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スターレイル用

死なば諸共に:途上

・あんまりだしテンポ悪くなるかな。と思って省いてた分
・一応R18G
・応星を生き返らせる丹楓
・折角だし上げる







 今日ほど、持明族の龍尊など下らない役割を持ったこの身に感謝した日はない。

 過去龍尊が書き留めたありとあらゆる記録の数々を読み解けた事。
 丹薬の豊富な知識に禁書の閲覧が容易であった事。
 水、厳か霊を操る能力を持って産まれた事。

 全てが、この日のために在ったのではないかとすら思えてしまう。

 霧が流れていった場所から順当に上がる悲鳴。
 突然の災禍を呪う怨嗟。
 救いを求める声。

 魔陰に堕ちた身内や恋人、友人に殺される者、魔陰に変わった者の身体強化をする薬剤も混ぜてあるが故に生半可な雲騎軍兵士では太刀打ち出来ず、鎧を着た死体も目につく。
 これだけ派手な災禍が起これば、十分な目眩ましになるだろう。
「龍尊様……!ど、どうかお助けを……!」
 命からがら逃げてきたのだろう女がまろびながら丹楓の足に縋り付く。
 背後には彼女を追ってきたのであろう魔陰の身に堕ちた者が迫っており、邪魔だな。と、感じた丹楓は、縋ってきた女ごと魔陰の身を厳か霊で焼き殺し、目的の場所へと歩いて行く。

 葬儀場周辺は意図して霧を薄くしていたため、被害は少ない。
 入り口には落ち着かない様子だが持ち場から離れられない雲騎軍兵士と、外の不穏な空気を感じ取ってか従業員らしき女が懸命に話しかけていたが、明確な回答が得られず苛立っているようだった。
「あっ、龍尊様。今、一体何が起こっているのでしょうか⁉仲間とも連絡が取れないのです……!」
 兵士の発言から、どうやら通信網も落ちていると知れる。
 時間稼ぎに攪乱できれば良しとしていたが、これで人の足で走り回って伝令するしかなくなるため都合が良い。
「魔陰が至る場所で発生している。援護に行け」
「はっ!」
「え、あの、龍尊様は、救助に行かれないんですか?」
 兵士だけであれば、単純な命令だけで排除出来ただろうが、女が余計な口を聞き、俄に兵士か挙動不審となる。
 苛立った丹楓が表情を険しくすれば、怖じはしたが、
「せ、仙舟を鎮護するのが五騎士と雲騎軍の役割でしょう⁉」
「龍尊様、どうか先頭に立って指示を、我々の指揮を執って下さい!他と連携とれない今、貴方様しか頼れないのです……!」
 女に腕を掴まれ、兵士には喧しく縋られた。
 通常であれば、丹楓も仙舟を、民を護るべく奔走する姿があっただろう。
 しかし、今は状況が違う。現状を引き起こしたのは丹楓自身であり、目的を邪魔する存在は、雑草にも劣る。
「去ね」
 丹楓が手を薙ぎ、水の刃を振るえば女と兵士の首が胴体から離れ、赤い血潮を吹き出しながら地面に転がった。背後から悲鳴が聞こえたが、かかずらっている暇などは無く、血溜まりを踏み、応星が安置されている場まで赴く。

 百花に覆われた荘厳な祭壇。
 応星が短命種差別のある仙舟でも、どれほど慕われていたのかが窺える壮大な設備。
 棺の中に安置された応星は、死に化粧を施されているのか、まるで色とりどりの花に埋もれながら眠っているだけのように見えた。
 だが、このままであれば、二度と瞼を開く事も無なければ、微笑んでもくれない。

 丹楓は袂から薬を出し、口に含むと動かない応星の唇を開かせ、口づけて流し込んだ。
 触れた頬は冷たく、柔らかかった唇は硬い感触を返すが、丹楓は薬を流し終わっても構わず口づけを続け、唇を離せば、左手の腕甲を外して応星の腕に装着した。
 一対の腕甲は、互いを引き寄せるのだ。これがあれば、どれだけ引き離されてもいつかは出会える。これから、永久とも言える時間を過ごす応星にとって、殺意は生きる目的になるだろう。
「応星、赦せなどと寝惚けたものは言わぬ。恨め、憎め、俺を追え……」
 丹楓は祈るような言葉を吐き、服の合わせを剥ぐと胸部を一文字に裂いて心臓を露出させ、自身の尾から剥ぎ取った鱗と肉を応星の体内へ埋め込めば、手首を爪で裂いて応星の心臓へ龍の不朽を注ぎ込む。
 血が固まって流れを止めれば何度も爪で腕を裂き、抉れた傷跡が無数に増えていった。

 丹楓が注いだ血液は応星の体から溢れる事無く体内に吸収され、白かった髪が濃い紅を吸った花のように黒く染まり出し、裂いたはずの胸の傷が徐々に塞がっていく。
 傷が完全に塞がれば、応星の体が大きく跳ね、ひゅう。と、喉が鳴って胸が上下すると薄く瞼が開き、丹楓を血色の瞳で捕らえた。
「応星……」
 名前を呼んでも、返事は無く、応星はただ丹楓を見詰めている。
 だが、丹楓は満足気に棺から応星を抱き上げると切り刻まれた腕で抱き締める。体は未だ冷たいが、胸に手を当てれば、とくとくと心臓が鼓動を打ち、応星の黄泉がえりを確たるものと確信させてくれ、丹楓の心の内は歓喜で満たされた。

 月など、太陽が無ければ巨大な石塊に過ぎない。
 自らを燃やし、光り輝く星こそ真に闇夜を照らす存在だ。
「俺は、もう、星のない闇夜を歩けんのだ……」
 丹楓は呻くように呟き、応星を強く抱き締めながら口づける。

 『丹楓』としての逢瀬は、これが最後になると覚悟をしながら。

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