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スターレイル用

兎注意報


・導入は雑
・ボンプが可愛すぎた
・ボンプになって丹恒に甘える刃ちゃん
・甘えた刃ちゃんと可愛がる丹恒

 ▇◇ー◈ー◇▇

 ンナ。

 目つきの悪い兎らしいぬいぐるみが丹恒を睨め上げながら鳴く。
「なんだこれは」
「分かんない」
 丹恒が問い詰めるも、穹がぬいぐるみを抱き締めながら機嫌良く撫で回しているが、詳細は分からないと言う。
 またルアン・メェイ絡みかとも考えたが、そうではないようであまりにも不可解すぎる。
「なんか、カフカがちょっと置いといて。だって」
 ハンター絡みの事案に目眩を起こしそうになったが、今の所、害はなさそうで丹恒は呆れた溜息を吐くに留めた。
「どんな生物かの説明もなしか」
  大きさは八〇センチ程、全体的に丸く、むっちりとした見た目から柔らかそうな二足歩行をする兎。陰鬱な表情と、紅い目、黒い服に包まれた姿が誰かを彷彿とはさせるが、気のせいだと思いたい。が、何せハンター絡みだ。何が起こるか予想は付かない。
「ねぇねぇ、リボン付けてもいいかなー?」
 ふっくらとした愛らしい見目の兎に気分が高まるのか、なのかが様々な服や装飾品を抱えて穹に提示してみせる。
「ンナー!」
 兎のぬいぐるみ、もとい生物は黒いにんじんのような棒を顕現させ、穹の腕から抜け出して頭を殴るともちもちとした見目からは想像出来ないほど軽やかに床に降り立ち、着飾ろうとするなのかから必死に走って逃げ回る。
 短い足でちょろちょろと動き、机の下、椅子の後ろと隠れようとするが徐々に息が上がりだし、追い詰められそうになった兎は椅子を伝ってソファーへと飛び降りた。瞬間、ソファーに拒まれて体が宙に浮く。
「ンナッ⁉」
 自身が認めた者にしか座らせない奇物であるソファーに弾かれた兎は驚いて悲鳴を上げながら落下し、丹恒が慌てて抱き留める。
「お、丹恒ナイスー!兎ちゃん動かないでね」
「止めろ、嫌がっている」
 大きなリボンを持って迫ってくるなのかから逃げようと、兎は丹恒の腕の中で藻掻いていたが、窘めながら身を捩って遠ざけてやると大人しくなった。庇って貰っている事を理解する知能はあるようで、ぬいぐるみのような見た目だがかなりの思考力がある可能性が浮上する。
「何なんだお前は……」
 脇の下に手を入れ、抱き上げて訊いてみるが、ふい。と、視線が逸らされた。
 飾り物を嫌がった事といい、言葉を理解している。
「丹恒、俺も抱っこしたい」
「駄目だ。お前も三月と一緒になって弄り回すだろう。こんなにあからさまに嫌がっているんだぞ?生き物に不要なストレスは与えるべきじゃない」
 兎を受け取ろうと両手を差し出す穹を叱り、背後から二人分の苦情が聞こえるが敢えて無視して資料室へと連れて行く。

 ▇◇ー◈ー◇▇

「あいつらにも困ったものだな」
 愛らしいものへ構いたくなる感情は理解するが、なのかは特にパムに対しても無理矢理に飾り付け、服を着せて写真を撮ったりしている。いつか写真を見せられたが、あの如何にも嫌がっている表情が何故解らないのか丹恒は不思議でならない。
「お前は、俺達と同じ食事は出来るのか?」
「ン」
 パムが皆と変わらない食事をするため、念のために訊けば淀みなく返ってくる返事。
 矢張り知能が高いらしい二足歩行の兎にルアン・メェイの関与が疑われるが、カフカが連れてきたとするなら直接的な関連はなさそうで、丹恒は首を傾げるばかり。
「お前とハンターがどんな関係かは知らないが、迎えが来るまでここに居るといい。お茶と茶菓子を置いておくから遠慮無く食え。口に合わなければ俺に伝えてくれ」
 丹恒は兎の頭を撫で、一旦資料室を出ると兎が飲食し易いよう階段に緑茶と小ぶりながら粒あんがふんだんに入った饅頭を数個お盆に乗せて置き、自身は端末を手に取ってアーカイブの編纂に乗り出す。

 兎は、暫く菓子を置いたお盆の側に大人しく座っていたが、何度かちらちらと丹恒を見上げた後、まるで悪さをする時のように恐る恐る手を出し、前屈みに隠すようにしながら小さな口で饅頭を少しずつ食べ出した。丹恒が用意した饅頭はお気に召したのか、二個目からは遠慮が無くなったようで躊躇いなく手に取り、目を細めつつ囓って愛らしかった。
 温くなったお茶を飲み、機嫌が良くなったのか足をぷらぷらと揺らし、左右に細かく体が揺れている。実に愛らしい姿で、丹恒はこっそりと端末のカメラ機能を起動し、動画を撮る。

 丹恒が見ている事に気がついたのか、兎が立ち上がると無言で駆け寄って見上げてくる。
「なんだ?トイレか?」
「ンー」
 兎は首を横に振り、矢張り丹恒を見上げる。
 何を求められているのか悩んだが、兎が両手を挙げて跳ねたため、抱き上げてほしいのかと察した丹恒が端末を棚に置き、床に座って兎を膝の上に乗せると満足そうに息を吐いた。
 意外と甘えたな生物なのだろうか。と、丹恒が頭を撫でてやると心地好いのか止めようとすると手首を掴み、更に撫でろと要求する。特に急ぎで編纂しなければならないデータは無く、兎が満足するまで頭や顔、腹を撫でていれば目を閉じて眠ってしまった。

 カフカは何を思ってこの生物を列車に置いていったのか。
 あの女は星穹列車をなんだと思っているのだろう。

 腕の中で寝息を立てる兎を撫でながら丹恒は不敵な笑みを浮かべる彼女を思い浮かべるも、そもそもハンターが何を目的として星核を集めているのかも解らず、運命の奴隷が綴る脚本とやらも終点がどこなのか、何一つ解らないのだ。
 カフカと対峙した穹に訊いた所によると、目的の未来へ向かうための運命を選び取っていると語ったらしい。仙舟へ誘われた事も、星穹列車が向かわなければ羅浮は壊滅の使令の手によって滅びの運命にあったと。
 丹恒にとって、いい思い出のない故郷ではあるが、滅びてしまえ。などと考えたりはしなかった。幼く何も知らなかった己を気にかけてくれた景元が無残な目に遭うなど喜べない事から、結果的には救われた形になる。が、ハンター達は決して正義の味方ではなく、利己的な理由で敵にも味方にも成るだけである。
 完全に信用、信頼は出来ないが、星穹列車に利用価値がある間は敵では無いのだろう。だからと言って、謎生物を置いていく神経は理解しがたいのだが。
「丹恒、カフカが来るらしいから兎連れてラウンジまで来てくれるか?」
「解った」
 丹恒が兎を起こさないよう緩慢な動作で立ち上がり、移動する。
 移動の最中に少しばかり兎が目を開けたが、優しく背中を撫でれば二の腕にしがみついて再び眠ってしまった。大変に可愛らしく、返すのが惜しい気分にもなるが、どんな生態かも分からない生物を軽々に飼う訳にもいかない。
「いいな、丹恒~」
 腕の中で眠る兎を見て、穹が羨ましいと拗ねる。
 小生命体を作りまくるくらいだから、可愛い生物は好きなのだろうが嫌がっているものを構い過ぎるのは宜しくない。故に、手を広げて寄越せと主張する穹を避けて丹恒はソファーに座る。
「ハンターの連中はもう来てるのか?」
「いや、後五分か十分システム時間くらい?とか書いてある」
 要求を無下にされた不満を顔に出しながらも、穹は端末を弄り、メッセージの確認をしていた。
 近くの席では姫子が眉間に皺を寄せながら珈琲を飲んでいる。余計ないざこざを持ち込むカフカの来訪は、彼女にとって歓迎出来ないものなのだろう。その傍らには、護衛の如くヴェルトが杖を持って立っていた。

 暖かい体温を抱き締め、何をするでもなく丹恒がカフカを待っていれば、程なくして列車の扉が開く。
「はぁい、こんにちは。急だったのに預かってくれて感謝してるわ」
「問答無用で置いていったのに良く言うわね」
 姫子が冷めた眼差しで入ってきたカフカにきつい言葉を投げかける。
「問題は起きていないでしょう?こっちだってこの子を戻すために必要なプログラムを探すの大変だったんだから勘弁してちょうだいな」
 カフカが勝手な言い分を語り、手に持った端末を弄りながら丹恒の腕の中に居る兎の後頭部に触れさせると、じじ。と、音を立ててフリッカーに似た現象が起こり、兎の姿が揺らぎながら大きく膨れ上がる。
「え、あ……」
「刃ちゃん、起きて?」
 揺らぎが収まって現れたのは、もしやの予感で浮かんだ刃そのものであり、カフカの声に目覚めて薄く目を開けはしたが数秒ほどぼんやりしてから再度目を閉じて丹恒の腕の中に収まってしまう。
「あらやだ、寝惚けてるのかしら」
「姿が……、どういう原理だ?」
 ヴェルトが興味深そうに刃に近づくが、
「さぁ?銀狼なら説明出来るかも知れないけど、私は良く分からないわ」
 雑に扱われた上に、答えが得られないもどかしさに口角を下げた。
「君も固まってないで刃ちゃんを放してくれないかしら?」
 刃を抱き締めたまま硬直している丹恒へ、カフカが困ったように微笑みながら刃の腰に回された手を指先でなぞる。
 ぞく。と、全身に走った悪寒に丹恒が手を引けば、刃は軽い衝撃を受けて今度こそ目を覚まし、半眼で周囲を見回す。
「おはよう刃ちゃん。帰る時間よ。君がそこまで寝惚けるなんて、あの姿は負担が随分大きいのかしら」
 カフカに手を引かれ、抵抗なく刃は立ち上がるが中々頭が覚醒しないようで、足下も覚束ずに長身の体は不安定に揺れている。
「刃ちゃん、お腹空いてない?食べたいものはある?」
「まんじゅうがうまかった……」
「解った。用意するわ。じゃ、列車の皆様、ごきげんよう」
 刃は幼子のようにカフカに手を引かれて列車を出て行き、車内はなんとも言えない空気で満たされる。

「丹恒、顔真っ赤だけど大丈夫?」
「だいじょうぶ……」
 甘えてくる兎を可愛らしいと愛でていた数分前の自身の行動、姿が戻っても寝惚けていたせいか攻撃的になるどころか寄り添ってきた刃の意外な行動に丹恒は動揺しきり、全身の血液が沸騰したかのように体温が上昇していた。
 穹の質問に答える声もぎこちなく、重苦しい空気になるとつい茶化してしまうなのかですら気遣って何も言わない。
「丹恒、珈琲でも淹れて上げましょうか?」
「おねがいします」
 姫子の申し出に丹恒が頷き、震える手で受け取った珈琲を一息で飲み干すと意識を飛ばしてしまった。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 目を覚ました丹恒は資料室の布団で寝かされており、流石に動揺は収まっていたが、あの兎が刃としての意識がはっきりとある状態で甘えてきたと考えると急に心臓が暴れ出して動悸がし、大柄な体躯を丸めて擦り寄ってくる姿まで可愛らしいと感じる気持ちが止まらない。

 次に顔を見た際に、果たして己は正常な精神状態を保てるのか。
 気を紛らわそうと飛び起きて端末を手に取っても編纂は何一つ進まず、刃の事が頭に浮かんでしまう。

 最終的に、あいつがあんな可愛い真似をするから俺がこんな目に。などと、他責思考に陥るも、刃を可愛いと思ってしまった事実は変わらず、丹恒は大きく溜息を吐き、黒い兎のぬいぐるみを検索する手が止まらなくなっていた。

続き:再来兎騒動

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