・エロくないR18
・両片思いの楓応が前提の恒刃
・めっちゃ大人しい、めそめそ刃ちゃん
・ぴくみん刃ちゃん
・色んな感情を拗らせる丹恒
・いちゃらぶではない
・酷い抱き方する(流血あり)丹恒
・強姦描写
・刃ちゃんのおちりイタイイタイ
・ほんのりショートアニメネタ
仙舟での騒動が一段落し、星穹列車の一行は別の惑星にて各々が休息をとっていた。
丹恒も例に漏れず、単独でその惑星の暇潰しになりそうな本や、簡易的な食料、パムが好みそうなレコードをアンティークショップで買い、鈍色の空の下、背の高いビルの間から寒風吹きすさぶ雑多な街中を歩いていた。
街は多くの人々が様々な目的の中で行き交い、薄く明かりが点いた街灯が歩道を照らし、道路には自動車が走り抜けていく。仙舟と違い、人目を憚って緊張する事も無く、誰一人として丹恒を気にしていない環境が心地好過ぎたため少々長居をしてしまった感は否めない。
不意に、服を引かれる抵抗を感じ、何かに引っかけたか丹恒が振り返れば、己より背の高い偉丈夫が服についた飾り紐を掴んでいる姿に驚き、また、その人物を知っていたものだから目を見張り、全身を強ばらせながら生唾を飲み込んだ。
「お前……」
ど、ど。と、丹恒の心臓が激しく鼓動を刻む。
黒く長い外套を纏い、毛糸で編まれた帽子を目深に被り、マスクを着けている上にサングラス。彼の特徴らしい特徴は隠されているが、黒檀のような艶やかさがありながら、毛先に血が滴るような紅を備えた髪を持つ人間など早々居るはずもない。少なくとも、丹恒は『刃』と呼ばれる男以外に、そんな髪を持った人間を知らない。
何度も見た、歩けば嫋やかに揺れ、彼の手で剣が振るわれる度に波のように激しくうねる様を、地面に叩き付けられ、追い詰められた際の顔にかかる髪のぞっとするような感触も。
「きさ……」
丹恒は直ぐにでも手荷物を捨て、戦闘態勢に入ろうとしたが、刃の様子がどうにも可笑しい事に気がつく。刃は丹恒を滅するべく、乗船していた舟ごと沈めて多くの命を害した。本来ならば既に剣を振り降ろし、斬りかかっているはずである。
丹恒が刃を凝視していれば、サングラスの裏から水滴が流れてきた。
「なん……、泣いて……」
迷子の子供でもあるまいに、丹恒の服についた飾り紐を握り締めたまま透明の涙を幾粒も零すあまりにも頼りない姿。殺意に満ちた紅い眼を爛々と輝かせ、狂笑を浮かべながら襲いかかってくる丹恒が知る刃と目の前の男は、同一人物とは到底思えないほどである。
狂った刃の姿しか知らぬ丹恒にとって、今の彼はあまりにも不気味でしかなく、何らかの罠を疑い、周囲に視線を巡らせるも、カフカや銀狼は視認出来る範囲には見当たらず、ただただ丹恒が大柄なこの男を泣かせているような居たたまれない状況と成り果てている。
横目で見てくる人の眼も煩わしく、丹恒が仕方なく場所を変えるために歩き出せば、刃も飾り紐を握ったままついてくる。完全に迷子の誘導か、或いは丹恒が散歩させられている犬のような様相を呈していた。無様過ぎるが故に走って逃げ出したい衝動に駆られてしまうが、下手な刺激は与えるべきではない。との警報が頭の中に響いている。
今の所、害意はないようだが、いつ箍が外れて狂乱するか解らない化け物に自身の一部を掴まれていると思えば腹の底に不快感が汚泥のように溜まっていく。
「ただいま」
特に問題は起こらず、プラットフォームまで行き、丹恒は星穹列車へ帰還する。
「おかえー……」
なのかと遊んでいた穹が笑顔のままで固まり、丹恒の後ろに立つ刃に寄っていくと、
「やっほー、刃ちゃん元気?よしよししたげよっか?」
泣いている事に気づいたらしい穹が刃に馴れ馴れしく抱きつき、サングラスに帽子、マスクを奪って頭を撫でた。
穹の距離感のなさに信じられないものを見るような視線を向け、刃がされるがままになっている事にも丹恒は目を剥いて二人を見詰めたまま呆然と立ち尽くしていれば、なのかが片手にパムを抱き締めながら穹の手を引き、引き摺っていく。
「俺がカフカに連絡しとくからー」
穹がなのかに連れ去られながら丹恒と刃に手を振り、何よりも重要な任務を担当してくれると申し出る。
万が一、暴れ始めたらどうするか。殺しても死なず、永遠に戦い続けられる不老不死の刃への対処をどうするべきか、それが一番の問題だった。流石に、銀狼かカフカが迎えに来れば自身の居場所へ帰るだろう。
そもそも、こうして列車に刃が居る事態が異常なのだから。
「頼んだ……」
丹恒が移動を開始すれば、刃も素直についてくる。
異様な雰囲気ではあるものの、姫子もヴェルトも静観を決め込んでおり、現状の維持に尽力するべきであるとの判断を丹恒はする。
「お前、何が目的なんだ……」
「わからん……」
資料室へ入る前に、刃へ問うて見るも消え入りそうな声で涙を流されては、丹恒も意気消沈してしまう。
涙に濡れた刃の瞳は血のような紅が滲み、列車内の明かりによって柔らかな茜に変じている。魔陰の発作に蝕まれず、憎悪に身を任せていないこの男は、こんなにも静かで茫としているのか。
丹恒は、よくよく考えれば、この男の事を何一つ知らない事に気がつく。
景元と丹楓の知己朋友であった事。
何らかの理由で丹楓を憎み、復讐鬼と成り果て自身を追っている事。
星核ハンターであり、カフカの言霊によって制御されている事。
後は何かあっただろうか。
丹楓の記憶を思い出せば刃を知れるのか。
否、知ってどうする。敵は敵でしかないのだから無意味でしかない。
「俺はアーカイブの整理をしてるから、静かにしてるなら居ても構わない」
刃は黙って頷き、部屋の隅に座って体を小さく畳むと腕に顔を埋めた。
保護された迷い猫。否、大きさからして黒豹だろうか。どちらにせよ厄介には変わりないが、大人しくしている分には構うまい。丹恒は普段と違って大人し過ぎる黒い固まりを気にかけながらも資料の整理を始めれば次第に没頭し、穹が来るまで刃の存在を忘れて作業をしていた。
「丹恒、カフカが今日は預かっておいて。だって」
「はぁ……?」
丹恒が眉間に皺を寄せ、動かない刃を横目で見る。
確かに、今の刃は大人しいが、時間が経てばどうか。問題が起こってからでは遅い。
「いつの間にか刃が居なくなってて心配してたけど、用事があるから保護お願いねって……」
まさかとは思うが、本当に迷子になっていたのだろうか。
「ほらこれ……」
穹が見せてきたスマートフォンには先程伝えられた内容の他に、刃が休養出来るように言霊で魔陰を相当に押さえつけてあるため、暫くは狂魔状態にはならないだろう。との予測も書かれていた。どこまで信用していいのかは解らないにしろ、一晩程度であれば問題ない。と、カフカは考えているらしかった。
「仕方ないな……」
外へ放り出して刃が暴れれば余計な面倒事を抱え込む羽目になり、とても休養どころでは無くなってしまう。当初の目的と同じく、現状の維持を良しとするしかないようだった。
「んじゃ、刃ちゃん宜しくね-」
「分かった……」
丹恒は溜息を吐きながら穹を見送り、微動だにしていない刃の側へと膝をつく。
「刃、布団貸してやるからそこで寝ろ」
丹恒自身は一晩程度、アーカイブの整理をしていれば瞬く間に過ぎるのだから、預かっている刃を休ませるべきだと判断し、窮屈そうに体を丸めて眠っている彼を揺り起こそうとするが余程、深く寝入っているのか起きそうにない。
これも言霊の影響なのか。
それでも涙は止まっていないようで、刃の目元は塩で灼けて赤くなっている。
「重い……」
抱き上げようとしても、筋肉質で肉付きの良い刃は中々に体重があり、本人の助力無く脱力した体を抱き上げるのは通常の状態では難しそうだった。
「仕方ないな……」
幸い、刃は目を開けず、意識は深く潜り込んでいる。
丹恒は力を集中させると短髪の少年から龍へと姿を変え、刃を横抱きに持ち上げる。
丹恒にとっては遺憾ながらも、この姿に戻れば龍の力が全身に満ち、朴訥な少年の姿では出来ない事も容易く行えてしまう。人ならざる破壊の能力を自由自在に操り、刃を退けた事も一度や二度ではない。
今や、その刃を抱き上げるためだけに力を利用している事は、なんとも皮肉で滑稽である。
「たんふぅ……」
抱き上げた拍子に、閉じた刃の目から涙が流れ、どんな夢を見ているのか、丹恒の前身の名前を呟く。このまま床に放り投げてやろうかとも束の間、考えはしたが丹恒は深く呼吸をすると、掛け布団を蹴り飛ばしながら刃を自身の寝床へと横たえる。
「おい、俺は丹恒だからな、丹楓じゃない、丹恒だ。いいな」
傍らに膝をつき、眠る刃に言い聞かせるよう丹恒が繰り返せば、ふ。と、刃の瞼が開き、何度か目を瞬かせると唇が弧を描き、薄く目が細まった。
「たんふう……」
刃が手を伸ばし、龍の姿である丹恒の頬を両手で包み込むと新たに涙を溢れさせ、愛おしげに撫でる。
多少、とは言えないほど情緒に欠ける丹恒ですら、魔陰の影響で際限なく膨れ上がる破壊衝動、狂おしい程の憎悪が無ければ、彼の心には深い愛情しかないのだと気付かざるを得ず、無意識に手を握り締めていた。
刃の手は丹恒を抱き寄せ、自分ではない龍の名を何度も柔らかな声で呼ぶ。
引き寄せられた際に咄嗟に体を支えようとした丹恒の手が刃の肉付きの良い胸を掴み、馨しい花から作られた紅茶に似た香りが鼻腔を掠めるせいで、下腹が締め付けられるような得も言われぬ感覚に襲われる。
老い、損傷によって卵に戻り、永遠に転生を繰り返す龍の血族は、本来生殖行為を必要としない。しないが、性行による繁殖が出来ないだけで男女の概念はあり、他者を愛する心も、男性器も解り辛いながら存在する。
刃の丹楓を呼ぶ濡れた声色。
触れられる事を嫌がらず、抱き締めて離そうとしない手。
身を擦り寄せるように絡めてくる足が、二人が『そう言う』関係であったのだろう。と、予想させる。
「俺はお前等の痴話喧嘩にでも巻き込まれたのか……?」
丹楓は内乱を起こし、仙舟を滅ぼしかけた重罪人である。
決してそうではないのだろうが、丹楓と刃がただならぬ関係であったのなら、全くの無関係とも思えず、丹恒は独りいきり立った。
彼等の間に、どのような愛憎劇があったのか、丹恒には預かり知らぬ事。
ただ、目の前の男が、魂を、肉体を同一とするとは言え、別の人間に体を暴かれたとしたら、何を思うのか興味が湧いた。
酷く心が冷めた心地だった。
体を起こして龍化を解きながら丹恒は少年の姿に戻ると、刃の顔を掴んで口づける。未だ呆けている刃は丹恒の唇を受け入れ、首に腕を回してくる始末だ。
意識が戻った際に、さて、彼はどんな表情を見せ、感情を昂ぶらせるのか。傷つくでもいい、激怒でも、憎悪でも良かった。『丹楓』への感情では無く、『丹恒』への感情を引き出したくなったのだ。
「丹ふ……」
「違う」
自由になった唇で、刃が恍惚として名前を呼ぼうとすれば、すかさず否定し、冷めた瞳で睥睨する。
「俺は丹恒だ。お前の好きな男じゃない」
何を言っているのか分からないとばかりの表情で刃が丹恒の顔を撫で、揺らぐ瞳で見詰める様が神経を逆撫でし、更に加虐心を刺激する。
刃のスラックスのベルトを外し、最低限に衣服をずらして下腹部を露出させれば、何をしても無抵抗だった体が暴れ出す。
「なんだ急に……」
丹恒は面倒さに舌を打ち、暴れる刃の腕を掴むと力尽くで俯せにさせ、押さえつけた。
魔陰の発作を制御するため、刃は記憶を制限されているらしい。とは穹から聞いた覚えはあるが、記憶が無ければ性交の経験があっても嫌がるものなのか。とも頭の片隅に過りはした。しかし、丹楓を恋しがっている刃の様子を鑑みれば、ようやっと愛しい『丹楓』ではなく、別の『誰か』であると気付いたものか。
「精々、『俺』を憎め」
丹楓では無く。
『俺』を見ろ。
知識だけで経験はないものの、何せ相手が刃であると思えばこそ、丹恒は唾液を絡めた指で雑に後孔を濡らし、陰部の割れ目から体内に収まっている男性器を半ば強引に手を使って勃起させると、刃の孔へと押し込む。
「ひっ……う゛ぁ、や……っ!」
「煩い」
判り切った事だが、多少唾液で濡らした程度では滑りが足りず、刃の狭い後孔は切れて血を溢れさせ、丹恒の性器によって無理矢理広げられたそこは見た目にも無残な有様である。それでも丹恒は刃を押さえつけながら強姦し、快楽からではない悲鳴を上げて全身を緊張させ、大粒の涙で敷布を濡らしていく姿に憐憫さえ覚えた。
丹楓と関わらなければ、憎まなければ、こんな目にも遭わなかっただろうに。などと他人事のように。
「なぁ、刃、俺は誰だ?」
「た……、こう……」
透明の精液と血液が混じった体液で下肢を汚し、茫然自失となっている刃を見下ろしながら丹恒は衣服を整え、悪くない。と、内心独り言ちる。
資料室には時刻を表す時計が無いため、どれほどの時間、己が刃を苛んでいたかは知れないが、きちんと名を呼ぶ程度の認識はしたようだった。これなら、丹楓ではなく、飲月でもなく、『丹恒』の存在を忘れないだろう。
「そうだ、俺は丹恒だ。それだけは忘れるなよ」
言いながら、刃の髪を撫でてやれば、びく。と、体を震わせるものだから、丹恒は自らの首を撫で付け、小さく呻る。そこはかとなく、違和感はあったが、よもや。の予感である。
「お前、今まで誰かに抱かれた事は……」
刃は無言でスラックスを引き上げ、立ち上がろうとしたが腰が抜けたのか直ぐに布団の上に座り込み、潤んだ目で丹恒を睨む。既に涙は止まっているが、敷布をきつく掴む手と、頬を染めながら歯噛みする様子が答えを物語っていた。
「嘘だろ……」
あんな熟れた肉体を擦り寄せる真似をしながらも経験がないなどと、驚嘆する丹恒に対し、刃は剣を振りかざすのでは無く、右の手を振り上げて頬を殴り抜く。
思い切り脳が揺れ、丹恒が目を回していれば、刃が蹌踉めきながらも布団の側にある本棚を支えに立ち上がり、足が股間を蹴り上げる。性器は体内に収まっているため、剥き出しになっている人間よりは痛みが少ないものの、悶絶する程度には衝撃を受ける。
「くたばれ……、丹恒」
「ま、待て……!」
刃は口汚く丹恒を罵ると覚束ない足取りで資料室を出て行き、一歩遅れて内股気味の丹恒が刃を追いかければ、
「はぁい、刃ちゃんを預かってくれてありがとう」
カフカが待ち構えて居たのだから、丹恒は思わず息を呑んだ。
「うちの子と遊んでくれた、お礼、しなきゃ……、ねぇ?」
腰に佩いていた刀をカフカは抜き、艶然とした絶世の微笑みを丹恒へ向ける。
「大丈夫よ、ちょっと切るだけだから。持明には不要なモノなんだから、いっそない方がすっきりすると思うの、ねぇ?」
ねぇ?と、頬に片手を当てて言葉を繰り返しながらカフカは丹恒へと迫り、己が刃に何をしたのか知られている事と、腹に刀を突き立てられ、切り落とされる想像に全身が怖気たった。
ただ、弁明の余地はないと理解もしていた。
永劫と思える時間、丹恒を追い回しながらも、一切、丹恒自身を見ようとしない刃への不満、過去の己への異常なまでの悋気であると、今更気付いたとて何を言えようか。
「俺が自分でやる……」
「あら、そう?」
じゃあ、刃ちゃんに免じてこの場は収めて上げる。
言いながら、カフカは笑んで見せたが、目は一切笑っていない。
刃を支えるようにカフカは寄り添い、すまない。そう言って手だけを肩において二人は列車を後にした。
我が身の情けなさに、丹恒が廊下に座り込んでいれば穹がやってきて、
「ごめん、思ったより早く用事が終わったってカフカが来て、止められなかった……」
「いい、自業自得だ……」
申し訳なさそうに謝る親友を余所に、何故もっと優しくしてやれなかったのか。苛立ちの原因を、もっと冷静に考えれば傷つける前に理解出来たのではないか。
考えてはみたが、答えは『否』である。
気づけるならやる前に気づけていた。
丹恒は両の手で顔を覆い、深く項垂れる。
「すまん、もう寝る……」
「うん、俺は良く分かんないけどさ、好きな子には優しくした方がいいって聞くぞ?」
「そ……、そう、だな……」
穹に止めを刺された丹恒は、刃の血がついた布団を資料室の隅に追いやり、直接硬い床に転がって目を閉じた。
今後、星核ハンターと顔を合わせて仕舞えば、カフカは躊躇無く刃の首輪を外し、刃からは今まで以上の殺意を向けられるであろう事実と、最低な己に絶望しながら。
余談ではあるが、その日見た夢は、いつかの鱗淵境の亡霊が憤怒の表情で現れ、容赦なく死ぬ寸前まで追い詰められるものであった。