも成るだろう。
 だが、応えるつもりは毛頭無い。秘書に面倒な苦労をかけている事は理解はしていても、安易に受ければ誰もが不幸になるだけである。

 もう、景元は間違える訳にはいかないのだ。

「私が生きている間に、また巡り会ってくれるかい?」
 物言わぬ陣刀に語りかけ、景元は自嘲に唇を歪める。
 幽囚獄から消えた応星。死ねない体の彼は、今もどこかで生きて彷徨っている。
 倏忽の捜索と銘打って羅浮の探索能力を駆使しても見つからない彼の影は、一体いつ踏めるのかも解らないが、景元は待っている。
「あぁ、眠いなぁ……」
 景元は欠伸をすると暖かな陽光が差す窓を顧みて、輝かしい星を幻視する。
「少し、体を動かしてくるよ」
 声をかければ遠くから青鏃の返事が聞こえ、景元は訓練所まで陣刀を持って赴く。

 幸せな夢にもう暫し身を委ねたくても、将軍たる身はやる事が多過ぎるのだ。

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