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スターレイル用

馬に蹴られる一般人

・炎豊穣の応星妄想
・応星に癒やしを求めるモブ兵士視点
・応星に片思い中の丹楓




 対人の模擬戦で相手の切っ先が腕に当たり、怪我をしてしまった時、やった。と、思った。
 今日の模擬戦の訓練担当は応星様だったからだ。

「大丈夫か?」
 慌ててはいないものの、訓練場の石畳を汚す程度には血が大げさに出て座り込んでいるため、応星様が小走りに駆け寄ってきてくれた。
「じっとしてろよ」
「はい!」
 応星様が血で汚れるのも構わず、心臓より高く俺の腕を支えながら上腕の太い血管を指で抑えて止血してくれ、掌で血を拭うと傷を確認して炎を灯してくれた。
 決して熱くはない。寧ろ抱き締められてるような暖かさで、じんわりと心までが温められて安心するような優しい炎が傷を癒やしていってくれる。この瞬間が好き過ぎて、応星様がいらっしゃる時はわざと怪我をするくらいまである。

 仲間からは、わざと怪我するのは止めとけ、ばれたら事だ。とか言われるけれど、応星様はお優しいから怒ったりしないし、寧ろ良く怪我する俺に気にかけてくれている風もあるから、止められない。
 応星様の、剣士ではなく職人として培われた皮膚が厚くて長い指に触れられ、優しい声色と眼差しで見詰められたらもう虜だ。短命種のこのお方は、万が一がない限り仙舟人の俺より先に死んでしまうだろうから、せめて寿命を全うしてくれるよう、全力で護ってみせる。そんな決意も湧く。

「まだ痛いか?」
「いえ!大丈夫です!」
 それはもう自分でも解るくらいの良い笑顔で返せば、何者かに頭を鷲掴まれ、一瞬で恐怖に引き攣る。
「おい、止めろ」
「応星、このような俗物に一々力を使うな。貴様の命が削れる」
「そこまで無理して使ってないから大丈夫だよ。放してやれ」
 顔は見えないが、声からして龍尊の丹楓様だ。
 元々、落ち着いた方ではあるけれど、なんだか声が怖い。
 応星様も険しい表情をされてるし、掴まれた頭に尖った爪が食い込んで別の傷が出来てるっぽくて痛い。
「申し訳ありません!あの、この程度で頼ってしまい軽率でした……」
 このままじゃ、頭が瓜みたいに割れるんじゃ無いか。なんて恐怖でまくし立てれば、何かを叩く音が頭上でして、頭から手が放される。
 ちら。と、後ろを見れば、応星様が丹楓様の頬を張った音だったようだ。
「みんな大事な仲間だ。俗物なんて言って虐めるな」
 叩かれた事に驚いたのか、丹楓様は目を見開いて応星様を見ている。止めて、私のために争わないで。
「す、すみませ……!」
「お前が謝る必要は無い。丹楓が謝れ」
「何故、吾が……」
 龍尊に対して、こんな口が聞けるのって応星様くらいだよな。
 持明族は尊大で我が強く、誇り高い種族だから、短命種なんて人間とすら思ってない。って良く聞くのに、許してる丹楓様も良く分かんないけど。
「悪い事したら謝るのは当たり前だ」
 本当に気が強い。これが他の長命種達を軒並み実力で黙らせてきた男の気概って奴なんだろう。見た目は天女みたいだし、俺だったら丹楓様が怖くて一言も喋れないのに。

 すまなかった。

 小さい。本当に小さな声で丹楓様が謝罪を口にした。
 持明族に謝るって概念があったんだ⁉そこに先ず驚いた。
「うーん、まぁいいか。良く言えたな」
 応星様が、確実に数百才は年上だろう丹楓様の頭を撫で、いつもの優しい笑顔で褒めて上げていた。丹楓様はぎゅ。と、唇を引き結んで、眉間の皺も凄い。でも、怒ってる感じはしない。なんだろうこれは。照れてる、のか?
「お前も怪我したら言えよ?龍尊の力だって万能じゃ無いんだろ?俺、案外頑丈だから大丈夫だって」
「だが……」
「大丈夫。心配性だなぁ」
 快活に応星様が笑って丹楓様に笑いかけている。
 強いなぁ。憧れる。
「あ、ほっぺ叩いてごめんな」
 そう言うと、応星様が丹楓様の顔を両手で包み、優しい炎が頬に薄らと出来ていた赤みを消していく。龍尊は不朽の力で常人の数倍も早く傷が治る上に、自前で癒やしの力だって持っている。
 けれども、応星様は丹楓様を特別扱いしない。
 良くも悪くも誰にでも平等なんだろう。
「この程度で使うなと……」
「大した事ないって、交代に来たんだろ?じゃあ、俺工房に戻るから、またな」
 お前も頑張れよ。そう言って俺にも声をかけてくれた。
 はー、もう好き。

 手を振って訓練場を出て行く応星様の背中を眺めていたら、猫の仔を掴むように服を掴まれて持ち上げられ、立たせられた。
「貴様は良く怪我をするそうだな。訓練が足りんようだ。吾が直々にしごいてやろう」
 応星様から聞いたんだろうか。
 俺の口から、細長くか細い悲鳴が出たが、丹楓様はさっさと槍を構え、剣をとれと言う。
 嫌だ、怖い、やりたくない。殺される。

 体の軸がぶれている。
 剣の持ち方も成っていない。
 武器を振るう時は敵をしっかり見ろ。
 敵の武器を受けるときに体を縮こめるな。

 日が暮れるまで様々な指摘を受けながら本当に限界までしごかれ、俺は訓練場の石畳の上に倒れていた。
 丹楓様が帰ると、仲間が寄ってきて、
「お前、鈍すぎるだろ。馬鹿だなー」
「気付よな、あんな解り易いの」
 とか言われたけど、なんなんだよ。

 先に倒れてる可哀想な俺を労れ。

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