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スターレイル用

安易な嘘は程々に

・嘘の日ネタ
・Rが着かない程度のほんのり匂わせいやらし
・和解済み?恒刃
・グロはないがやや不穏ネタ含む
・男体妊娠系のネタです(妊娠はしてない
・前提に楓応在る




 基地の自室で明かりも点けず、寝台に横たわったままぼんやりと天井を眺めているだけだった刃の元へカフカが機嫌良さげにやってくる。

「ねぇ、刃ちゃん、知ってた。私、実は男だったの」
「そうか」
 自身の体に巣くう怪物を刺激しないよう、心を無に揺蕩わせていた刃はカフカを無下に扱っているようにも見えるが、その程度で動揺するような人間ではないと知っているからこその対応である。
「それだけ?つまらないわ」
「貴様が男だろうが女だろうがどうでもいいからな」
 刃は体制すら変えずに天井を眺めていたが、カフカが覗き込むようにして問うてきたため視線が絡む。とは言え、入り口から差し込む明かりだけでは、殆ど影の塊のようで、これが己を殺しに来た虚無の化け物であれば。などと荒唐無稽な事を脳裏に描いてしまった。
「興味なさそうね。エイプリルフールって言うんですって、誰が考え出したか、広めたのかは知らないけど一日だけどんな嘘を吐いても赦されるらしいわ」
「それが今日なのか?」
「ええ、大分古い暦の数え方だけどね」
 カフカは笑いを含んだ声で肯定し、つまらない反応をした刃に飽きたのか手をひらつかせながら出て行った。
「嘘か」
 枕元にあったスマートフォンに手を伸ばして画面を点灯させ、時間を確認すると宇宙共通のシステム時間で大体九時頃だった。
 宇宙を彷徨っている者であれば、大体は起きている時間帯だ。

 カフカは常に言葉に虚実を交えているが、刃は刃として自我を得た時分から、嘘を吐いた記憶は無かった。嘘を吐く必要性もなかったためではあるが。
 刃はスマートフォンを指先で撫で、星穹列車の面々と共に依頼を熟した際、穹によって無理矢理登録させられた丹恒の連絡先を表示する。画面に現れた丹恒の顔写真が嵌められたアイコンを眺めながら暫し考え、

 仔が出来た。

 とだけ送った。
 丹恒は、刃が殺意だけで追っていた頃は意味も分からず命を狙われる恐怖に引き攣った表情をしていた。
 敵として対峙するようになってからは明確な殺意と怒りを持った表情で刃を睨み据え、幾許かの記憶を取り戻してからは敵意を露わにはしなくなった。現在は穹を挟んで奇妙な同盟関係となり、随分と刃を眺める顔も態度も軟化した。挙げ句、応星と丹楓の失われた人生をなぞるかのように、情を交わしてしまった。
 互いに、最早、別の人間なのだとしながらも結局は過去の因果から抜けられない実に滑稽で、無様な関係だ。
 何故、諾々と受け入れてしまったのか。カフカの手によって魔陰で膨れ上がる激情を抑えられ、丹楓を求める応星の情が彼の近くに居た事で蘇ったのか。
 或いは、己が。
「馬鹿馬鹿しい……」
 刃は思考を放棄し、スマートフォンを投げ捨ててラウンジへ赴けば、出かける準備をしていたカフカに付き合うよう命令されて追従した。そのまま、送った仕様も無い嘘などすっかり忘れて戦闘に没頭し、血塗れのまま心地好い疲労感に包まれて帰ればラウンジのソファーに座っていた銀狼が不満げに刃を見やる。
「どうした?」
「刃のスマホ借りようとしたら、メッセや着信が凄くて全然使えなかった……!あの、たんこー?穹の友達の、あいつから」
「何故?」
「知らないよぉ!どこに居る。とか、なんか一杯?通知に表示された分だけじゃ誤字脱字も凄かったから何を言いたかったのか解んない……」
「あ……」
 刃は己が送ったメッセージを思い出し、小さく声を上げる。
 隣に居たカフカから早く風呂に行くよう指示された刃は素直に従い、湯を浴びながら丹恒の異様な反応に首を傾げていた。
 髪を拭きながら自室に戻り、銀狼が充電してくれていたのだろう端末を手に取ると、確かに凄まじい量のメッセージと着信が数字として表れていた。

 寝台に腰掛けた刃は、不器用な手を動かして懸命に遡り、大本の発言から下を確認すると、『いつ産まれるんだ』『きちんと話を聞きたい、連絡をくれ』からほんの数分の時間をおいてから、電話の着信と『どこに居る』『返事をしろ』、再び着信、『ぶじなら連絡』『くれ』、着信、『じん』『hん事をしてくr』、着信、『どこd』などと、徐々に文字が乱れている。

 まさか、真に受けたのか。
 持明が仔を作れないなど周知の事実であり、丹恒が知らない筈もない。
 件のエイプリルフールを知らないとしてもアーカイブの編纂をするほど機械の扱いに詳しく、直ぐに何でも調べてくれる。とは、穹の発言であるが、調べれば簡単に歴史の一部として出てくるはずで、よもや騙されてしまうなど想像だにしなかった刃は丹恒の送ったメッセージをまじまじと眺めていた。

 手に持ったスマートフォンが震えながら丹恒の名を表示させ、同時に刃の肩も跳ねる。
『刃⁉』
「あぁ……」
『何だその覇気の無い返事は……、メッセージの件だが……』
「あれは嘘だが……」
『は?』
 凄まじい重低音が刃の鼓膜を叩き、『どういう事だ』と、問う。
 仕方なく刃は経緯を説明し、真に受けると思わなかったのだ。そう言い訳をする。
『分かった……』
 それを最後に通話は切れ、刃の周囲になんとも言えない沈黙を落とす。

 通話だけではどんな表情だったのかは窺い知れないものの、相当な不機嫌である事だけは確かだった。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 次の日、刃はカフカの自室へと呼び出され、詰問される羽目になる。
「刃ちゃん、何したの?穹から『助けて』って連絡来るんだけど……」
 バロック様式の椅子に座りながら見せられたカフカのスマートフォンの画面には、『丹恒が刃ちゃんの所に行くって暴れてから部屋から出てきてくれない』と、記されていた。
「昨日、凄い剣幕で穹に私と連絡を取ってくれって頼んできたらしいんだけど、刃ちゃん何か知ってる?」
「知っていると言えば知っている……」
 己が原因である事は。
 珍しく歯切れの悪い曖昧な物言いをした刃に、好奇心が疼いたのかカフカは笑みを深めて詳しい説明を要求してきた。暗示は使われていないが、頑なに黙っていれば強制的に白状させられるのだから、今言っても後から言わされても同じである。
 刃が簡潔に原因を伝えれば、カフカはころころと笑っている。
「刃ちゃんがそんな嘘を吐くなんて、あはは!」
「『戯言は止めろ』程度で終わると思ったんだ……」
「思ったより重かった彼の愛情が刃ちゃんにとっては大誤算だった訳ね。ふふ、面白い」
 カフカは腹を抱えて笑い倒し、余程、嵌まってしまったのか些か呼吸困難まで起こしている。
「じゃ、じゃあ、刃っちゃんも、きちんと愛を返して……、上げなきゃ、うっふふ……」
「謝れと?」
「えぇ、そうよ」
 笑いすぎて目に浮いた涙を指で拭うとカフカは立ち上がって自室から出て行き、刃も後に続く。

 果たして丹恒の感情は愛情なのか。
 一方的に命を狙い、敵意を向けていた相手に情を抱くなど、あり得るのか。
 丹恒が己を抱きながら何を考えていたのかも解らない。過去の因縁からの執着とどう違うのか、刃には区別し難かったが迷惑はかけたのだから義理は通さなければならないだろう。

「二時間ほど待ってて頂戴、星穹列車の座標へ跳躍して上げる」
「ホログラムでは駄目か?」
「古いやり方だけど、こう言うのは直接が良いわ」
 なんとなしに、直接相対したくない気分だったが、カフカの言葉には逆らえず、刃は渋々と頷いた。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 刃はカフカが用意してくれた詫びの品を車掌に渡した後、丹恒の居る資料室の前に立った。
「入っても良いか?」
「鍵は掛かっていない」
 外から声をかければ、入室を許可する声。
 常のように冷静で、あまり感情が籠もっていないよう聞こえるものの、穹によると昨日は相当な動揺ぶりで、『刃と連絡が付かない』『お前はカフカと連絡が取れるんだろう』『銀狼はどうだ』。果てにはパムに対して『俺を刃の所まで転送してくれ。今直ぐ!』などと必死の形相で無茶を頼んでいたようだ。
 丹恒を列車に引き取り、長らく一緒に居た姫子も、そんな彼を見たのは初めてだと語る。

 今の丹恒は、そんな騒動などなかったかのように表情は凪いでいるが、腹の内は分からない。
「下らない嘘を吐いて悪かった……」
 道中、頭の中で何度も繰り返した言葉を口にして丹恒の様子を伺う。
「いや……、俺こそ取り乱してすまなかった……」
 丹恒は手に持っていたタブレットを棚に置いて俯むいたままだ。
 謝罪はした。もう帰っていいだろうか。いたたまれない空気に逃げの一手を打ちたい気分だったが、暫し刃が黙っていれば丹恒は視線を彷徨かせた後、表情を引き締め真っ直ぐに見詰めてきた。
「本当に嘘なのか?」
 丹恒の意図が分からず、刃は見詰め返す。
「嘘だという事にして、独りで育てようとしている……。とか……」
 随分な想像に刃は片眉を上げ、謝る立場である事も忘れて鼻で嗤う。
「貴様の頭に居る俺は随分と健気だな?今直ぐ消せ。繰り返すが、こんな仕様も無い嘘を信じるとは思わなかったんだ」
 丹恒は伺うようなものから不機嫌に表情を変え、口角を下げる。
「豊穣の力なら分からんだろう……」
 幾ら恵みと生命を象徴する星神の呪いを受けた身にしても、仔を育む機能が付いていない体に生命が宿るはずもない。が、龍の末裔である持明の種として最大の欠陥は仔が作れず繁栄が成せない事。こんな化け物の身に宿った仔でも嬉しかったのか。 
「なんだ、仔でもほしいのか貴様。ならばその辺の女にでも協力して貰え」
 異様な苛立ちと共に刃は徐々に面倒になってしまい、おざなりな態度を取り、踵を返して扉の前に立つも丹恒に腕を掴まれて資料室に留められてしまう。
「お前との仔でないと意味が無い」
「は?」
「別に、ただ仔が欲しかったんじゃない……。お前が……、そう思ったから嬉しかったんだ」
 そして、返信があまりに無いため仔を厭い、自暴自棄な真似をしたのではないか。などと最悪の想像が頭を巡って止まらず、焦って醜態を晒した。
 刃を捉え、見据える丹恒の蒼黒の瞳には悲憤が込められている。これでは、とても皮肉を被せられるような状況ではなく、罪悪感もちくりと湧いて刃は目を伏せて視線を逸らす。
「悪かったな。嘘で……」
「それはもういい」
 丹恒に強く腰と腕を引かれ、唇に柔らかい感触が触れる。
 刃が頭を引こうとしても髪を掴まれ、舌が腔内へと入り込み、より深く合わさっていく。
「おい、い……」
「丹恒だ」
 唇が解放された瞬間、飲月。と、刃が呼ぼうとすれば、被せるように今の名を呼べと訂正される。
「丹恒……、俺はこんな事をしに来たのでは……」
「騒ぎを起こした詫びに来たんだろう」
 原因は主に刃で間違いないものの、列車内で暴走を見せたのは丹恒である。
 冷静になれば直ぐ分かるような嘘を真に受けて暴れた本人が開き直っている姿勢は正直、腹立たしいが、今は不埒に体を這い回り、服を脱がそうとする手をどうにかする方が先決だった。
「おい、やめ……っ」
 丹恒の髪を掴み、強く引こうとすれば首筋に歯を立てられ、刺激に声がひっくり返る。
 刃の膝が床に落ちれば丹恒の行動はより大胆になり、胸や尻を触り出す。
「貴様、いい加減にしろっ!」
 刃が丹恒の額に頭突き、痛みにひるんだ隙に突き飛ばせば尻餅をつく。
 不埒な真似をされた怒りに声を上げ、痛みを散らそうと額を抑える丹恒の姿が視界に入れれば興奮の兆しを見せる股間がはっきりと見えて刃は思わず広げられた服を掴んで体を隠す。
「急に盛るな!発情期の犬か⁉いや、犬の方がまだ品が良いぞ!」
 発情期に入った犬は盛んではあるが、動物は基本的に雌優位の社会であり、雌の許可無く伸し掛かったりはしない。それを踏まえれば、突然盛って人の体をまさぐってくる丹恒の方が余程性質が悪い。
「落ち込んだ顔が可愛くてつい……」
「巫山戯るな!」
 可愛いも意味が分からないが、他愛ないとは言え喧嘩の最中である。
 既に怒りは収まっていたものの、盛る要素は微塵も感じられない。
「帰る」
「待て」
 丹恒は追いすがり、手を刃を見上げる。
 頬が薄く紅潮し、握る掌も汗ばんで、完全に興奮状態のようだった。
「貴様の仲間も居るんだろうが……」
「お前が居るんだから入っては来ないだろう」
 欲に呑まれて希望的観測を口にするような阿呆の相手をしてやる義理はなく、恋人と表現出来るような甘い関係ではない。筈だが、どうした事か、丹恒は随分と刃に情を寄せている。
「何だ貴様、一度抱いたくらいで独占欲でも湧いたか。あんなもの気の迷いだ。どうせ丹楓の記憶にでも触発されて……」
 言葉の途中で勢い良く首を掴まれて止まる。
 呼吸を阻害するほどではないが、己の言葉が不興を買った事は間違いない。
「丹楓は関係ない……」
 ざわ。と、音がするように髪がざわめきながら伸び、丹恒の龍尊としての姿が顕現する。
 龍の尾が刃の足に絡みつき、丹恒の肩に担ぎ上げられて落とされた先は薄っぺらい敷き布団の上。
「刃……、俺は俺としてお前を抱いた。それ以上も以下もない」
 こいつは、これほどあからさまに情動を表に出すような男だっただろうか。丹恒は、丹楓と同一視される事を毛嫌はしていたが、ここまで怒りを見せた事はなかった。刃は今までに見た事がない怒り方をする丹恒を瞠目しながら見上げ、口を開こうとするも顎を掴まれて口づけられる。
 力で敵わない筈もない。なのに、掴まれた腕は振り払えず、差し込まれる舌を血が出るほど噛んでやればいくら何でも萎えるだろうにやらない。
 最初も、今も。

「抵抗しないならやるぞ」
「ここまでやっておいてほざくな」
 刃が忌々しそうに睨んでも、頬を紅潮させた顔では威嚇にもなりはしない。
 丹恒の唇が弧を描き、目が細まる。下らない独占欲が満たされた満足感なのかどうか。敢えて問う事はせず、頬に触れてくる指の感触を受け入れながら、せめてもの反抗に顔だけは背けておく。

 ▇◇ー◈ー◇▇

「お帰りなさい刃ちゃん」
「起きてたのか……」
「えぇ、どうなったのかなって」
 足を引きずりつつ帰ってきた刃を、カフカが紅茶を嗜みながら悠然と出迎え微笑みかける。
 顔を合わせたくない筆頭が待ち構えて居た現状に刃の顔は引き攣り、入ってきた扉から後退りで逃げようとするも、
「刃ちゃん、逃げるなら暗示かけちゃうわよ」
 口元に指を当て、嫋やかに首を傾げながら最悪の脅迫をするカフカに刃は降参する他ない。
「何が聞きたいんだ……」
 逃亡は諦め、壁により掛かりながら刃は息を吐くと距離を取ったままカフカに向き直る。
 彼女は満足そうに頷く。
「思い込みで妊娠しちゃう奴って知ってる?」
「知らんが……?」
「男性のお腹にもね、退化してるだけで子宮はあるのよ。豊穣の力なら、それを戻す事も出来ないかなって思ったの。だって、倏忽って惑星を蘇らせるくらいの力があるんでしょう?」
 話があちこちに飛びすぎて何を伝えたいのか判然とはしないが、己を孕むようにしたい意図だけは何となしに察せられた。
「それで?」
「刃ちゃんのお腹に子宮を作って、私の暗示で妊娠を受け入れるように土台を作って、龍の子の遺伝子を取り込んだ卵を刃ちゃんのお腹に入れたら出来ないかしら?赤ちゃん」
「出来たとしても断る」
 持明族には仔を成す能力が無い。
 しかし、子作りとは単純に考えれば遺伝子の掛け合わせである。生命は遺伝子という設計図に従い、細胞分裂を繰り返して形となる。その遺伝子の配合に必要な物がなければ別の物を精子、卵子の代わりにすれば良い。とは、穹を作った彼女らしい発想だ。

 丹恒はただの持明族ではない。龍尊の遺伝子を持った卵を、豊穣の生命力に満ちた腹で育てれば、それはそれは悍ましい化け物が生まれるだろう。それこそ、星核の器となる者と同等かそれ以上に。
「えー、欲しかったんじゃないの?一生懸命考えて上げたのに」
「徒労に終わらせて悪かったな」
 うっとりと夢想しながら語っていたカフカは刃の拒絶に腕を組み、唇を尖らせて不満を漏らす。それにも適当な相槌を打ち、刃は基地の中にある風呂へと向かう。

 刃は頭から水を浴び、全身を冷やしながら下腹部を掌でさする。カフカが提案したと言う事は、脚本の邪魔にこそならないが、死を渇望する刃の枷には十分になるだろう。

 丹恒は『刃』が孕んだ事を嬉しかった。と、思わぬ本音を漏らした。刃自身、嘘を吐くにしても何故あんな嘘だったのか、深く考えれば泥沼な気がして水圧を強め、何も考えないよう思考を暗闇へと沈めていく。

 今日の事は、忘れてしまおう。

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