・ほんのり楓応風味
・一応ハロウィンネタ
・みんなが着け耳着けてます
・短め
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金人港で仲間との会食。
皆がそれぞれに忙しくあり、顔を合わせる事もままならなかった数週間。
丹楓も煩雑に追われて久しく仲間と顔を合わせるを楽しみに店舗の一室に案内され、扉を開こうとした瞬間である。
「きゃー!可愛いー!」
などとするけたたましい声。
声からするに白珠である。元々騒がしい性質の彼女であるが、外に漏れるほどの大声を出すのは珍しい。
「丹楓、来たか」
引き戸を開いて見れば、円卓の入り口手前に座る鏡流が呆れたような面持ちで丹楓を出迎え、左には楽しそうに笑っている景元が座し、その隣にははしゃぐ白珠。はしゃぎすぎて丹楓の来訪に気付いていないようで、少しばかり体を傾ければ応星の白い髪が見えた。
「何を騒いでおる。外まで盛れておったぞ」
「見たら解りますよ」
景元が朗らかに微笑みながら示す先は応星。
指先を辿りながら応星を見た丹楓が驚きに目を見張り、目に映ったモノが信じられない様子で凝視をしていれば、ようやっと白珠が振り返る。
「あ、丹楓やっと来たんですね。ほら、見て下さい、応星を狐族にしてやりました!」
「はは、ほんと遊びが過ぎるって言うか……」
応星が気恥ずかしそうに頭を掻いて苦々しく笑っている。
その姿を丹楓が無言で凝視していれば、見苦しいと思われたと感じたか、応星の背中は丸まっていく。
「どうやったのだ?」
「ん、この耳ですか?じゃじゃーん、狐族なりきり遊具です!」
白珠が卓の下に体を潜らせ、取り出して見せたのは狐族の耳に似せた頭に着ける玩具と毛束。恐らく尻尾だろう。
「最近ですね、他の惑星から来た方が仮装して楽しむお祭りを広めてて、ちょっとした流行になってるんですよ。こんなのもあります!」
いいながら取り出したのは龍の角を模した玩具。
丹楓がふむ。と、呻りながら頭上に手を伸ばし、自らの角を触る。
形は良く似ているようで、そのような遊具の許可を出した記憶は無く、持明の長の一人として不敬罪と注意をするべきか一瞬だけ頭を悩ませたが、所詮は遊具であり、一時の流行であろうと不問に伏す事にした。
「中々良く出来ているな」
「でしょう~。みんなの髪色に合う毛色一生懸命探したんですからー」
「みんな?」
丹楓が白珠と会話しながら応星の隣に座れば、不穏な科白に片眉を上げる。
ちら。と、鏡流と景元を見やればどこか照れ臭そうであり、疲れた様子が見えた。
「丹楓には自前の角があるので、どうしようか迷ったんですけどぉ、へへへ、実は買ってあるんですよねー」
「矢張りあったか……」
上機嫌に卓の下から取り出された黒い耳。
あまり嬉しくない予想は的中したが、応星と揃いならば悪い気もせず、白珠のやりたいようにやらせ、丹楓の頭に黒い耳が生える。
「さ、景元と鏡流ももう一回着けましょうねー!」
「我はもう……」
「みんなでやれば楽しいですよ!丹楓だって着けたじゃないですか」
「師匠、諦めましょう」
もう覚悟を決めたらしい景元に促され、膝に置いて隠していたらしい耳を鏡流が取り出せば、白珠が丁寧に着け、景元にも同様に耳を着けてご満悦のようだった。
「きゃー、みんな可愛いですー。もう連れて帰っちゃいたい~」
白珠が両の頬に手を当てて、その場で跳び跳ねてはしゃぐ。
「失礼します」
そこへ店員が入ってくれば、ちら。と、一望し、泰然と腕を組んで目を閉じている丹楓と、恥ずかしそうに背を丸める応星、諦めて遠い目をしている鏡流、そんな師匠を苦笑いで見ている景元、一人はしゃいでいる白珠で全てを察したか、多くを言わず注文された料理や酒を置いてそそくさと去って行った。
「えへへ、みんなお揃いですねぇ。なんだか嬉しいな」
気が済んだのか、白珠が椅子に座ると運ばれた料理に手を付け、応星も一つ息を吐き、丹楓を横目で見てから酒に手を伸ばす。
「あまり質は良くなさそうだな」
「あー、まぁ一日二日遊ぶくらいの想定でしか作ってないんでしょうね。耳だけど柔らかくはないですし」
丹楓が応星の頭についている耳を触れば、少々ざらついた毛質と、下地は硬い素材を使っているのか爪で叩けば硬質な音がした。
「自分の触れよ」
「其方に触った方が早い」
丹楓が応星の腰元にある尻尾に手を伸ばし、掴めば引かれる感触がしたのか不躾な手を肘で押す。
「あれ、丹楓って実はこういうの好きなんですか?」
「面白くはあるな。先程の物を貸してくれるか」
「ふふ、あれですね」
にや。と、白珠が笑い、丹楓が応星の着け耳を取り、龍の角を受け取って再度着ける。
「うむ……」
着けて満足の息を漏らし、丹楓が酒に口をつければうんざりした視線が右側から飛んでくる。
「俺で遊ぶな」
「愛いのだから良いではないか」
「そうそう、角着けた応星も可愛いですよ」
「応星、諦めよ。性質の悪い二人が手を組んだのだから抗う術はもう無い」
遊ばれる状況に苦言を呈した応星を、諦めきった鏡流が窘める。楽しい事が好きで人を振り回しまくる白珠と、我と押し強さであれば仙舟随一としても過言ではない丹楓が二人して遊んでいるのだから、止める術なしとして景元にも頷いてみせる。
「後から思い返せばこれも思い出でしょうし、いいんじゃないですか?偶には」
景元が鏡流の言葉不足を補いつつ、抜け目なく自分の好物を選んで先に食べている。
食事と酒が進めば次第に頭に着けた物も気にならなくなり、仲間内での会食は楽しく行われ、酔い潰れた応星が丹楓の手で自宅まで運ばれて寝台の上で目を覚ます。
「んぁ、ごめん……、寝てた」
「良い。愛らしい寝顔が見られた」
店から出る前に玩具は外してあるが、ふと。応星が持明であれば、などと頭に浮かび、角が生えるであろう場所を指先で弄る。
「なに?」
「いや何もない、ゆるりと眠るが良い」
「んー、うん……?」
髪を撫でる丹楓の手が心地好かったのか、応星はうとうとと目を閉じ、暫くすれば寝息を立てる。
「詮無き妄想よな」
応星の短命をどうにか覆せはしないか、丹楓は良く考える。
あと何年共に在れる。応星とは違った意味で時間が惜しくて堪らず、今日の狐族にしてやった。なる白珠の戯れに、丹楓の心は少しばかり浮き立った。
寝台に腰掛け、寝入った応星の髪や顔を撫でながら自らを愚かと嘆息する。
その日は、夜が明けるまで、丹楓はぼんやりと応星と共に居た。