・五騎士捏造
・師匠と丹のIQが低め
・女装?っぽいのがある
・みんな応が大好き
・狐ちゃんはお留守番
・ちょっといかがわしい
・全部、○✕応より、○→応な感じ。
ある日の事。
雲騎軍の訓練場にて。
鏡流と剣を交えていた応星が武器を弾き飛ばされ、降参の意に両手を挙げれば、
「上達はしているな」
剣首たる鏡流が褒める言葉を与え、鞘に剣を収めた。
元来、職人として剣を作る立場にある応星ではあるが、戦場に出るのであれば身を守る術は必要不可欠。景元と共に鏡流を師事し、剣を習得するべく工房の仕事の合間を縫って訓練の日々である。
「後方支援の役を担う貴様がそこまでやる必要があるか?吾が護ってやると言うに」
剣を振るう事で出来た豆が潰れ、痛みを誤魔化そうと掌を舐めていた応星の手を丹楓が取り、傷に口づけて龍脈の力で傷を癒やしながら不満と、庇護を申し出れば、
「丹楓、甘やかすんじゃない。忌み物は戦の常道など守らぬ。支援部隊を奇襲され、戦えずに一方的にやられて怪我でもしてみろ。我らならともかく、応星であれば致命傷になるやもしれんぞ」
後方を奇襲される隙など、鏡流は与える気は無いが、刹那、那由他の一でも、可能性あるとすれば、その際に傍に自身が、丹楓が側に居てやれなければ、ただでさえ儚く生が終わる短命種の灯火は散ってしまう。と、力説する。
「幸い、応星は筋が良い。このまま訓練を続ければ忌み物とも渡り合える」
「ううむ……」
鏡流の厳しい言にも一理あり、丹楓は呻るしか出来ない。
「俺も護られてばっかりは性に合わないから気にするなよ。武器を使う側も体験した方が、武器作りの参考になるしな」
傷を治して貰った感謝の言葉を述べて応星は笑いかけ、その笑顔に困ったような微笑みで丹楓は返し、無理はするな。とだけで説教を終わらせる。
「時に応星、貴様、肉がついてきただろう。剣が振り難くは無いか?」
「あぁ……、太ったかなぁ」
鏡流の指摘に、応星は眉を下げる。
剣の修練で鍛冶では使わない筋肉を酷使しているためか、逞しくなったと言えば聞こえは良いが、彼にとって、少々困った事も起こっていた。
肉付きが良くなったせいで手持ちの服が入らなくなってきたのだ。
主に胸の辺りが張り、激しく動くと釦が飛んだり、しっかり閉めていても隙間が開いて肌が見えてしまっている状態はどうにも落ち着かず、かと言って体躯よりも大きい服は動き辛さから好めないでいた。
「固形総合栄養食ばかり食べて居る奴が太るか。元々胸に肉があった状態に修練で筋肉が増えて大きくなっただけだ」
鏡流が太った発言を否定しながら無遠慮に応星の胸筋を鷲掴みにし、ふむ。と、呻る。
「六十……、いや、七十……、その間か。剣を振るう度に揺れているからな、痛くないか?気になって動きが鈍ってもいかん。何かで固定した方が良いな」
胸ばかりか、前から後ろから、大きさを確かめるように胸下や腰まで無遠慮に触りながら真剣に揉む鏡流には、応星が絶句した状態で肌を真っ赤に染めている姿は見えていない。
「さらしでも巻いとくから……、あの……、止めて……」
蚊の鳴くような声で応星は鏡流に対し、止めてくれるよう懇願するが、首を横に振られてしまい、泣きそうに表情を歪ませる。
「さらしは防御面で役には立つが、胸や腹は余り締め付けると呼吸が乱れて動きが鈍る。余計な怪我の原因になりかねん。師として許可しかねる」
鏡流はぶつぶつ呟きながら応星の胸を揉みしだき、
「ぴったりのブ……、胸当てを買ってやろう。それがいい。応星、明日、時間を開けておけ」
勝手に一人納得し、勝手に予定を決めて指示を出す。
鏡流の奇行もさる事ながら、普段は負けず嫌いで勝ち気な応星が羞恥から肌を染め、眼に涙を溜めている姿が珍しく、対人訓練をしていた兵士までもが周囲に集まりだし、余計に応星の頭は茹だっていく。
「行かない……!」
しつこく揉んでくる鏡流の手首を掴んで強制的に止めさせ、
「今日は、もう工房に戻る。世話になった」
とだけ告げて応星は訓練場を逃げるように後にする。
「師匠、今のはちょっと……、あんまりな辱めでは……」
応星を見送り、弟子である景元が師に対して苦言を呈するものの、
「辱め?私は応星の身を案じているだけだ。何が悪い?」
と、悪びれもせずに踏ん反り返って聞く耳を持たず、隣に立って傍観していた丹楓も、吾も触れば良かったな。などと戯けた呟きを溢したため、景元は頭痛が湧くような心地になった。
私が、応星を護ってやらなければ。
そんな決意を胸に、応星について回る景元が屡々目撃された。
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また別日の出来事である。
訓練場で珍しく鏡流が居らず、景元は兵の隊列を正して陣形を組んでの演習に勤しみ、応星の剣の訓練を丹楓が担当して一時間ほど経った頃。
「どうした、動きが鈍いぞ」
「あぁ、ごめん……」
謝りながら応星が、かふ。と、奇妙な咳をして、丹楓は訝しげに片眉を上げ、睨み付ける。
「体調が優れんのか?言え、どこが痛い?苦しいのか?」
圧をかけるように丹楓が応星との距離を詰め、座った眼で見詰めてくる。
「いや、ちょっと……」
応星が言い辛そうにすれば益々丹楓の眉間の皺は深くなり、余程の事かと疑念が湧く。
視線を合わせようとしない応星を強引に肩に担ぎ、丹楓は近くに居た兵士を呼ぶ。
「此奴を診るために席を外す。景元に伝達を」
「はっ……」
龍尊の言に兵士は恭しく頭を下げ、大丈夫!大丈夫だから!と、暴れる応星を担いだ丹楓を尻目に、軍の指揮を執る景元の元へと走った。
丹楓は人の居ない救護室の寝台に応星を降し、
「で、どこが悪い?」
圧を持って詰問を開始するも、応星が黙りこくっていれば顔を掴み、眼を覗き、口をこじ開け、首に触れて脈を測る。
「少々脈が速く、体温も高いが……」
特段、目に見える病を発症している訳ではなさそうで、丹楓が首を傾げて応星を見やれば、観念したように一言、謝罪を口にした。
「これ緩めれば治るから……」
応星が上着を脱いで見せれば、胸部にさらしがきつく巻かれており、鏡流が指摘した通り、慣れない圧迫感が違和感となり、動きや呼吸の阻害になっていたようだった。
「前に鏡流に散々言われて恥ずかしくなってきてさ……、撒いてみたんだけど……」
「ふむ、うん……」
さらしを解きながら応星は溜息を吐き、己の腑甲斐なさに落胆しているが、丹楓は生返事をするばかり。視線自体はさらしで出来た胸の谷間にばかり注がれており、今の心は、さらしで押さえつけられ、むっちりと肉が盛り上がっている様子が眼福である。としか考えていない。
「お前はそんなに張ってないよなぁ」
さらしを解き終わり、目の前に居る丹楓の胸に触れて応星がぼやく。
丹楓の胸部は硬く、余分な脂肪など一切無い感触を返すばかり、餅のように掴める自身との違いが解らず、自らの胸に触り、丹楓と見比べながら不思議で仕方ないようだった。
「体質もあるな。筋繊維は産まれた時に総量が決まっている。鍛えれば太くなる、怠れば細くなるのは変わらんが、総量が多ければお前のように肉が盛り上がり易い。俺は絞ってはいるが、総量で言えばお前ほど多くはないのだろう」
二人切りであるため、丹楓は多少砕けた話し方に換え、鍛え方の違いも含めて簡易的に説明してやる。
「んー……、力がつき易い、って利点があるとか?」
「力は出るだろうが、無闇矢鱈と肥大させた所で使い方が解らなければ重いだけの飾りにしかならんからな。どう力を込めれば最大限効率良く動かせるか、上手く戦えるか。それは訓練による」
応星はうんうん呻り、
「体絞るのってどうすれば?」
縋るような眼差しで丹楓を見詰める。
丹薬の知識ばかりでは無く、人間の身体にも詳しい丹楓なら答えをくれると考えたからだ。
「ふむ、先ず筋肉には遅筋と速筋という物が……」
応星はそのままでも構わないのに。とは感じながらも求められれば拒否する理由も無く、解説に口を開くと救護室の扉が激しい音を立て、鏡流が闖入してきたため二人は目を丸くする。
「どうした?」
「うむ、見てくれ。やっと完成したとの報を受けてな」
丹楓が矢鱈と機嫌良さげな鏡流へ訪ねれば、手に持っていた紙袋からどう見ても特注であろう女性の胸部を納める下着が出てきて応星はぎょっと目を剥き、丹楓はほう。と、呻った。
上着を身につけていない応星に鏡流は下着を手に近づき、
「おのこでも着け易いように華美な装飾は出来る限り省いて貰ったが、絹の艶やかさが美しいだろう?真珠のような白がきっと貴様の肌に良く映える」
応星の肌に当て、揚々と語りかける。
「は?え?俺……?」
鏡流の手にある下着、華美な装飾こそしていないが、それでも金木犀の刺繍が同色で淵にあしらわれており、見た目は上品な逸品となっている。それが必要ときた。
いつかの鏡流に胸を揉みしだかれた忘れがたい記憶が応星の脳内を駆け巡り、逃げるべし。との警報が鳴り響く中で、立ち上がりはしたものの丹楓に腕を掴まれ逃亡を阻まれる。
「一度くらい着けてやってはどうだ?」
「やだよ!」
朗らかに言われた所で、嫌な物は嫌な物。
応星は丹楓の手を振りほどこうと暴れるが、細身に見える体躯のどこに力を込めているのかびくともせず、鏡流が珍しい満面の笑みで下着を手に追い詰めてくる。
「止めろ!嫌だ!嫌だって!」
応星の拒絶の悲痛な悲鳴が部屋の外まで響き渡っていた。
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一方、景元は応星が体調を崩した知らせの後、師匠である鏡流まで合流したとの報を受け、不穏な気配を感じたため、兵に休憩を取らせて自身も救護室に向かっていれば、耳に届いた悲鳴に全身が総毛立った。
よもや、無体は働くまいと考えていたが、過分な信頼だっただろうか。
「応星⁉」
景元が救護室に飛び込めば、師と友人が大事に想う人の体を押さえつけ、強引に下着を身につけさせている光景に意味が分からなさ過ぎて頭が真っ白になってしまう。
「景元!」
応星が二人の気が逸れた瞬間に掴まれた腕を振り払い、景元へと飛び込み抱きつく。
「これ、これ!外してくれ!恥ずかしい……!」
「景元、外さなくて良い、応星に必要な物だし、似合っているだろう?」
「外してくれ、取れない!」
応星は自分でも下着を外そうとはしているが、留め具が背中についている事と、扱った経験がないせいで構造が良く分からずに出来ないでいるようだった。
師と友人からの圧を感じるが、着ている本人がこれほど嫌がっているのだから。と、震える手で背中の留め具を外し、その瞬間、応星が下着を脱いで投げ捨て、景元を盾にして背中に隠れてしまう。
「慣れた方が良いというのに……」
「なんだ、小童、血が下では無く上に回ったか」
鏡流は困ったように嘆き、丹楓は応星から下着を外す際、真っ赤な顔で鼻血を出して口元を手で覆った景元を薄笑いで下品に揶揄していたが、次の瞬間には二人の表情が凍り付く。
毛を逆立てた猫のような応星が、二人を涙目で睨みながら、
もうお前等なんか友達じゃない。
大っ嫌いだ。
そう叫び、応星を愛して止まない鏡流と丹楓に最高で最悪の一撃を食らわせたためだ。
「お、おう……、せ……」
「冗談だろう?」
「嫌い」
鏡流が剣首にあるまじき動揺を見せて声を震わせ、丹楓が顔を強ばらせて問うが、応星の答えは変わらない。
元々、嘲ったり差別をしてくる輩ならばともかく、信頼していた相手から無理強いされる屈辱、無体に応星の心は深く傷ついたのだ。今の応星は、毛を逆立てて威嚇しながら、路傍に撒かれた吐瀉物でも見るような視線を二人に向けている。
「自業自得かと……」
鼻血を袖で拭い、自身の円套を応星に着せて景元が応星を別室に連れて行く。
心配は理解出来ても、行動は理解出来ない。戦を前にして五騎士がばらばらになったらどうしようか。
景元の心労は尽きない。
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「応星や、開けて顔を見せてはくれまいか……」
工房の前に立ち、鍵がかけられた扉を力なく叩く鏡流の姿。
隣には丹楓も居り、相変わらずの腕を組んだ直立不動の姿勢の良さを保っているが、龍の尾が体に巻き付いて先端が忙しなく動いている様子から、緊張と落ち着かない精神状態が伺い知れた。
工造司の面々は、剣首と龍尊が揃って何事かとどよめき、それを無視して籠もって作業している応星にも戦いていた。
「今日も駄目か……」
「うむ……」
何度訪ねてきても二人に顔を見せようとしない応星に気落ちし、帰って行く。
また翌日も二人が応星を訪ね、締め切られた扉に諦めかけた所、工房の引き戸が大きく開き、顔に隈を貼り付けて薄汚れた格好の応星が顔を出して二人の手を引き、工房内に引き込む。
「お前等、いい加減にしろ。自分たちの影響力を考えろ……、俺なんかに……」
「あれから我らも反省したのだ。貴様のためを想ってとは言え、無理強いは良くなかった」
「すまなかった……」
鏡流は体を丸めて悄気返り、丹楓も頭を下げた。
歴代最強を誇る剣首と傲岸不遜で知られる龍尊が揃って頭を下げる。しかも短命種に。見るものが見れば天変地異が起こってもあり得ない自体だろう。
「いいよ。俺も嫌い。なんて大人げなかった……」
二人の奇行に気が動転したとは言え、叫んで暴れて泣き、景元に縋り付く。
憂さ晴らしに武器を大量に作り続けた事で頭は数日で冷えたが、後は恥ずかしさもあって訪ねてくる二人に扉を開けてやれなかったのだ。
今日、ようやっと開ける気になったのは景元からの知らせによるものだ。
曰く。
・龍尊と剣首を足繁く通わせる短命種が居るらしい
・五騎士に選ばれた短命種が剣首と龍尊を弄んでいるらしい
・いや違う、龍尊が短命種を妻に迎えようとしているらしい
・いやいや、剣首が短命種を見初めたらしい
・美貌の短命種を剣首と龍尊が取り合っているらしい
・龍尊や剣首から求婚されても首を縦に振らない短命種が居るそうだ
・短命種のためなぞに互いを出し抜こうと、龍尊と剣首の仲が悪化しているらしい
・剣首と龍尊は、既に一触即発の状態らしい
・五騎士に選ばれた短命種は、人心を惑わす傾国の気があるらしい
徐々に悪化していく噂に、意地を張っている場合ではないと判断して扉を開ける気になったのだ。
「あのさ、もう俺も怒ってないし、変な噂にもなってるみたいだから今まで通り仲良くしよう」
「では、嫌いは撤回してくれるのか⁉」
丹楓が珍しく声を荒げ、鏡流が期待の眼差しを向ける。
「撤回するよ。もう喧嘩は止めよう。でも、友達が嫌だって事は止めような」
「うむ、肝に命じる」
「心得ておく」
剣首と龍尊に説教が出来る短命種など仙舟広しと言えど、どこを探しても応星だけで、また二人が素直に従うのも応星だけであろう。
「明日からまた訓練に参加する。個人的な問題で穴開けて悪かった」
「うむ、またばしばししごいてやる」
「怪我したら無理せず俺に言えよ」
三人で手を握り合い、約束を交わし、喜色満面で帰る二人を応星が見送り、一つ大欠伸。
気の済んだ応星が家に帰り、風呂で身を清め、寝床に入った頃、また新たな噂が流れ始めていた。
「今度はこれか……」
密偵の報告に、景元は頭を抱える。
”龍尊と剣首で例の短命種を互いの妻として共有する事にしたらしい〟
噂の根幹は、応星が鏡流と丹楓を工房に招き入れた後、剣呑な雰囲気を纏っていた二人が機嫌良く帰ったため、瞬く間に憶測が広まったようだ。
人の噂も七十五日。下手に抑制すれば真実と誤認させる羽目になる。放っておけば騒がしいお喋り雀たちは飽きて次の噂を始めるだろう。
「だが少々、悔しいな」
景元とて応星を少なからず想っている。
鏡流と丹楓ばかりが注目されている現状に嫉妬してしまうのは、まだ大人に成りきれていない査証なのか。
応星と出会った頃の景元はまだ体躯は子供であったが、月日が経って知将として名を上げ、今や五騎士として肩を並べる立派な偉丈夫となっている。一歩出遅れた分くらいは取り戻せるはずで、皆の前で応星に口づけて参戦でもしてみたらどうか。
悪戯を考える悪童のように景元は喉を鳴らして笑い、自身を小童と揶揄った丹楓への意趣返しを考え出すのだった。