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スターレイル用

龍が陥落した日

・開拓者が要らん事して丹恒と刃ちゃんに迷惑かける話
・楓応前提の恒刃
・媚薬系?のうふんあはん
・師匠同行前くらいのイメージ
・一行分くらいちょっとグロ表現
・きゃっきゃうふふハンター’s
・R18




「ねぇねぇ、刃、なんか凄いメッセ来てる」
 自室で眠っていた刃を銀狼が揺り起こし、目の前にスマートフォンを突き付けてくる。
 また勝手に使っていたのか。思うと同時に、近すぎて何も見えなかったため、目に眩しい端末を手で押して遠ざける。
 そこには、星穹列車に居る穹から『刃ちゃん助けて』なる救援信号だった。何やら長々とは書いてあるが、寝惚けた頭では読む気にもならない。
 刃は眠気の残る目で『知らん』とだけ送ると背を向けた。
「んじゃ、また貸してね」
「夜更かしは程々にしておけ」
「はぁい」
 刃の小言に銀狼が面倒そうに返事し、端末を持って出て行く。しかし、銀狼は短い悲鳴と共に踵を返して戻ってきた。
「随分、必死みたいだよ。読むだけ読んで上げたら?」
 どうやら即返って返信の振動に驚いたようで、文章の一部も見てしまったようだった。
 刃は渋々と起き上がり、スマートフォンを手にしてメッセージ欄を開く。そこには『丹恒が大変な事になったから助けてくれ。刃ちゃんにしか頼めない』などと書かれている。

『知らん。
 景元にでも頼め。
 同盟関係なのだろう?』

 先の任務に於いての戦闘で消耗しすぎたためか体は酷く気怠く、失血の激しさを物語るように動くと頭もふらついた。
 囮として敵のど真ん中に飛び込んで腕を失い、胸を貫かれ、頭は吹き飛び、何度死んだかも覚えていない。刃は不死の先兵として。死して尚復活を繰り返し、敵を恐怖に陥れ、己が辿り着けぬ彼岸へ敵を送る事を役割とする。寧ろ、それ以外にこの身を役立てるような役割があるのか。
 害する敵を屠るだけであれば星穹列車には正当な支援者が居るだろうに、何故、星核ハンターのような犯罪者集団に救援を求めるのか意味が分からなかった。

『最初に景元に助け求めたら『刃に頼んでみたらどうだ』って言われたんだ。』

 現在の星穹列車を支援するに最高の権力を持った人物と言っても過言ではない羅浮将軍自ら指名されていたとは思わず、刃は目を擦って何度か読み返す。しかし、何度読んでも『景元』の名前はしかと確認出来、意図が分からなさすぎて、あのふてぶてしい笑顔が頭に浮かぶ。

 スマートフォンの画面を遡り、先に書いてあった詳細を確認すれば実に呆れる内容だった。
 穹が面白いものが出来ないか合成で適当に配合していたら非常に甘くいい匂いのする飲み物が出来たため、何の確認もせずに丹恒に飲ませてみたら異常な発熱に加えて呼吸が乱れ、部屋に籠もって出て来なくなってしまったそうだった。
 廊下から声をかけても『放っておいてくれ』の一点張り。それで医療にも秀でた仙舟、引いては景元を頼ったものの、彼は刃に丸投げしてきたという訳だ。

 刃は重々しい溜息を吐いた。
 景元自身、ないし持つ権限では解決出来ず、刃ならば解決出来る案件。
 丹恒が死にかけているのであれば『看取ってやれ』とも解釈が出来るが、生命の危機的状況であれば、『閉じこもって出て来ない』などと悠長な言葉は出ては来ず、景元ももっと直接的な言葉を用いて促しているだろう。
 生命活動に問題は無い。だが、丹恒の体には、通常の治療では役に立たない別の問題が発生している。と、推測出来る。

『刃ちゃん、お願い。景元が言うんだから何か方法知ってるんだろ?』

 限られた情報での想像になるが、生命活動に問題が無く、発熱や呼吸異常が出たのであれば興奮剤の類いを誤って飲ませたと考えて良いのではないか。
 この体の持ち主が応星であった時代に、面白半分で作った奇物が可笑しな動作をして丹楓が狂った事があった。ぼんやりとした記憶になるが、応星は一晩どころか数日離して貰えず、自業自得とは言え、それはそれは非道い目に遭っていた。
 単純に『行きたくない』。景元もそれを覚えていたから刃へ丸投げしたのではないか。今回、しでかしたのは刃ではなく、何の責任もありはしない。列車の誰かが体を差し出して丹恒を慰めればいい。

 そこまで考えると、無性に胸がむかむかしてしまい、刃は小首を傾げて髪を弄る。
「じーんちゃん」
 刃も体調が万全ではないのだ。わざわざ面倒事を抱えてやる義理もなく、助けてやる道理もない。どう返事するか悩んでいれば、カフカが銀狼の開けっぱなしにした扉を叩いて声をかけてきた。
「なんだ」
「脚本に支障が出るかも。ってエリオが」
 向こうから道理が歩いてきた。
 カフカの幽艶な笑顔が憎らしく感じる日が来ようとは。

『仙舟から離れ、▇▇に跳躍しろ。向かう』

「察しが良くて助かるわ」
「光栄だな」
 手短に穹へ指示を出し、億劫そうに刃が寝台から降りて立ち上がれば、その行動へカフカは満足気に頷き、こちらも跳躍の準備に向かった。
「糞餓鬼め。余計な真似を……」
 奇行ばかりの少年を脳裏に描き、刃は毒吐く。
 一体何を合成しようとしてそんな物を作り出したのか。

 先を思えば着脱が容易な服装が良いと考え、刃は常の黒く厳めしい服装ではなく、体を締め付けない大きめの白いニットセーターに黒いボトムを適当に穿き、長い髪を赤い紐で纏めて前に流す。

 既に、丹恒はのっぴきならない状態になっているだろう。
 念のために準備を進め、刃は到着を待った。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 指定の惑星、場所に停まっていた星穹列車へ刃は来訪し、縋りつこうとする穹をあしらい、ラウンジに集まっていたパムを含む仲間達に、別の場所へと移動するよう指示を出しながら資料室の前に向かう。
「飲月、居るなら出て来い。他の人間は居ない」
 矜持の高い持明族の気質は丹恒にもしかとあり、興奮する無様な姿を仲間に見せたくないのだ。
「何故お前が……」
 扉越しにも解るほど声が上擦っており、相応の時間が経っても興奮が未だ落ち着いていない事実を伝えてくる。
「貴様が無駄に耐えているせいで、俺にお鉢が回ってきたんだ。迷惑な事にな。さっさと出て来い」
 警戒するように薄く開けられた扉から室内の空気が廊下に漏れ出せば、精の匂いが微かに鼻につく。自分でどうにかしようとしたのだろうが、どうにもならなかったのだ。丹恒は、仲間が近くに居る状況で自慰に耽溺するには堅物過ぎる。
「移動するぞ」
「どこに?おい……⁉」
 空いた隙間に手と足を差し込み、扉を強引に開いた刃は丹恒に宣言すると、彼を軽々と肩に抱えて外に出る。
 列車が停車するように指示した場所は閑散とした平原だが、少し進めば森があり、この惑星の人間が保養地として使用し、ハンターが時折、拠点として使うバンガローが建っていた。
 丹恒を担いだ刃は目眩がする頭を押さえ、ぎゃあぎゃあと喚く声を無視して歩く。

「ではやるぞ」
 バンガローに着いた刃は寝所へと歩を進め、肩に担いだ荷物を広い寝台へと放ると、何の情緒もない言葉を吐いて服を脱ぐ。それに何を想像したのか、丹恒は身を守るように槍を出して刃へ威嚇する。
「下らん真似をするな。別に貴様をどうこうしようは考えていない」
 男同士の性交に掛かる準備は実に面倒なものだ。
 諸々、限界な丹恒の体を弄るよりも、男に抱かれた経験のある自身の体を使った方が効率は良く、強制的に興奮させられて疲弊した状態での威嚇など何一つ脅威ではない。

 恥ずかしげも無く服を放り出して全裸になった刃が丹恒の槍を奪って壁に立てかけ、寝台に座る。
 繰り返すが刃も本調子ではなく、魔陰を抑えられている関係もあって意識はどこか微睡んでいるようではっきりしない。刃は軽く疲れを吐き出すような呼吸と共に、寝台の隅に逃げている丹恒の腕を掴む。
「手間をかけさせるな。俺はさっさと終わりたい……、目でも閉じて適当に好みの女でも想像してろ」
 刃は腕を引いても抵抗する丹恒の胸ぐらを仕方なく掴み、寝台の上に引き倒すと腰のベルトを上手く動かない手でぎこちなく外し、灰色のズボンをずらして飛び出してきた男性器を口に含む。

 そのまま跨がって自身の内に収めても良かったが、己が命を狙って追い回していた関係上、常に警戒していては女性経験も積めず、仲間の女に手を出すとは考え難い。となれば童貞な訳で、いきなりは驚くだろう。と、語りはしないが刃なりの気遣いである。

 丹恒の端正だが、まだどこか幼い顔立ちに似合わず剛直なモノは刃の口には収まりきらず、先端や竿を唾液で濡らしていけば、
「なんで、そんな真似を……」
 息を弾ませながら、丹恒は訝しむ。
 刃と丹恒は恋人でも何でも無く、元々命を狙う者、狙われる者として敵対していた。
 それが、請われたからとしても体を差し出してくる理由が丹恒には想像が付かなかった。
「貴様を放っておくと、脚本に支障が出るそうだからな。仕方ない」
 カフカは何も教えてくれなかったが、このまま丹恒を放っておけば薬の効果に抗えず、仲間を押し倒して関係が悪化し、旅が続けられなくなる。或いは、仲間をそんな対象として見る事に耐えかねて列車を黙って去ってしまう。などの展開が予想出来た。
 刃がエリオの脚本通りに終焉を得るには、丹恒に去られては困るのだ。それを防ぐためであれば、こんな化け物の体を差し出すなど苦でもなく、理由は利己的で、決して丹恒を想っての行動ではない。
 そんな刃に対して、丹恒の表情は複雑で、何と言えばいいか解らない様子だった。
「目を閉じてれば感覚は女と変わらんだろう。やってやるから寝てろ」
 刃は全身に残る傷の為に性的不能者であり、丹恒同様、女性経験は無いものの、女の膣も所詮は内臓であり、感触は然程変わらない筈と判断した。故に、目を閉じておけ。と、再三言っているのだが、丹恒は目を閉じるどころか瞬きもせずに刃を見詰めている。

 やりづらさを感じながらも刃は丹恒に跨がり、身の内へと性器を誘って腰を落とす。
 痛み、性感も碌に感じづらい体でも、内臓を広げられる圧迫感はあり、ある程度準備はしてきたが、それでもきつさを感じて刃は眉根を寄せながら細く吐息を零す。
 ゆっくりと受け入れ、根元まで丹恒の性器を迎え入れると動きを止めて考える。

 応星は、これからどうしていただろう。

 刃に性的な経験は無い。女どころか、男性に抱かれた経験も自身にはなく、動作も丹楓に抱かれる応星を思い出しながらの拙い動きになる。
「ん……」
 刃は悩みつつ丹恒の腹に手を置き、腰を揺らす。
 丹恒は、相変わらず刃を見ているばかりで、性感を感じているかも解らない。
 それでも、性器を身の内で擦っていればいつかは出るだろう。とばかりに刺激を与えようとする。

 刃は懸命に応星の記憶を探るも、殆どは丹楓に抱き竦められながら彼の人ならざる体力に翻弄され、只管に啼き喚くようなものばかりが浮かぶ。
 応星にも肉欲はあり、愛していたからこそ受け入れはしていたが後悔もかなりあった。短命種と不朽の龍。肉体的に差がありすぎたためだ。例の奇物で丹楓が暴走してしまった時など、いっそ死を覚悟したほど。
 それは、丹楓が治癒の術が使えたために命は繋ぎ止めたが、故に終わらない地獄でもあった。快楽にどっぷりと全身を浸され、気絶しても刺激で無理矢理覚醒させられ、喉が枯れるほど喘ぎ、再び気絶する。丹楓の腕に抱かれ、縋る背中に爪を立てながら何も考えられず、その時間が永遠に続くようにも錯覚して泣きじゃくってしまった筈だ。
「たん……ふ……」
 応星が泣き出してしまってから、丹楓はどうしたのだったか。
 気もそぞろになりながら思考に耽ってしまい、考えていた名前がうっかり口からまろびでた。瞬間、刃の視界は勢い良くひっくり返されて眼前に丹恒の顔が迫る。
「俺は……、丹楓じゃない……」
 丹恒が歯噛みし、眼が青白く光る。
 吐く息が火炎のように熱く、体の周囲に燐光が立ち上り、艶やかな黒髪が伸び、角が生え、龍の尾がゆらりと揺れる。
 刃の呟いた言葉を切っ掛けに、龍の気が暴走して龍尊としての姿が顕現したようだった。
「まっ……⁉」
 制止しようとした言葉は唇に噛み付かれて喉奥に消え、ぬる。と、長い舌が潜り込んで腔内を舐り、喉奥を擽る。唇を塞がれて呼吸が出来ず、刃は丹恒の服を掴んで引くも膂力では負けていないはずが、しかと頭を押さえ、手首を掴む手は外れない。
「ぁ……」
 丹恒の唇が離れれば、かひゅ。と、喉を鳴らし、刃は激しく胸を上下させて呼吸する。
「飲月……、じっとしていろと……」
「黙れ、俺はあいつの代わりじゃない」
 丹恒にとっての丹楓は別人でしかなく、己に身を差し出しながら他の男の名を呼ぶ刃に異様なほどの怒りと、『俺だけを見ろ』とする独占欲が際限なく膨れ上がっていく。
「今、お前を組み敷いているのは俺だ」
 若い龍は、興奮剤の強制的な性感に抗おうとしながらも、性器を締め付ける肉壺の心地好さを手放せなでいる。
 ほんの今し方まで、こうではなかった。『やってやる』と、豪語する割に考え込みながらの動きは拙く、耐えられる範疇であった。が、肉感的な肉体を組み伏せて激しく体内を抉りながら突いてやれば得も言われぬ快楽に襲われて丹恒は夢中になる。

 先走りと、刃が直ぐに済ませられるよう後孔に塗布した油が混ざり合い、ぐちぐちと猥雑な音が鳴り、抜けそうなぎりぎりまで性器を引いて、奥へと叩き付ければ刃の腰が跳ねて鋭くも細い声が上がる。
「いんっげ、つ、やめっ、ぁ……!」
 刃の呼吸が弾み、声は上擦って震えて性感を得る様を丹恒に見せつける。
 幾ら刃が痛み、性感に鈍いと雖も、しつこく体内を嬲られれば剥き出しの神経に直接快楽を叩き付けられているも同然で、背筋を駆け上るような悪寒にも似た刺激に涙を浮かべる。
 丹恒は、快楽から逃れようと暴れる刃の腕を龍爪が食い込むほど強く掴み、深く呼吸をすると身を震わせて精を体内に吐き出した。心臓が激しく鼓動を打ちながらも、全身の力が抜けるような開放感にうっとりと眼を細め、額を刃の胸に擦りつけて項垂れる。
「飲月、もう……、いいだろう、抜いて……」
 丹恒が達した事に気がついた刃が体を離すよう求めるも、彼は刃を離そうとせず腰を揺らす。
「足りない」
 言葉通り、より快楽を求めて律動する丹恒の性器は剛直を保っており、丹恒は全身で刃の肉体を味わおうと胸、腰に手を這わせ、掻き抱いて首に牙を立てた。
「きもちいい……」
 皮膚が破け、血が浮くほど噛み締めた牙が首から外されると同時に、どろどろに欲を煮溶かしたような声が刃の鼓膜へと届き、足には龍の尾が絡み、悦楽に溺れて淀んだ天藍石の瞳が刃を捕らえ、濡れた体内を蹂躙する。

 丹恒の飲んだ興奮剤の効果が伝播したかのように体が火照り、刃は口から出そうになる気味の悪い声を耐えるために己の指を噛み絞め、肉欲を貪る龍から顔を背けていたが、それすら許さないとばかりに顎を掴まれ、唇が触れ合う。
 余程、感触が気に入ったのか、口付けすらしつこい。

 次第に、刃の鈍い五感が宙に浮くような感覚に襲われ、腰が跳ねて目の前が明滅する。
 全身が脱力して寝台に手が落ち、意識が眩む。視界が収縮して閉じていき、意識が飛ぶ兆候に不味い。とは思えど抗えるはずもなく、刃の瞳は閉じてしまった。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 刃の意識が覚醒し、重い瞼を上げれば目の前に丹恒の顔があった。
 眼を動かして下腹部を見れば体はしっかり繋がったままで、意識が飛んだ人の体で遊んでいたらしいと知れる。
「龍と言うより盛りの付いたけだものだな……」
 刃がぼそ。と、率直な感想を呟くと丹恒の表情は強ばる。
 丹恒自身、意識を落とした刃を見て行為を止めようか過りはしたが、脱力して目を閉じた顔が思いの外幼く、愛らしく見えて頬を撫で、欲求のままに目元に口付けて身じろげば、意識がある内は堪えていた声が押し出されて漏れた。

 抑え込んだ獣の威嚇にも似た唸り声とは違う、掠れた甘い喘ぎがもっと聞きたくなり、止める選択肢が消失した丹恒は刃の体を余すところなく愛でていた。刃が覚醒した今、非難するような眼差しに気不味い心地になっている。
 興奮剤の効果のせいに出来れば良かったが、刃の体内には既に数度、欲の証が吐き出されており、丹恒の頭も肉体もほぼ正常に近づいている。にも関わらず、彼は刃の体を弄んだ。余程、離し難かったようだ。
「まだやりたいのなら早くやれ」
 刃は上体を起こそうとして目が回りそうになり、寝台に力なく横たわったまま丹恒から顔を背けて投げやりに言う。今は、とても動けそうになく丹恒が勝手に自身を犯して満足して終われば良し。と、切り替えたのだ。
「刃……」
 それをどう受け取ったのか、丹恒が刃の片目を隠す髪を指で梳き、さも恋人かのように撫でた。刃は考える事すら億劫で、ぼんやりと丹恒の行動を見守る。
「きちんと責任は取る……」
「要らん……」
 一度寝た程度でとるべき責任など存在しない。
 仔を孕む女でもあるまいし、欲求の使い捨てにすればいいのに余計な事に気を回す。
「俺は、人の肉に包まれているだけの武器であり、道具だ。ただの物をどう扱おうと憐憫など抱かんだろう?壊れるか、不要になれば捨てるだけだ」
 そうだろう?刃が言葉を終えると、丹恒は苦しげに表情を歪ませた。
 あまりにも不要な感情だ。

 応星は豊穣の怪物を憎んだ。
 忌み物を殺すための武器を作り続けた。
 倏忽に呑まれた際、彼が何を思ったのかは解らない。
 だが、忌み嫌った長命へと堕ちた際に、自らを依り代として最後の武器を造り上げたとしたら。それが己だとしたら、彼は今際の際に最高傑作を造り上げた。

 永遠に豊穣の怪物を己の内に閉じ込め、止まぬ苦痛を与える肉体を以て苦しませ続ける容れ物として。
 どれだけ敵を打ち据えようとも壊れず動き続けられる武器として。摩耗しながらも壊れる事を赦されない刃。怪物が壊れる事を望めば望むほど、成せない苦しみに藻掻くのだ。彼にとって至高の復讐だろう。

「やらんのか?」
「少し、このままで……」
 丹恒が刃を抱き締め、首元に顔を埋めて肌を密着させる。
 抱き締められて肌が合わさる場所は暖かく、黙って受け入れていればぐらぐらと回る意識は再び落ちて、刃は目を閉じた。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 刃が目を覚ませば見えた物はバンガローの天井で、胸の上に黒い塊が乗っている。
 何度か目を瞬かせてよくよく見れば丹恒が人の胸を枕にして眠っており、右手は腰に回され、左手が胸を触っているのは無意識なのか。

 姿は髪の短い少年に戻っており、一応なりとは欲求が解消され、疲労から眠ったのだろうと推測される。
 刃は丹恒を押し退け、寝台から降りようとしたのだが、立ち上がろうとして足に力が入らず、派手な音を立てて倒れてしまった。音に驚いて丹恒が飛び起き、刃へと駆け寄る。
「大丈夫か……?」
「放っておけ……」
 足に力を入れようとしても震えるばかりで芋虫のように這わねば動けそうになかった。
 刃が掠れた声で丹恒を拒絶し、腕の力だけで動こうとすると彼は龍身となり、自身よりも大柄な体躯を横抱きに抱え上げる。
「おい……」
「どこに行きたかったんだ?連れて行く」
「ふろ……」
「場所は?」
 刃を抱えたまま寝所から出て場所を問う丹恒に、最早何を言っても無駄だと感じたため無言で正面にある扉を指差し、連れて行って貰う。
 半透明の尾が抱えられた足首に絡みつく様に丹恒の思考を図ろうと伺うも、顔自体は無表情でどんな感情を抱いているのかは解らない。

 浴室はバンガローにしては広く作られており、浴槽に下ろして貰った刃はシャワーの取っ手に手を伸ばして湯を出せば、最初は冷たい水が肌を打ち、直ぐに暖かい湯が流れ出した。
「後は一人でやれる」
「俺も入る」
 列車に帰ってから入れ。と、言いかけた刃だったが、精の匂いを漂わせての帰還は憚られるだろう。
「なら貴様が先に……」
「一緒に入ればいいじゃないか?」
 当然のように言い放つ丹恒に、一度寝た程度で距離感が変わりすぎではないのか。と、刃は思いつつも全てを諦めて口を噤んだ。未だ興奮剤の作用で感覚が可笑しくなっているだけなのだと己に言い聞かせて。

 一緒に。そう言いつつも丹恒は刃の髪を丁寧に洗い、汗に汚れた肌を泡のついた掌で撫でて流していく。
「世話などしなくていい……」
 不埒な手つきでは無いにしろ、触れてくる手に反応しそうになり、浅ましい体を知られたくなくて刃は丹恒の肩を押す。
「自分で動くのもきついんじゃないのか?」
 元々の不調に加えて激しい性交渉による脱力感。
 言葉通りではあるが、下腹部までは弄られたくないと断り、刃は浴槽で、丹恒は洗い場に別れて体を流す。

 互いに泡を流すと丹恒は刃を抱えようとしたが、体が温まった事で幾分緩和された事を理由に拒否をした。
「体を拭いてさっさと列車に帰れ。貴様の帰る場所はそこだろう」
 頭からバスタオルを被り、一々構おうとしてくる丹恒から簡易的な籠城をする刃に対して彼は解りづらい程度に口角を下げる。
「お前も、列車に来ないか……?あそこは万人に開かれている」
「貴様はそれ程までに愚かだったか?」
 仮令、万人に開かれていたとしても、他者を害し、奪い、罪を重ねた存在を留めるほど甘くはない。
 足をふらつかせながら、壁を支えにして刃は全裸のまま居間へと出る。

 入り口から正面、風呂を出た刃から左手側にある石造りの暖炉へ向かい、火を付けようとしたが上手くいかずに息を吐いて床に転がると目を閉じた。
「そのまま寝るつもりか?」
「眠い」
「そうか……」
 薄く目を開きはしても動くつもりは毛頭なく、頭から濡れたバスタオルを被ったまま丸くなる刃を尻目に、着替えを終えた丹恒は暖炉脇に置かれた薪を格子状に組むと手慣れた様子で火を付ける。
「器用だな」
「星穹列車に拾われる以前は、あちこち放浪していたからな」
 一度火が起こればじんわりと空気を暖め、熱は刃の濡れた体を乾かしながら眠りに誘う。抗う必要性もなく、丹恒が頭を撫でる感触を受けながら、刃は緩やかに瞼を閉じた。

 ▇◇ー◈ー◇▇

 肌寒さに目を覚ました刃が体を起こし、頭からバスタオルを落としながら周囲を見渡せば室内は暗く、人の気配はない。

 刃は寝所までふらふら歩き、投げ捨てた服を着て、絡んで寝癖の付いた髪を指で梳いて雑に纏める。
 ほんの数分ほどぼんやりとしていれば空腹を訴える腹を摩り、刃は欠伸をしながらカフカに連絡し、迎えを頼む。

 疲労困憊で戻ってきた刃の髪の状態を見てカフカは憤慨するも、刃は構わず舟の厨房に行って食料を漁り、両手に抱えてラウンジで次々に食べ進める。
「もう、刃ちゃん折角綺麗な髪なのに、ぼさぼさじゃない。きちんと乾かさないで寝たでしょう」
「うん……」
 刃が果物や簡易的に食べられる食料を食べる背後ではカフカが髪に香油を塗り、解しながら櫛を入れていく。
「そうしてると刃ってでっかいワンコみたいだね」
「可愛いでしょ?」
「うん、可愛い可愛い。刃、スマホ貸して」
 丁寧に櫛で削り、さらさらで指通りも良くなった髪にご満悦のカフカに対して雑に相槌を打ち、銀狼は刃に手を差し出す。
「ん……」
 ポケットに入れていたスマートフォンを銀狼に手渡し、刃は棒状のチョコ菓子を囓りながら、中々空腹が癒えない体に、消耗の激しさを思い知る。
 元々の消耗もありはしたが、これを短命種の体で受け入れていた応星は堪ったものではなかっただろう。幾ら鍛えても体力は追いつかず、食べても消耗を完全に癒やすには足りなかったのではないか。なのに、応星は食事を忘れて作業に没頭する事も多く、身長の割に『痩せ過ぎ』と、常々苦言を呈されていたが、本人が望んだとて太れなくて当然だった。

 丹楓は、この事に関して何を考えていただろう。
 今まで想像すらした事がなかったが、余計な経験をしたせいか頭の中が煩い。

 表面には現れ難いが、丹楓の個に向ける情は限りなく重々しい。己の欲求を受け入れようと尽力するも、毎度、気をやってしまう恋人を憂いていた筈で、丹薬でも滋養強壮の漢方でも短命種の肉体には限界がある。

 想像を巡らせていくと嫌な予感が不意に過る。
 白珠が命を落とした際、嘆く応星に丹楓は彼女をそのまま転生させられる可能性を提示した。
 持明族の長老たる龍師等が握っていた秘事。出来る可能性があったとしても、誰一人として実行した事実は存在しない。丹楓は、何故それを知り、直ぐに実行出来るほど研究を進めていたのか。本来は別の人間に使うつもりだった秘事を白珠に用いたのではないか。命短き者の定めを覆すための術を。
「刃ちゃん大丈夫?顔色が悪いわよ」
「なんでもない……。カフカ、次の任務は何がある?」
 刃は林檎を丸ごと囓り、思考を切り替えようとカフカに訊ねる。
 既に終わった過去を思い、たらればを考えても失われた時間は取り戻せない。
 生命を玩弄し、運命をねじ曲げ、掛け替えのない存在を化け物に変えた己等の宿業は変えられない事実。
「出来れば、今直ぐがいい」
 何も考えなくて済むように。
「回復してるようには見えないけど、いいの?」
「構わない」
「そ、じゃあ、今向かってる所だから、お腹いっぱい食べて準備しなきゃね。まだ食べるなら簡単に作って上げるけど?」
「頼んだ」
 刃は目の前に置いた食料を次々に己の胃に押し込み、カフカが作ってくれた食事も平らげて腹を満たすと戦闘用の服に着替え、剣を持つ。

 刃は常に己の死を顧みない戦闘を行い忘我となるが、今回はカフカにも『やり過ぎ』と、言われるほど荒々しく、目のつくもの全てを壊滅の腕へと誘っていく。
 無論、カフカがそれを止める事はない。

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