・エ口ターン
・薬物使用の描写
・主に恒刃
・丹楓が酷い男(通常運転
・短め
・相変わらず苛められる丹恒
▇◇ー◈ー◇▇
刃が白い肌を赤く染め、体に残る傷跡をより鮮やかに色づかせながら玉のような汗を流してあえかな声で喘ぎ、息を詰まらせながらする呼吸の官能的な響きに丹恒は湧いた生唾を飲み込む。
「ぁっ……ん、ぅ……」
丹恒が性器を深く挿入して奥を抉るように動かせば、刃の腰が痙攣するように揺れ、精を溢れさせる事なく達していた。その度に、刃の体内は丹恒を求めるように収められた性器を締め付け、精を搾り取ろうとするように蠢く。
一度、丹恒が精を刃の体内に吐き出したせいで、ワセリンだけではない滑りで動かす度にぐちぐちと猥雑な音が鳴り、それが嫌なのか、それとも、もっと奥深くを犯して欲しいのか、刃が丹恒の腰に足を絡めて押さえつける。
「刃、動けないんだが……」
「うご、くな……」
刃が浮いた涙を払うように瞬き、茫とした眼差しで丹恒を見詰めて腕を掴む。丹恒が激しく体内を掻き回し、犯し尽くしたくなるような衝動を抑えながら、刃の言葉を待っていれば、大きく息を吐いて、
「こわい……」
と、呟くように言った。
「何がだ?」
「頭が、ふわふわする……、沈む……、少しずつ……」
「沈む……?」
訥々と話す刃は、丹恒を瞳に映しながらも虚無を見詰めているような様相であり、ふと、嫌な予感を胸に過らせる。ただ、それは今考えてもどうしようもない事で、丹恒は刃を宥めるように大丈夫。そう繰り返して縋りつく強ばった体を撫で、落ち着かせながら抱き込み、口付けた。
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ぐったりとした刃の体を支えながら浴室へ行き、体を流している最中に寝息を立てだしてしまった。
丹恒一人では刃を抱える事は出来ず、夏の盛りに入り出した季節とは言え、濡れたまま裸で居れば風邪を引いてしまうだろう。丹恒が湯を浴びて性交の残滓を流し、脱衣所の天井棚に入っていたバスタオルを引っ張り出して刃の顔や髪、体を拭きながら包む。
拭いている最中、無駄に肉付きのいい胸や太腿を無意識にしつこく触っていた事に気がついて、盛りのついた犬でもあるまいし。と、自身の頬を抓る。丹楓に殴られて痣になっている場所は触るだけでも痛く、強制的に目を覚ますには最適だ。
丹恒が腰にタオルを巻き、重い体を半ば引き摺るようにして浴槽から上げ、刃の自室へと連れて行く。その最中、己に丹楓の如く上背があり、軽々と横抱きに出来るだけの腕力があれば格好もつくのだが、半ば気絶のように眠ってくれた事に感謝するほど、想い人を引き摺って運ぶ様は情けない。
刃を寝台に寝かせ、情けなさに打ち拉がれながらも隣室の音を確認する。
既に隣室からの音は聞こえず、眠っているのか、同じように風呂に行ったかのどちらかだろう。
「髪、乾かさないとな」
適当にだぼつく服を借り、脱衣所から新しいタオルとドライヤーを持って戻ると、丹恒は甲斐甲斐しく刃の世話を焼く。寝かせたまま刃の長い髪を乾かし終えるのは難儀したが、触っていたい欲求が強いのか、然程苦でも無かった辺り、気付いていなかっただけで重傷である。無論、怪我の事では無い。
側に在るだけで何とも浮き立つ心地になり、口元が緩む感覚は今まで味わった経験が無い。
丹楓も、この感情を味わっているのだろうか。なればこそ、あの冷血漢が揺らいでしまったのも無理はなし。そう理解出来てしまう辺りが、矢張り、丹楓と己は兄弟なのだと実感せざるを得ない。
怪我した状態で動きすぎたのか、少しばかり具合は悪いが応星の寝床をどうにかせねば。と、丹恒は立ち上がる。
自分の寝床であれこれやられたのだと知ってしまえば、少なくとも丹恒はそこでは眠れない。激しい喧嘩の後でアドレナリンが出ていたにしろ勢いとは恐ろしい。後を何も考えていなかった。否、刃も拒否をしなかったのだから責任は自身にないのでは。などと責任転換をしながら移動し、足下に気をつけながら下らない悋気で放り投げた枕の埃を払い、カバーをとる。同じく、布団や皺くちゃになった敷布も回収し、洗濯機に放り込めば後は乾燥まで待って、敷き直すだけである。
そこまでやれば隠蔽完了になるが、何故、敷布諸々が交換されているのか気付かれれば、どう言い訳をするか。
恐らく、応星も今はそんな些末なものを気にする余裕はないはずで、それに賭けるしか無い。
洗濯が終わるまで暇になってしまったため、なんとなしに刃の髪や顔を撫でる。
すると、刃が身動ぎをして艶めかしい声を漏らす。先程、出したばかりで落ち着いていた欲が刺激され、下腹部がむずむずと騒ぐ。顔や髪を撫でているだけで性感を刺激されるとは考え難く、丹楓と応星が場所を変えて宜しくやっているのだろう。
人の事は言えないが、しつこすぎやしないか。そんな他人事の感想を抱きつつ、意識の覚醒が無いまま膝を摺り合わせている姿は丹恒の心臓の鼓動を早める。
もう一回くらい抱いてもいいのでは。
意識の無い相手に手を出すのは人としてどうなのか。
二つの感情が鬩ぎ合うが、刃の媚態に若い欲求は下半身に兆しをしっかりと見せており、洗濯機もまだ洗いすら終わっていない。
「刃……、あの……」
頬を軽く叩いて覚醒を促しているが、意識は深く沈んでいるのか目は開かない。
丹恒は罪悪感を覚えながらも覆い被さり、柔らかい胸に手を這わせると、少しかさついた掌が乳首を擦る刺激に刃の体がぴく。と、反応を示したため調子に乗って揉みながら、もう片方を口に含んで舌で刺激する。
「ぁ、……ふ、んぅ」
恥ずかしがって抑えようとせずに素直に出てくる声に丹恒の鼓膜が擽られ、あっさりと自制心を手放した。
刃の足を抱え、半勃ちの性器を押し込むと、先程まで受け入れていた孔は容易く丹恒を迎え入れ、締め付けてくる。
ゆるゆると擦れば刃の腰が跳ね、息を弾ませながら嬌声を上げた。本当に意識が無いのか、初めてなのか不可解なほど感度が良く、中の具合も良い。ここまで起きないのなら、よもや、ジムの先輩とやらに疲れて眠っている間に抱かれていたのでは。そんな妄想が過る。
自身の勝手な妄想に苛立ちと悋気を感じ、激しく揺さぶれば刃は敷布を掴んで魘されているような表情で悦楽を感じていた。
勃起をしないのだから男性としては不能にしても、こうして抱かれて感じているのだから、受け入れるに問題は無い。
刃は事故以来、あまり外に出ないのだから、いっそ閉じ込めてしまっても良いのでは。不穏な思考が浮かんでは消え、寄ってくる相手が男だろうと女だろうと、赦せなくなってしまいそうな己を否定出来ずにいる。
「あぁ、くそ……」
自身に毒吐き、頭を振って余計な思考を追い出し、丹楓ではあるまいし。余計な影響を受けすぎだ。もっとまともな思考をするべきだ。懸命に一般常識を思い返そうとするが、刃の淫蕩な声、吐息に脳みそが侵されていく。
中にこそ出さなかったが、刃の腹に飛び散る精がなんとも言えず穢した証のように見えて手近にあったティッシュで拭き、布団を刃に被せてより一層、脱力する。丹楓と共に生活をしてたお陰で大分、思考が一般からかけ離れている。
「すまん……、本当に……」
興奮の落ち着いた頭で考えれば、全ての妄想は荒唐無稽だと断じれるが、嫌な所で兄弟の自覚が出てしまうとは、想像だにしてなかった。あれほど丹楓の所業を嫌っていたにも関わらず、極端な思考に走れば似たようなものになる。
自身に失望し、寝台に座ったままぼんやりと何も無い空間を眺めていれば、洗濯が終わり、乾燥を開始する旨の音が鳴って現実に引き戻された。
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刃がよく眠っている事を確認し、仕様も無い隠蔽を終えた丹恒がバルコニーから電気の点いた居間に帰宅すれば、丹楓がソファーに座って珍しく煙草を吸っており、硝子戸を開けたまま外から侵入してきた弟に形の良い眉を顰めた。
「お前が閉め出すからだろうが……」
「そう言えばそうだったな」
素知らぬ顔で煙を吹かす丹楓にむかっ腹が立つものの、喧嘩をするような元気は無い。
それに、不愉快な匂いが室内に充満して胸が悪くなりそうだった。
「大麻なんか止めろ」
「貴様のせいだろうが、こっちは肋が折れて痛いんだ」
言う割に、平然とした顔だが、生半可な痛みで丹楓は表情を変えない。
魑魅魍魎が跋扈する黑社會を牛耳る蒼龍会の跡取りとして丹楓は、そう躾けられている。しかし、神経は肉体に痛みを伝え、発熱もさせる。酒ばかり呑むせいで通常の鎮痛剤が効き辛い丹楓は、代わりに大麻を頓服しているようだが、この国では違法のものだ。どこから買ってきて、隠していたのか、どうやって見つけ出して処分するか丹恒は頭が痛くなる。
「まさか、応星さんにも使ったんじゃ無いだろうな?」
「使ったがそれがどうした」
煙草にした物以外にも別の形で摂取する方法はある。
例えば液状の物、ゼラチンでシート状に固められ、舌に乗せて唾液で溶かす物などだ。食物、飲料に混ぜる方法もあるが、そんなまどろっこしい真似はしていないだろう。十中八九、無理矢理飲ませたのだ。
「久々に使うと悪くない」
「最低だなお前」
「便乗した分際で良くもまぁ……」
にた。と、丹楓が嗤い、丹恒が刃を抱いた事が露見している事態に動揺する。
「刃にどれくらい伝わったかは知らんが、楽しかっただろう?服せば処女でも善がり狂うぞ。応星は泣いて許しを請う程効いていたが、刃はどうだった?」
丹楓は挑発するように煙草を揺らし、眼を細め、楽しげに口角を上げる。
本気で、刃の様子を効きたがっているのではなく、ただただ丹恒に対する意趣返しと揶揄を同時にやっているだけだ。
「はは、随分刺激が強かったようだな」
何も言い返せない弟を嘲笑う丹楓を、もう一発くらい殴ってやろうと丹恒が足を踏み出すが、力が抜けて床に倒れ込む。
「煙程度で情けないな。また訓練が必要か?」
丹楓が立ち上がって丹恒の頭を小突く。
訓練の言葉に身じろいで睨め上げ、頭を踏む足首を掴んで払った。
味や感覚を覚えておけ。そんな科白から始まった毒、幻覚剤に慣れるために飲まされた数々の薬は地獄だった。致死量には至らないとは言え、血を吐き、体を蝕まれ、全てから解放されたような感覚があったかと思えば、気味の悪い蟲が全身を這い回るような悍ましい幻覚、地面へ沈み込み、どこまでも落ちていくような恐怖。
二度と味わいたくなどない。嫌な予感も的中して丹恒はこの男とは、ほとほと相容れないと確信する。
「私の部屋で応星が寝ている。起きたら世話をしてやれ」
再度、丹楓は床に這いつくばっている頭を小突くと、吸っていた大麻の葉で作られた煙草を丹恒の口に押し込み、小馬鹿にしたように嗤うと出て行った。
煙草を口から外して床で捻り潰し、脱力する体と揺れる意識を叱咤して蹌踉めきながらも立ち上がる。
丹楓が与える容量を間違うとも思えないが、応星が気がかりだった。
事後の消耗した人間を見るのは忍びなかったものの、人命は何よりも優先されるべきだ。
ぼろぼろに散乱した部屋の片付けを思えばうんざりしつつ、丹恒は唸り声を上げて丹楓の部屋に入る。
元からあったのか、居間からの煙が流れ込んだのか、部屋にも大麻の匂いは充満しており、扉から差し込む灯りに晒された応星は服を着ておらず、布団をかけられてはいても常より青白く見えて肝が冷えた。
換気にバルコニーに通じる硝子戸を開け、そろそろと応星に近寄って口元に手をかざせば呼吸は正常で、丹恒は胸を撫で下ろす。応星に固執している丹楓が、死なせるような真似をするとは思えないが、思考の傾向を考えれば『私の手に入らないのなら、今後、誰のものにもならないよう死なせたとて構わない』などと曰いそうだった。
「ぅ……」
灯りの刺激で意識が浮上したのか、応星が薄く瞼を上げる。
「あ、大丈夫で……」
「この……」
声をかけようとすれば弱々しいながらも頬を平手で打たれ、丹恒は唖然とする。
「あと、で、ぶんなぐ……」
「俺は丹楓じゃない……」
苦情を言葉にしても、応星の手が寝台に落ち、再び気絶したようで誰も丹恒の不満を聞いてはくれない。
頭がぐらつく中で全てが阿呆臭くなり、丹恒は床の上で大の字で目を閉じた。
応星も、人を間違えたにしても殴ろうとする元気があるなら死にはしない。気にするだけ無駄であり、丹恒も疲れ果ててしまった故に、恥も外聞も無く眠りたかった。風邪を引いたら引いたでその時なのだ。